26.研究開発センター(仮)オープン
愛ちゃんたちによって翌朝には田中工業の敷地内地下に研究開発センター(仮)をオープンさせた。
極秘研究になるので、式典なんかはやってないけど。(仮)なのは、北海道に本部は建設中だしね。ここは非合法に作っちゃったから、公にできないし…。
早速その晩から各社の技術研究者が集まり、メディカル・ポットで2時間かけて体の最適化を行った。
効果は抜群で、もともと能力の高い人ばかりだったせいもあり、次の日からはさっそく作業に取り掛かっていた。
2週間後には株式会社ハルの設立も登記できて、正式に動き出した。
困ったことにハルへ参加したいという研究員が後を絶たず、このままだと通常業務をこなす人材までハルに移動しかねないと社長たちから相談を受けた。
そりゃそうだよな。
能力が上がって、未知の技術に触れる機会は早々出会わない。
身体活性化を済ました社員に『ハルでの研究に参加したければ、現在抱えている業務をすべて完了するべし』の大号令の下、昼間は通常業務、夜は研究開発とみんな意欲的に働いてくれた。
あまりに夜遅くまでする人が後を絶たなかったため、21時までの制限をつけて開発させた。
タブレット、スマホ、腕時計の3点セットは支給してあるので、彼らはそれを家に持ち込み研究や新技術の理解のための勉強を続けた。
朝8時から17時まで通常業務。それから田中工業に移動して18時から開発開始。20時半まででいったん終了させてそれからフィットネス・ポットで身体活性化を行い帰宅するというルーティーンが出来上がっていった。
フィットネス・ポットに入れるようにすることで、研究を途中で止めることを納得してくれた。やはりかなり身体も頭も楽になるらしい。
俺は毎晩入っているので、そこまでのリフレッシュ効果は感じないが、いつもさわやかな朝は迎えられている。確かにこの感覚は癖になるよね。
やはりこれは社畜製造機だ。ただ、みんな一言も不平不満が出ることもなくむしろ快適で身体の調子がよく意欲的に業務に取り込めて、充実度も高い。
これに何の不満が出てこようか。
いや、出てきたんだよな、不満が。
うちの会社も含めて家族たちにも利用させろっていう声が日増しに大きくなってるんだよね。
幹部連中で協議した結果、フィットネス・ポットを複数台、各会社に設置するのとわが社の1階2階を関係各社の家族にまで公開した。
これは福利厚生の一環ではあるのだけど、かなり好評のようだ。
従業員とその家族以外を除外するために利用するためのセキュリティカードを発行した。
これには本人確認のための帝国の技術が使われており、本人以外がこのカードを使ってフィットネス・ポットを使用しようとしても動かないようになっている。
わが社では会社の入出退管理にも採用している。
愛ちゃんとしてはウハウハなようだ。
地球人のサンプルが老若男女毎日とれるようになったからだ。
これらを実績として帝国のデータバンクに登録していっているらしい。
また、これらのデータ取りを目的としてのメディカル・ポットの増台だったようだ。
……何か日本人の遺伝子に興味を引くようなものがあったのかな?
ふとデータを見ながら愛ちゃんがぽつりとつぶやいているのを聞いてしまった。
「この田中社長の知性と理性の伸びは著しい。田中社長の細胞にドルーア星のドワーフたちの細胞をつけて培養するとすごい技術力を持った知性のある種族が誕生するんじゃないかしら…。」
「……愛ちゃん。頼むからやめてね。」
「………もちろん、そんなことは致しません、マスター。」
うん。その間がすごく怖いんだよ。押すな押すなでもないからね。
「それより、マスター。少しまずいことが起き始めております。」
「まずいこと?愛ちゃんが言うからにはよっぽどのことなのかな?」
「いえ、現象としてはまだそのきざしが見えた程度ではありますが、このまま推移しますと暴動に近いバッシングに発展する恐れを含んでおります。」
「え?え?それってただ事じゃないよね?詳しく聞かせて。」
愛ちゃんが言うにはネットであるうわさが流れているという。
それは危惧したとおり、フィットネス・ポットの噂だ。
確かに、社員の家族の奥様方は連日訪れてるもんな。
そして元気いっぱいジムで汗を流して、元気溌剌って感じだ。
これで周囲の人に怪訝に思われなかったらよっぽど孤立してるぞ。
「マスターのお考えの通りです。口コミで広がっていたことが今ではネットでも広がりを見せ、盗撮写真も出回り始めています。使用前、使用後という感じで。これは何らかの手を打たないと暴動に発展する恐れがあります。すでにネットでは『新しい宗教団体か?』とか、『あそこまでの若返りの効果があると医療行為ではないか?』とか、『そのマシンを開放して私たちにも使わせろ!』とか様々なうわさが流れています。
本日それに合わせてテレビ局からの取材申し込みがございました。いかがいたしましょうか?」
愛ちゃんにそう聞かれて、俺は頭を抱えた。
いや、確かに危惧してたんだよな。うちに通ってる事務の女の子の高橋さんちのおばあちゃん。毎日通ってるもんだから、40代でも通るもんな。確か実年齢は70だったか。そこまで効果がないはずなんだけどな。今ではおばあちゃん、ジムでトレーニングまで始めちゃってるから、相乗効果でどんどん筋肉ついてきちゃってるし…。
「愛ちゃんどうしたらいいんだろう?」
俺は愛ちゃんに丸投げした。
「北海道のスパリゾートのオープンまではまだ半年ありますし、この際ですから、一般公開してみてはいかがでしょうか?」
「え?公開するの?会社のジムに一般人が入ってくるの?ん?なんで愛ちゃん今目が光ったの?」
「光の加減ではないでしょうか。一般に開放するのは社内ジムではなく、別の場所を使ってフィットネスジムをオープンさせるのです。今のフィットネス・ポットでは地球人には効果が高すぎることがすでに分かっていますので、もう一段効果を落としたものを導入してはいかがでしょうか?都内で30か所ほど。地方都市にそれぞれ一か所で全国で250か所ほど。」
「いや、多いよ!いきなりそんなに出店できないだろ?」
「いえいえ、こんなこともあろうかとすでに帝国から追加のアンドロイドを1,000体転移させております。今まで取れたサンプルデータから、見た目もそれぞれ違う美人が1,000体です。各フィットネスジムに4名ずつ配置し、あとは現地雇用でまかなえば短期間での開業は可能だと思われます。」
…なるほど…。それにしてもよく1000体のアンドロイドをよこしたもんだな。
「それにフィットネス・ポットにつきましても元のメディカルポットの1/50の機能で、身体の活性化のみを施すものにしてはいかがでしょうか?現在のフィットネスポットが10歳若返るとしたら、5歳ぐらいに落ちるでしょうか。」
「え?でも高橋さんちのおばあちゃんは10歳程度じゃないぞ。どう考えても30ほどは若返って見える。」
俺は先ほど思い浮かべたおばあちゃん、今はすでに美魔女と化した雅子さんを思い浮かべて言った
「それはご本人の努力次第ということです。」
努力であそこまで若返ったんか、雅子さん。
「雅子様については先日『もうこんなに若返っちゃったら老人会に顔を出せなくなっちゃった、てへっ。』と申しておりました。少し調子に乗っているようですね。」
いやいや、てへっはやりすぎだろ。確かにその様子だと調子に乗ってそうだな。調子に乗って老人会で自慢しまくったんじゃないだろうか…。ありえそうだ…。
女はいくつになっても女だってことなんだろうな。
う~怖い。
その矛先がうちの会社に向けられるのも時間の問題か…。
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