38.総理官邸にて
夜中の3時というのに大勢の人が喧々諤々に話し合っていた。何人もの人が入れ代わり立ち代わり官邸から外に来るまで飛び出していった。戻ってくる人たちもいる。
う~ん。これってかなりやばいことになってる?情報を守るとかって出来てるんだろうか?
『それについては私の方で管理いたしております、マスター。平時は張り付いておりますマスコミもそれぞれ所用で帰社させておりますし、鑑定を見張る他国のスパイも同様に操作いたしました。多少慌ただしくても本日の様子が世間に漏れることはないと思われます。』
愛ちゃんがそう言うんなら大丈夫だろう。
俺は官邸の中から出てきた女性に導かれて総理官邸に入っていった。
この女性は愛ちゃんの部下のアンドロイドの一人だ。
俺は導かれるままに歩きながら愛ちゃんに尋ねた。
『なんでこんなに大ごとになってるの?できる限り秘密で動くって話が飛んでるんじゃないの?』
『それがそうでもないのです。まず保様は永田町の事務所に出向き、経済産業省の局長クラス4名を呼び出し、赤坂の料亭で会合をされました。しかしその場に、ある一人の局長と入れ替わって中共のスパイが入り込んできました。この男は以前よりこちらで調べていたもので、その場でサポートに入っていたアンドロイドから保様に知らせ、それを聞いた保様がSPに話をしてそのスパイを捕縛いたしました。身体検査を行ったところ眼鏡にカメラが仕込まれており、副総理との緊急会合を記録しようとしていました。
保様からの問いかけに私どもが答える形で、各官庁に入り込んでいる他国のスパイがかなりの数入り込んでいることを知り、急遽経済産業省の局長との会合を取りやめ、総理に連絡、現在に至っております。』
『保さんはどうしたいんだろう?』
『このタイミングですべての官公庁からスパイを一掃したいからと協力を求められました。しかし、それは予定のないことで、マスターの意図から少し外れていると感じたため、保様に断りを入れてマスターに急遽来ていただいた次第です。』
『なるほど。いや、よく呼んでくれた。これはだいぶやばい状況だな。』
『はい、マスター。このままですと各官庁から大量のスパイが摘発されて、それが国民に知られると現政権の支持率は大幅に下がることにもなりかねず、解散総選挙を野党が言い出すことも時間の問題だと思われます。』
う~ん。
……いや、俺にとってはいい機会ではあるな…。
俺はようやく総理とよくテレビで見る内閣官房長官と副総理が並んでいるところに入っていった。
俺の両サイドには愛ちゃんとサポートのためのアンドロイドが一人ついてきている。
これって総理たちから見たら女侍らせながら来たと見えないだろうか…。
…いや、考えても仕方ない。
「いや~、よく来てくれた柏木君。夜遅くに済まないね。」
「いえ、たも…阿藤副総理。少々お聞きしていた状況とは違うように見受けられますが…。」
俺は少し保さんをにらみながらそう言った。
「いや~、面目ない。事が事なんでね。少し段取りがくるってしまった。柏木君の知恵と力を貸してもらえんだろうか。」
保さんはにこにこしながら俺にそう言った。
……このおやじ…。確信犯だ。
この状況を作るべくして作ったところに俺を呼び出しやがった。
……ふー。確かに俺には都合がいいのはいいけどね。
仕方がない。その狂言に付き合いましょう。
「ここに来るまでに愛君にどういう流れでこうなったかは聞いております。」
そこで、総理が俺に問いかけてきた。
「君は一体どこの誰だね?この官邸には副総理が許可を出したところで簡単に入ってこられるような場所じゃないぞ。」
そこは愛ちゃんが取り図ってくれたんだろうな。
「お初にお目にかかります、恒松総理、茨城官房長官。私は柏木努と申します。株式会社宇宙船地球号の代表取締役社長を務めております。」
俺はそう言って挨拶をして頭を下げた。
「ここには阿藤副総理のお呼びで参上いたしました。阿藤副総理にスパイの情報をお渡ししたのも私です。」
「君のおかげで大変なことになっておる。このままだと我が内閣の支持率はがた落ちだ。どうしてくれる。」
このおっさん。どうしてくれようか…。
「これは異なことを。総理。私は憂国の志士として、阿藤副総理に助言させていただいたまでのこと。実際に事この事態に及ぶまで、それを野放しにしていたのは現政権、恒松総理の責任ではございませんか?」
「貴様がそんなことを教えなければ、うまくいっていたのだ。それを波立ておって…。」
そう言って俺に詰め寄ってきた。
俺はそれを見ながら静かにこういった。
「まったく。夜中に呼び出されたと思ったら、爺さんの愚痴を聞くために呼ばれたんじゃねーだろうな?保っちゃんよ。」
俺はそれまでの態度を一変させて、保をにらみつけた。
