第3話 いっそ殺してくれ

 新しい家は、部屋の中にドアがあってスカーレットとバイオレットの部屋がつながっている構造になっていた。ちなみに、父と母の部屋もつながっていて、シンデレラの部屋は空き部屋とつながっているようだった。


「これが『天蓋』ってやつ?」

「たぶんね。うっわ、ベッドフカフカやべえ」


 二人で転がってもまだ余裕のある巨大なベッドに身を投げ出して、今は二人きりなのでなじみのあるルイ・リナの姉妹として今後の作戦会議をすることにした。


「ひとつ、確認しておかなければいけないことがある」

「ええ、アレよね」

「転生とはいえ悪役令嬢系で童話の世界っぽいからあんまり期待はできないけど、念のためよ」

「そうね」


 二人で息を吸い込んで。意を決してあるキーワードをつぶやいた。



「ステータス・オープン!」


……


 しかし何も起こらなかった!!


「やばい、超恥ずかしい」

「まて、まだ慌てるような時間じゃない」



 ヴァイオレットが再び目を閉じ、そして言う。


「プロパティ!」



 しかし何も起こらなかった!


「うん、まあそうだわね」

「他、なんかあったっけ?」

「なんかこう、自分を鑑定する、的なやつとか」

「鑑定ってどうやんの?」

「知らんけど」


 適当にその辺の物を凝視してみたが、「ベッド」的な表示が出てくることはなかった。


「シンデレラって魔法使い出てくるから魔法的なやつはアリなんだと思うんだけど」

「あー。そうだね。びびでばびでぶーだっけ?」

「それ別のじゃない?」

「とりまやってみるわ」



 ベッドから立ち上がって、スカーレットは右手を掲げた。


「…ただ呪文唱えるだけだっけ?」

「知らん」

「杖とかないの?」

「ない」


 一応スカートをバサバサやってみたが、ポケットすらついていないこの服には杖のようなものを隠し持っておけるような機能はなかった。


 仕方がないので右腕を突き出した格好のまま呪文を唱えてみる。


「ビビディ、バビディ、ブー!」



……


 しかし何も起こらなかったッ!!!



「いっそ殺してくれ」

「お姉さま、しっかり!」

「くっ、こんな時ばっかり姉扱いして…!」



 吐き捨てるように言ったスカーレットであったが、ここで引き下がるわけにはいかないという謎の使命感によって再び右手を突き出して呪文唱える。


「エロイムエッサイムエロイムエッサイム。われは求め訴えたり!」

「悪魔とか出そう」


「テクマクマヤコンテクマクマヤコン、お姫様になーれ!」

「もうなってね?」


「卍…解…」

「それはさすがに無理筋じゃない?著作権的に」


「おかんが好きな童話があるらしいんやけど、名前が思い出されへんねんて」

「もはや何の関係もないよね」

「時を戻そう」


 ひとしきり暴れた結果、どうやら自分たちにチート能力的なものは備わっていないと理解した二人は、来るべき日、舞踏会まで品行方正に暮らしていこう、と心に決めた。


 ついに、ドアの隙間から遊びに来たシンデレラがその様子をつぶさに見ていたことには気づきもしなかった。

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