42.戦い済んで日が暮れて…
次第にきれいになっていく日本。
いつの日か、蛍が飛び交う河川を取り戻すのもそう遠くない未来だろう。
一方海外からは情報公開に対して矢のような催促があったが、今までは武力をもって押さえつけていた国々が先の中共との戦争を目の当たりに見て、トーンが下がっていった。
それでも一向に開示請求がやまないため、基礎理論のみを公表した。
しかし、世界中の技術者がその理論を読み解こうとしても、実現に至らず、日本が誤情報を出したとバッシングを始めた。
自分が理解できないと人のせいにするってどんだけ子供だよ。
日本政府はやむなく、技術者交流会を行い、世界中の科学者やメーカーの技術者が日本を訪れ、講義を聞くこととなった。
この講師の役目はアンドロイドたちが行った。
しかし、メディカル・ポットで能力向上を行ったわけではないので、一向に理解が進まなかった。
しかし実機をもとに一つずつ解き明かされていく原理は、ゆっくりとだが理解する科学者たちも出てきだした。
ここで技術の講義を行っているのは、環境改善のための機器のみに絞り込んでいる。
常温核融合発電装置、重力制御装置に関しては国防上の理由で情報開示は行われていない。
まあ、頑張って勉強してください。
日本の技術者も頑張ったんだから。
ただ、ちょっと下駄(メディカル・ポット)は履かせてあげたけどね。
ただ、どうしてもこれらの技術が欲しい国々の大統領や首相などの国家元首が相次いで日本を訪れた。
全ての技術の根幹部分をなす常温核融合発電装置。従来の交通事情がまるっきり変わってしまう重力制御装置は、国防上どうしても欲しい技術になっている。
従来の戦闘機やミサイルでの戦争がまったく意味をなさなくなってしまったからだ。
そこで日本は日本に協力的な国から製品供給をしていくことにした。
現状ではたとえ現物があってそれを解体できたところで、それでなぜ安全に電気が起こせているのかがわからないからだ。
重力制御装置も同様だ。
どうやって重力制御出来ているかの理屈はわからないが、現象として確かに重力制御は行われている。
それが日本の技術者には理解できて、他の国の技術者には理解できない。
理解できないものはたとえ模倣であっても作れない。
こうして、ようやく技術開示まで行われた合衆国も、当面の間は日本から製品を買うしか方法がない。
こうして日本は重力稼働戦闘機を各国の要望に合わせて開発し、供給することになっていった。
自動車業界も大きく変わった。
重力制御装置装着車がガソリンエンジン車と比べ比較的安価にできることがわかり、無音モーターとバッテリーボードの普及もそれに輪をかけた。
本来の自動車はガソリンエンジンをそのままモーター&バッテリーに換装する者が増え、徐々にバッテリー駆動車に置き換わっていった。
一方大型車両やトラックなど人や荷物を多く運んだり、建設機械の一部は重力制御装置装着車が活躍した。
それでも道路事情は変わらないので、地面をタイヤで走るという構造は変えていない。
一方で空中を飛ぶための重力制御装置装着車も発表された。
これは道路交通法はもとより、航空法にも関係してくるため、最後まで扱いに揉めた。
しかし、街中に設置された『フライトステーション』からだけは離発着ができるようになり、高度も30m帯、40m帯と相互通行によって高度を分けたため、事故もなく運用で来ているようだ。
また、重力制御装置装着車は事故防止のために、車が人や物にぶつかろうとした際、安全に停止する機能も盛り込まれたようだ。
一番変わったのは造船業界だろう。
大型コンテナの輸送に使われていたタンカーは、少なくとも日本からは姿を消しつつある。
それに代わって、大量輸送の花形は重力制御装置が組み込まれた大型輸送機になった。
地球号と同じように円筒形となった輸送機は重さは意識せずに輸送が可能となったため、使われる素材も鉄でまかなわれることになった。これらは造船業界が名乗りを上げ、急ピッチで開発されていった。
それもこれも旧業態から徐々にではあるが業種変換を余儀なくされ、それでも大量失業者を出さずにスムーズに移行が済みつつあった。
俺は戦後まもなく、これらの産業発展のための開発からは手を引き、株式会社宇宙船地球号の運営に力を注いだ。
戦時中はその前の自衛隊から、日本軍への変換期には、大量のリラックス・ポットの軍への納入もあり、忙しく働いていた。
