29.スパリゾートオープン

 今日は待ちに待ったスパリゾートのプレスリリースの日だ。


 北海道の牧場跡地には大勢のマスコミ関係者が詰めかけている。

 すでに入り口付近では、警備スタッフが騒動を起こすために銃火器や爆発物を持ったテロリストたちを排除して行っている。やけを起こして起爆スイッチを押しても起爆しない。すでにそのあたりは対処済みだ。

 そいつらはそろいもそろって半日活動を行っているテレビ局と新聞社の腕章をつけていた。後日警察の捜査に経営者幹部連中は軒並み逮捕されている。


 さて、仕切り直しだ。


 スパリゾート周辺は高さ20mほどのフェンスが張られていて、表からその様相は見えなくなっている。

 ゲート周辺のみ、同じ高さで幕が張られている。

 こんなにマスコミが集まったのは今日の除幕式に株式会社宇宙船地球号の社長が出席するというマスコミ向けのレビューが送り付けられたせいだ。


 つまり、俺が今日は演壇に立って挨拶する。


 すさまじい勢いのフラッシュライトを浴びて、俺が演台に立った。

 俺はマイクに向かって話し始めた。


「今日は当社スパリゾート『スペースホースロッジ』のオープン記念式典にご参加くださいまして誠にありがとうございます。元々ここは競走馬のための牧場でした。手放されるという話を聞きつけ、ここをわが社で買い取り調査しました結果、地下2,000mほどのところに温泉があるのを発見し、この地に滞在型保養施設スパリゾート『スペースホースロッジ』をオープンさせることとなりました。ここでは様々な入浴施設のほか、水着で遊べる温水プール、引退した競走馬が暮らす牧場などがございます。また、従業員のための村も併設されています。客室は全部で300室を完備し、どなたがお越しになっても快適にお過ごしいただけると自負しております。また、温泉はロッジ客室各部屋にも給湯いたしております。そのほかにもレストラン、バーベキューハウス、そしてわが社が誇るリラックスジムも完備しております。これらの施設はわが社の新事業の第2弾となるわけです。そしてもう一つ、わが社の事業第3弾も夕方以降に公開いたします。それまでの間スパリゾートをどうか楽しんでいってください。」

 俺はそう挨拶して演台を下りた。


 この後は早瀬ら3人と田中社長、蔵元会長など関係者によるテープカットだ。

 俺が真ん中に進むとすぐ横の早瀬が

「おい努。第3弾ってなんだよ。聞いてないぞ。」

 と小声で話しかけてきた。

「いや、少しくらい楽しみがあってもいいじゃない。もうすぐわかるから。」

 俺はそう言ってはぐらかした。


 それではどうぞという掛け声のもとテープをカットした。

 それとともに舞い上がる風船。飛び立つ白い鳩。割れるくす玉。舞い散る紙吹雪。

 この辺はお約束だよな。

 それとともにゲート上を覆っていた幕が外された。


 ゲートの中には俺がイメージしたロッジが立っていた。

 このロッジは六角形の形をしている。その中央部分が温泉施設になっている。

 六角形のホテル部分は地上3層になっている。

 上層に向かうほどに少しずつ六角形が小さくなって内側にはみ出た形となっている。

 その下は遊歩道となってベンチなどが備え付けられており、常に温泉が流れているので、冬でもTシャツ一枚で過ごすことができる。夏には温泉を流さない。


 その回廊から20mほど内側にあるドームが温泉施設だ。

 通常の温泉施設と温水プールが半々になっている。

 温泉施設の方は壁面は木材でできており、目隠しされていて天井部のみガラスとなっている。もう半分の温水プールの方は前面ガラス張りになっている。

 このガラスも強化ガラスを2重にしているせいで、保温性が向上している。


 ゲートから入ってきた正面側が温水プールで向こう側が温泉施設となっている。

 六角形の一辺を入口からロビー、フロント、各種売店となっていて、六角形の反対側の対辺にはリラックスジムが備え付けられている。リラックス・ポットの数は300台を用意した。1階は主にレストランやバーベキュー施設などの飲食や服飾雑貨を販売しているスペースで埋まっている。


 2階は200室が個室としてあり、3階は少しゆったりとしたスペースで100室用意してある。2階は日帰り利用などにも対応している。部屋での飲食も館内電話で注文することで可能になる。要するに出前だ。


 1階には従業員用の執務室のほか、従業員用の食堂やトイレ、温泉、シャワーなどを完備している。また、医師14名によるローテーションで1昼夜常にだれかが詰めてくれる手はずになっている。


