39.そりゃーモー大騒ぎさ

 総理は口から泡を吐きながら俺たちをにらみつけていた。


「俺を無視するんじゃねぇ!そんなことしてみろ。日本は終わりだぞ!」


 つば飛ばしながらしゃべるなよ。


「そんなことで日本は終わらねーよ。一国の首相を任されながらそんなこともわからねえのか。あんたのじいさんのころから続いた悪い因習はあんたの時代で幕を閉じれるんだ。うれしいことじゃねーか。」


 俺はにやにやしながら総理に言った。


「まあまあ、それ以上挑発しなさんな。」

 茨木官房長官が間に入ってきた。


 俺は愛ちゃんに言ってクールダウンする魔法を総理にかけてもらった。

 やがて総理は落ち着きを取り戻した。

 その総理に向かって俺は言った。


「総理、公安を急遽で申し訳ないが東京ドームに派遣してくれ。もう現地に拘束されたスパイがいるから、一人ずつ起こして、調書を取るように伝えてくれ。拘束しているのはうちの若い衆(アンドロイド)なんで、調書はすでにできてると思うけど、それを本人に確認していってくれ。おそらくべらべらと自分の罪状を話してくれると思うぜ。」


 俺は愛ちゃんに自白効果のある魔法を使ってもらうことにしている。

 魔法って便利だよな。


「あとは記者会見だろうな。シナリオはこっちで用意するから、それ読んでくれ。総理より、官房長官の方がいいかい?」


「それなら俺が記者会見で読むよ。どんなことを言わせるつもりだ。」


「ようやく本題が話せるよ。本日未明付で日本国の施策を作るべき官庁に大量に入り込んでいたスパイを逮捕、拘束した。併せて政治家も同様に逮捕拘束した旨を公表してくれ。そして野党から突き上げ食らう前にこれほどの逮捕者が出た責任を取って、解散総選挙を総理が宣言するんだ。国民に問うのは二度とこれほどの他国のスパイをのさばらせることがないようにスパイ防止法を設定することの是非。明るく幸せな未来を作るために国防のための軍隊の創設。当然憲法の改正も含む。合衆国との日米安全保障条約の一部撤廃だ。これによって真に日本は独立を果たすことになる。」


「そんな事したら、我が党は第一党から落ちるぞ。」


「まあ、その辺は頑張るしかないね。とはいうもののそれなりのものは教えておくよ。

 本当はこのことの根回しするために保っちゃんが動いてくれるはずだったんだけどな。俺たちはこれから政府主導で行う技術開発の旗頭になる。その技術は常温核融合発電装置と大容量バッテリー、それと重力制御装置だ。」


 総理も官房長官も目を見開いた。

 やがて総理は声を出して笑いだした。


「常温核融合だって?重力制御装置?ばかばかしい。そんなものが今の日本で、いや、この地球で開発できるはずがない。」


 総理が馬鹿笑いする中、官房長官はじっと俺を見ていた。


「副総理がそれについて動こうとしていたところでスパイが発覚したってことか…。ということはその装置はすでに…。」


「ああ、完成しているよ。」


「本当か?」


「ああ、本当だ。わしも直接見せてもらった。」


「なるほど。常軌を逸した発明だからこその副総理か。」


「ほう。なかなか分かってるじゃねーか。」


「確かにこの総理じゃ否定しかしないからな。自分の知っている知識や常識から外れたら嘘だと決めつけて話も聞かなくなってしまう。この世代特有の症状だよ。」


 そう言って官房長官は笑った。

 あんたもそっちの世代の方が近いだろうに…。


「まあ、概ね正解だ。それにちょっとファンタジーな話もあったからな。」


 俺はそう言って副総理を見た。副総理は笑っていた。

 それにしてもこの総理、使えねーな。このまま党の会合なんかに出したらどうなることやら。


「総理にはこの解散の責任を取って引退ってことでいいか?」


「そうだな、仕方あるまい。」


「ここまで頭が固いと、明日の記者会見でも何言いだすかわかったもんじゃねーぞ。」

 と、保さんが言うと


「その辺はこちらでうまくやるようにいたします。」

 と俺の横に控えていた愛ちゃんが返答した。


「その女の子。かわいい顔してるのにいうことが恐ろしいね。」


 茨木官房長官が引きながらそう言った。


「ええ、うちの若頭(アンドロイド統括)なもんで。」


 どこの組だよ。桃組か?さくら組か?

