第6話 逃がさないよ、絶対に
完全武装したシンデレラは恐る恐る部屋を出て舞踏会へと向かう。化粧っ気はないが地下室暮らしで日光を浴びていなかった肌はシミ一つなく輝いて見える。
流石にカボチャの馬車は用意できなかったが、普通に馬車を使用人に頼んで家の前で待たせていたので、シンデレラはそれに乗って城へ向かった。スカーレットとヴァイオレットの二人もそのすぐ後ろを馬車で追う。使用人たちは姉妹の奇行を訝しがりこそすれ命令を忠実に守るよくできた使用人である。
シンデレラが舞踏会の会場に着くと、遅れてきたせいなのかシンデレラが美しすぎるせいなのか、すぐに視線を集めた。何人か声を掛けようと近づいてくるが、壇上からもう一人、王子が下りてくるのに気が付くと、海を割るようにすっと脇に避けていった。
「お名前を伺ってもよろしいですか?」
王子がシンデレラの手を取った。それを扉の陰から見守っていた二人の姉は、とりあえず一山超えたと胸を撫でおろす。
そのあともシンデレラは王子を独り占めにしたが、あまりにも様になるその組み合わせにまわりから非難されることもなく、楽しい舞踏会の時間が過ぎていった。
しかし楽しい時間はいつまでもは続かない。
魔法が切れる、とは言えなかったが、原作順守のために小鳥(姉)たちはシンデレラに十二時までの戻ってくるように言い含めてあった。そうしないと靴を忘れて劇的な再会を果たすことができないのだから。
ゴーン、ゴーン、と十二時を告げる鐘の音に気がついたシンデレラが、名残惜しそうに王子に別れを告げる。
「申し訳ありません、事情がありまして、今日はこれで失礼させていただきます」
「いやいやいや、何言ってんの?今から帰る?マジで?俺王子よ?部屋行こ?」
「え、ちょっとキモ…」
ちょっと王子の素が出ちゃっている感じで引き留めようとしたが、少し身の危険を感じたシンデレラはその腕を振りほどいて会場を後にした。
当然王子も追うが、意外と素早いシンデレラを捕まえることはできなかった。
王子はすぐにほかの招待客に囲まれて、自分が読んだ手前もあり無碍にはできなかったのだ。
ところでこの会場、一階にあるために途中で階段に躓くというようなこともなく、シンデレラが会場の外へと飛び出してきてしまったので、ヴァイオレットがとっさの判断で足を出し、シンデレラを転倒させる。
しかしかわいい妹を本当に転ばせるわけにはいかないので、スカーレットがさり気なく前に入って倒れないように支えた。
「ちょっと!危ないじゃないの!気をつけなさい!」
一応形ばかりの非難をするが、ふわっと香るシンデレラの香りが直撃して鼻血を吹かないように必死だった。
そうして首尾よく会場には靴だけが残され、シンデレラは町へと消えていった。
「…逃がさないよ、絶対に」
残された靴を拾った王子のつぶやきが聞こえてしまった二人は少し背筋が凍える気がしたが、気のせいだと自分たちに言い聞かせて家路についた。
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