軍への納入分はバトル・ポットと呼ばれるもので、メディカルポットの1/50の機能ではあるが、軍事教練などが学習できるようになっている。
また、重力制御装置搭載艦では3次元の立体軌道が主になるため、それらの動きを練習するためのシミュレーターも導入することになった。
このあたりは帝国技術を使って、また膨大な帝国での戦時シミュレートを組み込むことで、戦時から災害救助に至るまでの教育を実施していった。
その教育が一通り済んだ頃に例の戦争が勃発したのだ。
このタイミングは俺が愛ちゃんにお願いして、どうしても戦争を吹っ掛けようとしている場合、教育が済むまで遅らせたという裏事情もあった。
つまり、勝つべくして勝った戦争ともいえる。
愛ちゃんたちも本来の運用のされ方をして、溌溂と働いていた。
その日、俺たちはスパリゾート『スペースホースロッジ』に集まっていた。
メンバーは早瀬たち3人に会長たち3人、それに日本政府から茨木首相、阿藤官房長官、田所副総理(解散総選挙の際、地球号クルーに抜擢した若手のホープ)と俺を入れた10人とそれぞれに付き添う秘書としてのアンドロイドたちだった。
今日は慰労会を行うことになっている。
中共戦争終着から1年がたったころだった。
「皆さん、お集まりいただきありがとうございます。今日は先にあった戦争も終わり、占領下の元中共地域への再教育も順次始まったことから、日頃の苦労を共に過ごした仲間と分かち合う会になります。どうぞ存分にお楽しみください。」
俺はそう挨拶し、総理に乾杯の音頭を取ってもらい、みんなで楽しく食事した。
ひと心地着いたところで巌さんが俺に問いかけた。
「ここに来たら、あの日のことを思い出すのう。初めて宇宙から地球を見た日じゃ。」
「本当に、懐かしいわね。あれからまだ2年ぐらいしかたってないのに、ずっと昔のことみたい。」
と、美千代さんがそう続けた。
この夫婦、見た目は30台と20台に見える。
この2年間毎日メディカル・ポットで身体の調整を行ってもらい、すっかり若返っている。
すでに引退は発表して、屋敷にこもっているということになっているが、世界中をステルス偵察機で飛び回っている。様々な国の様々なパーティーに名前を変え、時には顔を変えて出席しているようだ。
「私もかなり若返ったんでもう一度人生を楽しませてもらっているよ。」
と、大蔵さんも話しかけてきた。
この人も20代後半ぐらいには若返っている。大蔵さんは巌さんとは別行動で、世界中を同じように飛び回っている。もっともこっちは政府から依頼を受けた俺からのお願いで、主に貧困国の現状を改善するための方策を考えてもらっている。
大蔵さんも同じようにステルス偵察機で世界中を飛び回っているのだが、サポートアンドロイド10名と同行している。
各地で炊き出しを行ったり、医療活動も随時行っているようだ。10名のサポートのうち半数は医療アンドロイドだ。
「それにしても思い切った手を打ったよな。ほとんど一夜にして国の中枢からスパイを排除して、富国強兵まっしぐらだもんな。それに戦後、あの中共をどうするのかと思ったら、最低限のモラルを再教育するって、全員にリラックス・ポットを使って学習させていったんだもんな。30億?40億?そんなに多くの人間出来っこねーと思ってたんだけどな。」
と早瀬が言った。
俺たちも一応に20代中盤といったところの風貌をしている。
「しかし、途中から確かに国の在り方が変わってきたもんな。道にごみが落ちてたら拾おうとする人も出てきたし、何より道端でクソするような人がいなくなった。それだけでも教育した甲斐があったよ。」
と山田は笑いながら話に乗ってきた。
早瀬と山田には中共の再教育プロジェクトの陣頭指揮を執ってもらっていた。反抗する勢力や暴れそうな人たちに沈静化の魔法をかけて、素直に教育を受けてもらうためにそれぞれ50名体制のアンドロイドを任せていた。
まだすべてに教育できていないが一時帰国してもらっていた。
「日本国内もかなりきれいになったよ。特に思想的にね。日本を敵国として半日活動していたやつらが一掃されたからね。何が正しくて、何が間違っているのか。自分たちがどう生きていきたいのか、真剣に議論している人たちをよく見るよ。」
と山下が言う。山下には国内の情報を統括してもらって、現政府のサポートをしてもらっていた。
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