「魔王組です。」

「ねぇよ!そんな組ねえよ。」

 わざわざ声に出して言いやがった。


 保っちゃん大笑いしてるじゃねーか。


「じゃあ、ここで総理にはお眠りいただいて後の処置は愛ちゃんに任せるね。」

 そう言った途端、がくんと総理が床に伏せた。

 頭ゴンって音してたぞ。大丈夫か?大丈夫だろう。


「それでは官房長官、少しお時間をいただきます。」

 俺がそう言うと、俺と官房長官は地球号の展望デッキに転送された。

 保っちゃんは残って公安の指揮ね。


 これまで何度やったかわからないプレゼンを茨木官房長官にもした。

 メディカル・ポットまでのフルコースで。

 やっぱり若返っちゃってるよ。

 はいはい。腕時計とスマホとタブレットの三点セットもお持ち帰り。

 俺たちは朝の7時に永田町にあるバーガーショップで朝ごはん食べてた。

 俺と官房長官と副総理。

 どんな組み合わせだよ。


「じゃあ、後はよろしく頼むね。保っちゃんが昨日までの打ち合わせを全部ぶっ飛ばしちゃったから、新しい作戦ねらなきゃだから。あ、それと有識者会議より先に自衛隊の方と会いたいな。船頭多くして船が山に登りそうだからね。国防費をこのどさくさに紛れてちょっと増やしといてよ。で、実務者のトップと早急に会いたいので手配してよね。」

 俺はそう言ってバーガーショップを後にした。

 それをにこやかに官房長官が手を振って見送っていた。


 ……ポットから出てきたときは誰かと思ったぜ。

 だって髪の毛が生えてるんだもの。


 俺はみんなへの報告は愛ちゃんに任せて少しポットで寝ることにした。

 その際、日本が保有する兵器の学習と他国の兵器も併せて学んでおいた。


 10時ごろにみんな展望デッキに集まってきた。

 昨夜の顛末はすでに知らせてあるようだ。


「大変だったらしいな。」

 山下がそう話しかけてきた。


「そうだよ。えらい目にあった。俺が話に行くぐらいなら保っちゃんいらなかったんじゃねぇ?ってぐらいあのおっさん、俺に丸投げしやがって。」


「でそれがこれか。」

 と大型モニターに現在時刻で行われている総理官邸での記者会見の模様が映っていた。


 総理は血色もよく、元気いっぱいで昨日行われた捕り物の結果を話していた。

 警視庁をはじめとして公安も大騒ぎだったようだ。

 いきなりの大量動員をかけられて、取り調べる相手は大物政治家や各官庁のお偉いさんをはじめ局長クラスがずらり。

 その上全ての罪状に証拠がつけてあるし、本人も素直に自分の罪状についてペラペラしゃべっている。中には奥さんが中共のスパイだったところもあったようで、奥さんともども拘束されていた。要するに甘い罠ってやつに嵌ってたんだろうな。


 各関係官庁も朝から大騒動になってる。


 マスコミの取材に加えて、おもだった局長クラスが全員逮捕されてるという異常事態だ。すぐに昇格人事を行い、部課長クラスから特進したものも結構出たらしい。逆に言うと、そこまでスパイが蔓延ってたってことだろう。


 マスコミに対しても知らなかった、気づかなかったという話でいっぱいだ。

 そりゃ本人じゃないんだから気づかなかったのかと聞かれても気づくことすら無理だわな。


 マスコミは朝から特番に番組変更で大わらわだったみたいだ。

 前代未聞の大スキャンダルだもんな。ロッキードなんかへでもないぐらいだ。

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