第4話 ちょっと何を言ってるかわからないですね

 それから三年の月日がたった。

 スカーレットとヴァイオレットはともに19歳、シンデレラが16歳の時である。


 屋敷の庭でお茶会をしていた母親と三人の姉妹のところに執事の男がひどく慌てた様子で駆けてきた。


 ついに来たか、とスカーレットとヴァイオレットの顔に緊張が走る。


 二人の新しい父となったシャルルは貿易で富を築いている。世は大航海時代らしく、船を無事に目的地と行き来できればそれだけで大きな富が得られるようだ。

 そんな中、父は新しいルートを開拓するために先月から家を空け、船に乗っていた。

 出がけに


「そうだ、今度の航海がうまくいったら私たちが家族になって三年のお祝いに画家を読んで大きな肖像画を描かせよう。ロビーに飾るために」

と言っていたので、あれは死亡フラグじゃないのか?と姉妹で相談していたのだ。


 果たして。


「旦那様の乗った船が消息を絶った、と会社の者から連絡がありました」


「……そう」


 母メルルはというと落ち着いたものだ。彼女にしても、いつかこんなことがあるかもしれない、という予感があったのかもしれない。しかしどんなに取り繕ってみても、その手は小さく震えている。娘の前では気丈であろうとしているのだと分かった。


 横を見るとシンデレラはきゅっ、とスカートを強く握りこんでいた。彼女にとってはこの家で暮らす唯一血を分けた家族を失ったのだ。その心中察するに余りある。


 それから、一家の暮らしは激変した。

 母親が再婚相手の連れ子であるシンデレラに意地悪をし始めた…というわけではない。いや、ある意味では意地悪なのかもしれないが、三姉妹の中で最も美しいシンデレラに次から次へと縁談を持ってくるようになったのだ。


「いかん、このままでは私たちのかわいいかわいいシンデレラがどこの馬の骨ともしれない男に嫁がされてしまう」

「絶許」



 この三年でスカーレットとヴァイオレットはすっかりシンデレラにまいっていた。

 生来の可憐すぎる見た目と時折見せる二人を気遣った完璧な妹ムーブに、ただでさえ妹ラブだった二人はすっかり骨抜きになってしまっていた。


 そして苦渋の決断をする。


「お母さま。私、シンデレラのこと、実はあんまり好きじゃないのよね」

「あんな娘と姉妹になんて見られたくないから、地下室に閉じ込めてしまいましょう!」


 突然変なことを言い出した娘二人に、


「ちょっと何を言ってるかわからないですね」


 母は最初抵抗したが、



「血を分けた実の娘より、あんな娘のほうがかわいいっていうの!?」

「やっぱり見た目?見た目がすべてなの!?」


 と姉妹の怒涛の押しについには折れた。父の代わりに会社に顔を出す必要があり、家の中まで手が回らなくなってしまったことも大きかった。


「ふ、ふん、あんたなんかこの黴臭い地下室がお似合いだわ!」

「ネズミさんたちとなかよくね!」


 血の涙を流しながら、シンデレラの部屋を取り上げて地下室をあてがう。せめて自分たちを恨むように、とわざと冷たく当たった。その度に胃に穴が開くほどのストレスを感じた。



 すべては、スカーレットとヴァイオレット、二人で相談して決めたことだ。

 かわいいかわいいシンデレラが得体のしれない男と結婚させられるくらいなら、話を本筋に戻して王子様と結婚させる。そのためならば自分たちは地獄に落ちても構わない。それほどの決意だった。


 一方のシンデレラはというと、自分の運命を受け入れようとしているようだった。いままで仲良くしてくれていたけれど、姉二人は自分と血を分けた姉妹ではない。きっと、自分に何か悪いところがあって二人の気に障ったのだろう、そんな風にネズミに話しかけているのをたまたま聞いてしまったヴァイオレットはもういっそすべてを打ち明けてしまいたくなり、ストレスで血尿を出した。

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