31.TAP(Traveling Amusement Park) In Japan

「おぉ、確かに動き出したようじゃな。でもこのままいくと上下さかさまにならんか?」

「そこで重力制御装置です。先ほども無重力状態でもちゃんと重力は床に向けてありましたよね。この重力制御の技術が使われているからなんです。」


 俺たちはソファーに座ったまま頭上を見上げ、みるみる近づいてくる日本列島を眺めていた。

「これは不思議な感覚だな。まるで地球が頭上に落ちてくるような、そんな感じだ。」

 雄二さんの言うとおり、日本列島が頭上に振ってきている。


 やがて北海道を目指して降下し、スパリゾートが目視できるまでに近づいてきた。

 スパリゾートから少し離れた場所でドックの入り口が見えてきた。

 入口に入りながら、地球号は180度ロールしてようやく地面を下にすることになった。


「ここが地球号のメンテナンスドックです。ここの敷地は5㎞四方ほどあり、そのうちの一角にこの入り口があります。では、少し時間が押してますので控室に転送で飛ばさせていただきます。」

 俺がそう言うとホテルのエントランス横にある事務所の控室に全員が転送された。


「それでは少しお付き合いください。」

 俺はそう言って事務所からエントランスを通り、エントランスの前に置いてあった演台の上に再び上り、マイクを通して話し始めた。


「それでは大変長らくお待たせいたしました。テープカットの際に夕方に第3弾を発表するといったことを皆さん覚えておられますでしょうか。私どもの事業の柱として、エンターテイメント部門がございます。その一環としてのスパリゾートではございますが、このスパリゾートで完結しているわけではございません。まずは皆さんにその目で見ていただきたいと思います。」

 俺がそう言ったタイミングで駐車場のはずれにある地下駐車場及び倉庫搬入口からトレーラーが何台も出てきた。


 館内放送を聞いて慌ててゲート前に集まってくる報道陣がカメラを向けた。

 それはトレーラー部分に何やらいろいろついているものだった。

 それらがエントランスから入場し、スパリゾートの六角形の周りに並んでいく。

 全てが並び終わると俺は再びマイクにしゃべりだした。


「もうお気づきの方もおられると思います。欧米では日常的に運営されているものですが、日本ではその道の狭さからなかなか普及しなかったものを株式会社宇宙船地球号はエンターテイメントの柱として、日本全国に展開したいと思います。

 これが遊園地です。」


 俺がそう言うと、音楽を鳴らしながら、電飾が点き始め、それぞれ音もなく立ち上がっていく。ぱたぱたと展開する様々な遊具はまるでロボットアニメの起動シーンのようで、子供たちがワクワクしているのが見てとれる。


 各メディアのカメラマンもその情景をくまなく映すために全部で15台ある遊具、10台ある飲食、物販ショップが展開されていく様を映し出している。

 全ての遊具が完全に立ち上がるまで20分かかる。

 それぞれ結線し、基礎杭を打ち込み、固定していく。


 俺は再びマイクに話しかける。

「皆さんご覧になられたでしょうか?搬入から設置までが約30分。そうです。田舎町の野球場でも金曜日の夜から営業を始めて月曜日の朝には違う街に向かう、移動遊園地トラベリングアミューズメントパークです。私どもはこの度TAPJapanを設立し、日本全国どこへでも遊園地を持っていきます。町おこしでお困りの市町村はございませんか?毎年開催されているお祭りの目玉にいかがでしょうか?私どもはできるだけご要望にお応えし、求められるところにエンターテイメントをお届けいたします。また、日本全国ツアーに先駆けまして、来月の第1週の金曜日から日曜日まで各地にありますドーム球場を貸し切って、遊園地を開催いたします。詳しくはインターネットで当社のホームページをご確認ください。なお、ここスパリゾートでは本日のプレオープンを受けまして1週間後の日曜日より営業開始いたします。もちろんここでも移動遊園地はお楽しみいただけます。皆様、お誘いあわせの上ぜひご来店ください。心よりお待ち申し上げております。」


 俺はそこまで話して一礼してようやく演台から降りた。

 早速早瀬が寄ってきて

「これだったのかよ。お前がこそこそ作ってたのは。」

「こそこそって人聞きの悪い。まあ、確かに開発は一人で地球号の工作室で作ってたけどね。」

「やっぱりこそこそじゃねーかよ。」

 俺たちは笑いあった。

 山下も山田も会長も奥様も隆二さんも笑顔だ。

 うん。やっぱりやってよかった。


 早速子供たちは遊具を走って見て回り、乗りたい遊具に並んでいた。

 手には12枚つづりのチケットを持っている。

 このチケットの枚数によって乗れる遊具が変わる。

 子供たちの親には12枚つづりのチケットがなくなったら、新たに子供にコインを渡してあげるように頼んである。

 そのコインをもって券売機に行くと、チケットが買える仕組みだ。


 実は合衆国などでは学校の創立記念日なんかによく移動遊園地を呼ぶ。それも学校ではなくてPTAなどが呼ぶのだ。そしてそのチケットを学校で販売してもらう。そう、なんと先生がチケットを売ってくれるのだ。そうすることで前売りの目処が立ち、回収もスムーズに行える。学校側としてはその売り上げの3割が運営会社から寄付され、そのお金でボールや備品などを補充する。つまり、毎年何らかの形で学校にそれほど負担を掛けずに保護者が寄り合ってまつりを開き、売り上げの3割を寄付するというシステムなのだ。


 俺ははじめこのシステムを聞いた時にスゲーなと感心した。


 全員が得するWIN-WINの構図が昔からあるのだ、この移動遊園地には。

 金持ちは子供の誕生会などで気軽に呼んで子供たちに遊ばせている。もっともフルセットではなく、2~3台ほどの遊具だが。


 今回フルセット(通常の野球場の敷地で展開できる規模)で300万円で営業にかけるつもりだ。

 金、土、日の3日間で300万円。

 これが高いのか安いのかはその土地によるだろうな。


 予算によっては遊具の数を調整しようと考えている。

 そしてこれらの拠点が日本全国に11か所確保してある。

 九州2か所、四国1か所、中共地方1か所、近畿1か所、中部1か所、関東2か所、東北1か所、北陸1か所、北海道1か所だ。

 チーム配分は運営しながら加減しようと考えているが、おそらく人口比率でチーム数は変わってくるだろう。


 本日からようやく情報解禁したので、今頃は動画サイトにもスパリゾートのPVと移動遊園地のPVが流れていることだろう。

 どんな反応してくれるかとても楽しみだ。


 引き合いがなくても今回のような自主興行もいいだろう。


 『野球場が一夜にして遊園地に変わる。』


 このインパクトはすごいと思う。

 さて、どんな反応が出るのか楽しみだ。


 俺たちはしばらく子供たちが走り回る姿を眺めてから、VIPルームに戻った。

 さて、又話し合いだ。

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