37.では皆様お疲れさまでした

 とりあえずこの腕時計があればごまかせるだろう。…時間の問題かもしれないけどね。


 少し興奮したみんなをなだめてソファーに落ち着いた。

 そして俺から保さんに切り出した。

「まず、常温核融合発電装置と大容量バッテリー、それに重力制御装置を組み合させて自衛隊に宇宙船の部隊を作れませんか?」

 俺はそう切り出した。


「確かについ先ごろ宇宙軍の創設は可決されている。これは合衆国や中共がこぞって創設したものに、日本も習った形だ。しかし実態は宇宙戦闘機など作れるはずもなく、国際的にはそれらの軍の補助というのが関の山だろう。」

「そこで、これらの技術を使って宇宙船を作ってもらいたいのです。これらの技術が公開されると、まず他国が技術を盗もうとしてくるでしょう。そこでまず、国防力を高め、他国から脅しを掛けられないようにその抑止力としての軍隊が必要になってきます。そこで帝国の技術を使った戦闘機、宇宙戦闘機を作りたいのです。実際にこの艦にはそれらの宇宙船が搭載されていますが、できるだけ地球の素材と技術と技術者でこれらを模倣していきます。元々は平和利用のための開発でしたが、日本の状況がそれを許してはくれないことは覚悟しています。ですからまずはこれらの技術の模倣から始められるチームを作っていただきたいと思います。」


「……そうなると、民間の協力も取り付けないといけないな。これらの技術が公開されたら、自動車産業、造船業、石油業、蓄電池産業などいろんなところが業種転換を余儀なくされるだろう。そうしないと失業者であふれてしまう。極秘の政府有識者会議を設けて、その中に主だったメーカーを参入させよう。あと関係各省からの出向も入れておかないと予算がつかないな。経済産業省と国土交通省…。いや、すべての省から人材を出させよう。それと大学の研究機関だな。主な技術の根幹は物理学と機械工学、電気学…。これも工学系全般になるだろうな。主だった大学から研究者も集めて検討してもらおう。」


 うん。やはりかなり大掛かりになるよね。


「ただし、これらの技術の大本が我々から出てきたということは隠していただきたいのです。今まで我々でいくつもの選択肢を考えては練り直してようやく立てた道筋がこれだったのです。つまり、日本が一体となってこれらの技術の普及量産化を行う。そして日本が世界に向けて指導していく。これが国際社会で勝ち残り、よりよい未来を残すための唯一の方法だと考えています。これ以外だとちょっと困った事態になりかねませんから。」

 俺はそこまで説明して少し遠い目になってしまった。


 NO!魔王。YES!平和。これしかないんだよ…。


 俺が遠い目をしている間に愛ちゃんから保さんに一通りの話をしてくれたようだ。

 自分から魔王になってなんて話、したくないからね。

「なるほど。確かに帝国の技術や柏木君個人の力で無理やり普及させる方法はあるだろうけど、確かにそれらの方法では日本が孤立するし、世界を敵に回すことになりかねん。」

 しばらくして、考えをまとめたようだ。


「それじゃ、わしは一度永田町に戻って、これらのメンバーの招集を始めよう。極秘なのは特に注意して動くようにするよ。」

 と保さんはさっそく動き出そうとしていた。

「それではサポート要員として、10名のアンドロイドを保様にお付けいたします。資料の用意や招集する必要のある各専門分野の方々のリストもタブレットに入っておりますのでご活用ください。」

「おぉ。それはありがたい。では早速…。」


「少しお待ちください。まず、皆様思考通話のやり方をここで学んでいってください。思考通話ができれば私どもといつでも会話が可能になります。突発的な出来事で一人で対応できない時にはぜひ頭の中で呼びかけてください。」

 そう言って高齢者4名は愛ちゃんと練習しだした。


 俺たち?もう既に習得してるよ。

 最近ではこれがないとうまくタイミングを合わせて行動できなくなっちゃってる。


「それでは皆様。まずはスパリゾートのホテルに転送して、それから保様はパーティのあったホテルに転送いたします。サポートいたしますアンドロイドは途中で合流させていただきます。副総理の部屋から10名の女性が出てくるのを見られるわけにはいきませんから。」

 愛ちゃんがそう言うと、みんなその状況を頭に思い浮かべて笑い出した。

「た…確かに。どんだけ精剛だと思われることやら。」

 保さんが一番笑っていた。


 それから俺たちはスパリゾートに戻り、保さんは永田町に向かった。


「やれやれ、とんでもない一日じゃったな。」

「本当にそうね。いっぱい感動させてもらったし驚かされたし、一杯考えさせられたわね。」

「私もまさか会社にいるときに、今日中に宇宙から地球を見ることになるとは思わなかったよ。」

 それぞれがきょう一日を振り返って笑いながら話をしていた。


 少し小腹がすいたこともあり、皆でレストランに移動することにした。

 すでに夜11時に差し掛かっていた。

 しかし、身体が若返っていることもあり、みな食欲旺盛に次々に注文しては平らげていった。


「あのポットはやはり新陳代謝を活発にさせてるようじゃのう。おかげで腹がすくこと。」

 そう言いながら鳥のもも肉を手づかみでむしゃぶりついていた。

 巌さん。ワイルドだね。


「明日からもちょっと忙しいだろうからみんなちゃんと食べて、体調整えておかないとね。私も加奈子さんに会いに行ってくるわ。どう考えてもあの人を引き込んでおいた方がうまく進む気がするの。」

 美千代さんもステーキをほおばりながらそう言った。

 美千代さん。それすでに2枚目ですよね…。


「私は妻と決別してこなきゃな。朝から弁護士のところに行かなきゃね。」

 保さんはハンバーグですか。

 え?3皿目?

 俺たちも負けずに食べた。

 いや、もうおなかいっぱいです。


「それでは皆様、地球号へお送りいたしますのでメディカル・ポットでお休みください。」

 と食事が終わったころを見計らって愛ちゃんがみんなを地球号のそれぞれの部屋に転送してくれた。


 そうして俺たちは慌ただしくも今後を左右するような重大な一日を終えた。



















 ……はずだった。

 俺は愛ちゃんに起こされた。

 時計を見ると夜中の3時だった。


「恐れ入ります、マスター。」

「おはよう愛ちゃん。何かあったの?」

「おはようございます、マスター。実は保様からお呼びがかかっておりますが、いかがいたしましょうか?」

 俺は3時間ほどメディカル・ポットに入っていたので、体調は万全になっている。

「緊急っぽいよね。いいよ。すぐに行こう。」

 俺はそう言って、シャワーを浴びてスーツに着替えた。

 そうして転送された先は…。


 総理官邸だった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る