28.あれからそろそろ1年が経つんだな

 アンドロイドたちは表舞台に出るにあたりそれぞれ名前、戸籍を取得していた。これは通常では取得できないため、それらしい過去を作って、役所のデータに介入して作り上げたものだ。

 俺がこれを知った時はすでに2,000人余りの戸籍取得がなされた後だったので、そのままスルーした。


 いいんだよ。ばれなきゃ。


 しかし、彼女たちを日本から海外に派遣することができずにいた。

 それは単純な話飛行機に乗る際にレントゲン検査があるためだ。

 元が機械の身体だけに、これらの検査にかかるとすぐに人でないことがばれてしまう。

 どこまでも皮膚に近くてもそれは人工物に変わりない。

 骨格や頭脳から金属反応を消すことはできていない。

 それでも海外への出店要請にこたえるためにはどうしたらいいのか。

 俺たちは悩んだ挙句、愛ちゃんにあっさり提案されてそれを承諾した。


 渡航できないのなら、現地採用すればいい。

 つまり……。各国の住民管理システムにハッキングを仕掛け、数百名単位の履歴をでっちあげたということだ。

 もちろん外見はその国に合わせて変えてある。

 こうして世界中で1万人規模でアンドロイドが出店していったことになる。

 合衆国では西海岸はロサンジェルス、東海岸ではニューヨークにそれぞれ1,000人規模のリラックスジムをオープンさせた。

 従業員は警備も含めそれぞれ300名体制になった。

 それぞれ給与も払い、税務申告も行っている。

 入会金は2,000ドル(約20万円)、1回の利用で200ドルと日本の倍の料金設定にした。

 それが20か国に及んでいる。

 経営や審査は広報チームから専属のスタッフを構成し、それぞれの国ごとに経営者として所属している。

 海外進出あたりから俺も忙しくなったので手を離れたが、報告だけは毎日受けている。

 その売り上げはすさまじい勢いになっている。


 株式会社宇宙船地球号の関連会社や子会社でリラックスジムの関連商品を製造し、販売もしている。

 その商品群はスポーツドリンク、プロテイン、スナック菓子、エナジーバー、タオル、きんちゃく袋、フィットネススーツからシューズに至るまですべて賄っている。

 これだけでそれぞれの会社は世界中に販売先を持っていることになり、一気にグローバル会社となっていった。


 そのころ俺たち幹部4人はようやく半年が過ぎ、アーバン商事の仕事も片付きだし、研究施設の方に注力していた。

 しかしそのころには俺たちは日本でもかなりの有名人になってしまっていた。


 謎の新興企業として各種メディアで取り上げられ、俺たちの名前も画面にさらされてしまった。

 登記簿謄本を見ればその役員は一目瞭然となる。

 しかし、どのメディアも近影の写真を入手することができないでいた。

 画面に映し出されたのは俺たちが高校時代の卒業アルバムの写真ばかりだった。


 それぞれの親戚の中には俺たちの情報を売って金にしようという輩が出てきた。

 あらかじめチェックしていた人物たちだった。

 俺たちの両親や家族は事前に事情を説明し、俺たちの保護に入ってもらっていた。


 うちのかあさんもフィットネス・ポットのとりこになっている。

 親父も同じくだ。

 マスコミの手が従業員にまで伸び始めたころには、都心の高層マンションを1棟すべて買い取り、十分なセキュリティを施したうえで、従業員に賃貸で貸し出している。

 もちろん家賃は格安だ。

 そのためマスコミのわずらわしさもあって全家族がこのマンションに引っ越してきた。

 そして元々2階にあったフィットネスクラブにフィットネス・ポットを置き、住民専用として活用されている。

 たとえ住民の友人と言えどもこの施設は使用できない。

 住居部分50層、1フロア20軒となるためこの一棟で1,000世帯が居住できる。

 ほかにも同様なビルを後2棟建設中である。

 いや、1,000世帯分でもまだまだ十分に空いているんだけどね。


 俺個人と会社に税務監査が入ったのもこのころになる。

 俺個人の資産を根掘り葉掘り聞かれた。

 元々愛ちゃんが用意してくれていた帳簿と株式売買の記録を提示して事なきを得た。

 しつこく粗探しをしようとしていたが、1週間ほどで何も出ないことがわかって撤収していった。

 俺はその間、連日税務署員に詰問されていた。

 なぜこれだけ株で大儲けできているんだ。インサイダー取引してるのではないか。

 など、他人が儲けるのが妬ましいのだろう。

 俺はいや~、感が冴えちゃってと煙に巻いた。


 会社の方の業績も調べられた。

 企業一年目のそれもたった半年での税務監査は異例だ。

 だってまだ1年目の税務申告すらもしてないんだから。

 この点を指摘するとどうやら上からの圧力があって検査しているらしい。業績に後ろめたいことがなければ協力しろという。まったく、迷惑な話だ。


 俺はこのあたりの調査の模様を動画にとって動画サイトにアップした。

 あまりにも横暴なそのやり取りはたちまちネット上で炎上し、その担当官と上司がまとめて懲戒解雇となった。


 この時の動画は俺の横に控えていた愛ちゃん目線だ。

 俺の顔にはモザイクがかけられ、音声のみが流された。

 税務官はその名前も含めて所属先や顔までばっちり写っているものを流してやった。

 肖像権の侵害だと動画の非公開を申請してきていたが、それが通るまでにはすでにその担当官は懲戒解雇を食らっていた。


 他にも政治家の連中が寄付の催促だとか、宗教団体からの勧誘なども会社に押し掛けてきた。右翼と名ばかりのよその国の団体とかも。

 そういうのはお客様の邪魔にもなることなので、事前に排除していった。

 その大半は富士の樹海で真っ裸でさまよっているところを保護されていた。

 なぜ自分がここにいるかわからないそうだ。かわいそうに。


 また、会社の方にはなぜかアーバン商事時代の取引先からひっきりなしに連絡があり、様々な商品の発注をかけてきた。

 あからさまに嫌がらせ目的の架空発注もあり、すべてお断りしている。

 親会社の傘下から外れた途端、嫌がらせをかけてきたのだろう。


 すでに会社の商社業務は世界各国のリラックスジムの支店への受発注業務だけに絞って行っていた。それ以外には研究センターの資材発注ぐらいだ。


 それと、ようやく北海道のスパリゾートが出来上がってきた。

 もうあれから一年たつんだな。

 あっという間だった。

 というのもこれら以外にも俺はひそかに地球号で商品開発を進めていたからだ。

 本当にメディカル・ポットにはお世話になっている。

 その開発した商品群もスパリゾートオープンに合わせてお披露目する予定だ。

 一年かけて開発してきたことが日の目を見ることに喜びもひとしおだ。

 全て製品検査も済ませてある。

 またこれらの機器のメンテナンスステーションも整備済みだ。

 このプロジェクトではアンドロイドを管理者として1チームに1体だけ配備し、それ以外は人の手で運営していく予定だ。

 すでに雇用と教育は済ませてある。

 今までの教訓を生かして10チームがスタンバイできている。


 さて、ようやくだが、面白いことを始めよう。


 こうして株式会社宇宙船地球号の第2弾になる事業が開始され、合わせて第3弾の事業も発表される運びとなった。

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