俺の急な態度の変化とその迫力に総理は詰め寄っていた足が止まり、官房長官とともに大きく口を開けて、驚いていた。保っちゃんもね。
いや、切れてないよ、切れてない。俺を切れさせたら大したもんだよ。
愛ちゃんがキラキラした目で俺を見てる。
違うからな。お芝居だから。俺は期待の目を向けるもう一人のアンドロイドも含めて無視することにした。
「お前らの周りは中共や合衆国のスパイがうじゃうじゃいるんだよ。それに気づかず国策や国を守るための相談なんか出来っこねぇ。すべての官庁からスパイを叩き出せ。それと国会からもな。」
「な…何…。」
恒松総理は顔を真っ赤にさせながらうなっていた。
「野党の連中から与党の連中まで。日本国籍以外の国籍を持ちながら国会議員をやらせてるってお前らどういう了見だ?明日の朝一でそんな政治家どもは日本から一掃しろ。」
「そんなことができるわけがないだろう!お前は何様のつもりだ。警備員!こいつをつまみ出せ!」
恒松総理は激怒して、大声で叫んだ。
その横で茨木官房長官は冷静な目で俺を見ていた。そしてこう話しだした。
「君の目的は何だね、柏木君とやら。総理とけんかするためにここまで来たわけじゃないだろう。総理も怒鳴り散らすばかりじゃ物事は進まないとあれほどいつも行ってるでしょう。もう少し冷静にならないと政治家人生を早めることになりますよ。」
と総理に向かってなだめた。
なるほど。こいつは本質を見抜こうとしてるようだな。
なぜ今こんな事態になっているのか。何がきっかけなのか。どうやってそれらの情報を集めたのか。こいつは何者なのか。
今頭の中では疑問ばかりがぐるぐる回っているだろう。
しかし、そういうことは表情に出さず笑いながら対処している。ある意味、こいつの方が総理に向いてるんじゃないだろうか。
俺は覇気を収めてにこりと笑った後に言った。
「総理。官房長官のおっしゃる通りです。けんか腰に来られれば私もその通りに返します。しかし、そんなことをしていても一度動き出した事態が元に戻ることはありませんよ?それならば、次もあなた方の政党が政権を取るためにはどうしたらいいか、話をしませんか?ここで時間がたてばたつほど、あなた方の政党が次の選挙で勝てる可能性が減りますよ。もっとも現政権は解散総選挙しか責任の取りようがない事態になってしまいますが…。」
俺がそう言うと、ますます激高しだした。
俺はそれをほっておいて、副総理に話しかけた。
「保さん。あんたどういう結末を描いてるんだい?」
するとにやっと笑ってこう言った。
「お前を表舞台に引っ張り出そうと思ってな。もっとも政治家ではなく、裏方だがね。」
「どういうことだ?」
「お前んところの若い衆(アンドロイド)を貸してくれ。他国のスパイで上げられる証拠のあるやつを全部洗いざらい捕まえたいんだ。」
「若い衆って…。捕まえてどうするんだよ。」
「本国に送り返す。罪状の証拠と一緒にな。」
「政治家連中は?」
「ここまで来たら一緒だな。騒ぎ出す前に捕まえる。」
「それじゃ、このおっさんが怒ってるように日本が止まるぞ?」
俺は総理を指さしながら聞いた。
「仕方あるまい。今一度日本を洗濯し申し候。今ここでやっとかないとお前の話が筒抜けになるんだよ。強い日本を作るためには悪いところを取り除いて直してからじゃないと強くなれねえ。それぐらいお前さんもわかってたんだろ?」
…実を言うと、わかっていた。
しかし、このおっさんがそこまで腹くくって協力してくれるとは思ってなかったんだよな。
「お前に見せてもらった未来は命かける価値はあるぞ。俺が命張ってんだから、お前も協力しろ!」
保っちゃんはそう言って俺の肩を叩いた。
まいったな。焚きつけちゃったのは俺だもんな。
「わかったよ。協力する。やるとなったら、俺のやり方でいいんだろうな?」
「ああ、その方が早く済むし、誰にも気づかれんだろう。」
このおっさん、やっぱりそこまで絵をかいてやがった。
『愛ちゃん。とりあえずあのスパイのリストにある官庁の職員と政治家は眠らせて拘束の上で地球号に転送して。一人ずつ罪状と証拠をつけてどっかに移送するから。』
「で、捕まえたやつらどうしたらいい?殺していいんなら殺しておくけど。」
「いやいやいや。日本は法治国家だぞ。一人ずつ罪状がわかるようにして、どっか広いところに集めてくれ。どこがいいかな…。」
「じゃあ、東京ドームにでも集めるぞ。」
「わかった。明日野球はないよな?」
「ねぇよ。ついでに明日から3日間なぜだか愛ちゃんが抑えてあったわ。」
俺は笑いながらそう言った。
手元のタブレットにそう出てるんだよね。
愛ちゃんさすがだわ。
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