 この常駐診療所の医師を募集したところ、応募が殺到した。

 中には住み込みで働きたいという人もおり、そういう人から優先で決めた。

 他にも地元の大型病院の看護師なども応援で来てくれている。

 これも応募が殺到した。


 みんなの目当てはリラックスジムと温泉施設だ。


 常駐者は週に2日ほど医務室に詰めるだけで後はのんびり温泉につかったりジムに通ったりできるとあって、特に高齢の引退を考えている医師からの問い合わせが殺到した。

 その中でも厳選して来ていただいている。


 中には奥様とともに移住してくれた医師もいる。

 そういう方たちの従業員専用村はこのロッジから見えない位置にある。

 実はそこまでの行き来は地下道でカートに乗るだけで移動できる仕組みになっている。

 冬の雪対策も万全だ。


 ドームはもちろんフラードームで設計してある。

 このドームはうちの会社のシンボルだからね。

 会社のロゴマークもこれにしている。

 いつ見てもバランスの取れた美しいドームだ。


 俺は蔵元会長を案内しながら各施設を一つずつ見て回った。

 今日は関係会社の従業員もすべてスパリゾートに招待しているため総勢500名ほどの関係者になっている。それらすべて今日はこの施設に泊まってもらうことにしている。


 これも福利厚生の一環だ。東京からの飛行機代もすべて会社持ちとなる。

 関係者の中にアンドロイドが少ないのは主に警備に入っているのと、各施設の店舗なども彼女たちに運営してもらっている。彼女たちは温泉施設が珍しいらしく、ここの施設が完成してからというもの、団体で毎晩ここに転送してきて遊んでいたようだ。


 そのおかげで運営方法も確立できたし、不具合もオープン前に見つけられて助かっている。本当は従業員だけで先に試してもらおうかと思っていたんだけど、愛ちゃんが私たちが検査いたします、と毎晩ここに出かけていた。


 うん、アンドロイドのみんなも楽しんでいるようでよかった。

 最近それぞれのAIに個性が出てきているようだ。やはり日本のサブカルチャーに影響されているらしく、アニメのキャラクターで自分に似ているキャラを探し出してはそのキャラになりきっている節がある。業務に支障のない範疇でお願いしたい。


 アンドロイドのみんなも地球号に水着を各人置いているそうだ。

 ここの温水プールが以外のほか大人気らしい。


 さて、蔵元会長も歩き疲れただろう。

 少し休んでもらうためにも昼食をバーベキューに誘った。

 そこで肉を焼きながらビールを飲む。

 俺たち4人と蔵元会長でそろって

「「「「「プハー!!」」」」」

 いやーうまいね。


 窓の外の牧場では馬が元気に走っているのが見える。

 実は引退してきた馬はここの厩舎で馬用のメディカルドックに入って体の故障などを直している。

 それに馬用の温泉設備もある。


 精いっぱい戦った馬だからこそ味わえる贅沢な余生があってもいいんじゃないかと考えて作った設備だ。


 なんか競走馬ってがむしゃらに働いてるサラリーマンにダブって見えるんだよね。

 そう思っちゃうとたまらなくなって設備を次々に追加しちゃった。


 今では全国の厩舎から予後不良になった馬も含めて殺処分せずにこちらで引き取っている。

 ただ、あくまで引退した馬限定にしている。

 ここの施設で若返ったといっても復帰させたりはしない。

 引き取る際にはその旨を書いた承諾書にサインをもらっている。

 種付けだけでも億が動く世界だからね。

 そういうのをしっかりしておかないと後が大変になる。


 蔵元会長と食事している最中にも何度か思考通信でマスコミが問題を起こしたことが報告されている。

 そういうのは問答無用で排除している。施設を壊したものには損害賠償を請求するようにしている。そのための弁護士がこの館内にも常駐しているし、東京にもスタンバイしている法律事務所がある。そういうところに訴状と証拠の写真や動画を送ることで、すぐに手を打っている。


 自分のところの社員からは報告がないのに、いきなり損害賠償請求を証拠付きで出されたマスコミ各社は右往左往しているらしい。

 お行儀のよいところはそれなりにちゃんと取材してくれているのにね。

 問題を起こしたマスコミは今後一切、我が社の催しへの参加は禁止している。

 無断で画像などを使用した場合も迷わず告訴している。


 そのあまりにも早いレスポンスの所為で、マスコミ側の顧問弁護士も大忙しだそうだ。

 おかげでマスコミ関連から支払われた賠償金だけで今年一年で2億を超えている。


 こちらの弁護士たちには、うちの会社は上得意先になる。

 何せ告訴状まで証拠付きでそろえてくれているものだから、仕事が早い早い。

 そしてうちからの依頼は負けることがない。

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