21.決起集会

 俺はそのあとも時間一杯新会社の構想を書面に起こしていった。

 愛ちゃんと話しながらなのでスムーズにできていく。

 手が打てるところはどんどん手を打って行ってくれている。

 よし、何とか今日みんなに発表できるところまでできたな。


「それでは、マスター。これらの資料は本日決起集会で発表できるように整えておきますので、マスターはそろそろ会場の方に向かわれてください。」


「了解。あ、そういえばメディカル・ポットの方の用意はできてたのかな?」


「はい、マスター。メディカル・ポットの劣化版を40台ほど新たに入手し、会場近くにもう一部屋宴会場を借りて、そこで施術していっております。すでに大半の方が施術を終わり、皆さん元気溌剌で若返っておられます。」


 ……それはそれでみんなに会うのが少し怖いな…。


 まあ、何とかなるでしょ。


「じゃあ、転送してくれるかな?」


「はい、マスター。ホテルに社長用の控室をご用意しておりますので、そちらに転送いたします。」


 次の瞬間にはホテルのスィートルームに転送されていた。

 なんでスィートルームってわかるかって?

 いや、こんな豪華なソファーが置いてある応接室ってスィートぐらいでしょ。

 ノックの音がして、女性のスタッフが入ってきた。


「柏木社長、お疲れ様です。別個体ですが、中身は愛です。それではご案内いたします。」


 今までとは違う愛?に先導されて、俺は決起集会が行われる宴会ホールのバックヤードに進んだ。ここから出ればすぐにステージになる。

 ステージ裾から会場を見るとどの社員も緊張しているのがわかる。


 そりゃそうか。


 いきなりこんなところで新会社の発表を行うなんて、3日前には考えられなかっただろうからな。

 大丈夫。俺も考えてなかったから。


 みんなが整列して椅子に座っている会場の明かりが徐々に落ちていく。

 いよいよ俺の出番だな。

 俺はステージ中央の演題の前まで進んで、マイクに向けて話し出した。


「新会社設立に向けてお集りの皆さん。私が新会社の社長をいたします、柏木努と申します。以後よろしくお願いいたします。私はアーバン商事の親会社であるインターステート商事の蔵元会長から推挙され、新会社設立に至りました。すでに会社の発足経緯はご存じのことと思われますので詳細は省かせていただきます。アーバン商事の下請けを請け負っていただいていた会社で新会社設立にご協力いただけるとお約束いただいた15社ほどの会社の代表の方にもご臨席賜っております。

 また、インターステート商事の会長並びに新社長にもお越しいただいております。

 しばらく皆様のお時間をいただき、新会社についてご説明させていただきたいと思います。

 まず、現在下請けで頑張っている会社の代表の方々。ご安心ください。アーバン商事で請け負っていた業務はすべて滞りなく業務を推進しております。支払いは確約させていただきます。アーバン商事からの業務継続するものは最短で3か月、最長で1年で業務が終了いたします。

 今回この会社は緊急避難的に立ち上げる必要があったからこそ、こんなに短時間でこの決起集会まで参りました。

 しかし、1年後のアーバン商事からの引継ぎ業務が終了した時点で、その役割は基本終わります。しかし、従業員の生活は続くわけです。このままインターステートの下請け的な仕事を続けていても結局はその主従関係から、今回のような不祥事を招きかねません。

 そこで我々首脳陣4名で考えました。

 もっとやりがいのある仕事はないだろうか。

 今までの商社での経験を活かした、もっとやりがいのある仕事は…。

 商社というのは商品を右から左に動かすことで利益を上げるお仕事です。

 しかし、この世界の資源は有限です。その資源を有効活用できる世界、環境汚染などを防ぎ、改善する役割を持った会社。そういう会社を目指して私は今回の新会社を設立したいと考えました。

 会社の事業目的は次のようになります。

 1.地球環境の保全、改善のための技術開発

 2.より高度化した商社としての役割を担う輸送システムの開発

 3.従業員の健康管理を主としたフィットネス事業への参画

 4.日本各地へ展開する移動遊園地を基軸とするエンターテイメント事業

 5.これらで開発された様々な商品の実用化、販売

 これらを軸とする新商社を立ち上げたいと思います。」


 それぞれ絶妙なタイミングでスライドで俺が話した言葉が全面スクリーンに映し出されていた。


「これからの社会にはこのような役割を持った複合企業が必ず必要になってくると確信しています。

 これまでの商社でも、その役割を担っていたところはたくさんありました。

 しかしどこもこれらを専門に扱う企業ではありませんでした。

 なぜか。それはあくまでそれらが商社の域からはみ出なかったからです。

 私は商社の役割と必要性を痛感しております。

 だからこそ、専門性を持った商社の必要性を感じているのです。

 この有限な地球の資源を有効に使い子孫にも残し、共に暮らそうという発想はバックミンスターフラー氏による言葉で表されています。

 地球につけられたその名前を私はあえて会社名にしたいと考えております。

 その名前は…。」


 俺が少し溜めをつけると、それに合わせてドラムロールが鳴り響いた。

 そして俺の発声とともにスクリーンに映し出された。


「株式会社 宇宙船地球号とします。」


 あまりな名前に早瀬他3名も噴き出したようだ。

 いや、別に地球号の存在を世に発表する気はさらさらないけど地球号なくして、俺の会社は語れなくなっていくと思う。

 そういう意味での命名だ。

 ほかの人たちの反応は…。ああ、会社名らしからぬ名前にちょっと引いてる人もいるな…。

 まあ、そのうち浸透してくるよ。

 これだけ名が体を表している名前もないんだから。


「皆さんにはあとから、バックミンスターフラーの著書をプレゼントいたします。それほどこの発想は面白いと私は考えています。

 もし、万が一に会社の方針と自分のやり方が合わない場合はほかに移られた方がいいと思います。

 これは一生のやりがいのある仕事になると確信しています。

 それにすでに社員の皆さんは体験されたことと思いますが、フィットネス・ポット(メディカル・ポットでは医療用機器ととらえられそうなのであえて濁している)をすでに体験していただいていると思いますが、いかがでしたでしょうか?

 身体が活性化し、やる気に満ちているのではありませんか?

 関係会社の代表者の方にはこの決起集会が終わった後でぜひ体験していただきたいと思います。

 つまり、あのような商品を今後開発し、皆が健康でよりよい社会を作っていこうと考えています。」


 俺はこの後も愛ちゃんと話し合って日本の技術者に指導することで開発できそうなものをピックアップし、それを順次発表していった。


 ・放射能除去装置

 ・土壌改善装置

 ・常温核融合発電装置

 ・重力制御装置

 ・水質浄化システム

 ・ゴミ処理装置


 そして北海道に建設予定のスパリゾート村の完成予想図や併設された先に挙げた装置の開発センターを発表した。


「まさかそんなものができるとは思わないと皆さんはおっしゃるでしょう。しかし、私は3年で実用化に向けて開発することをここに宣言します。ぜひみんなでより良い世界を作りましょう。本日はわが社の船出の日に立ち会っていただき、誠にありがとうございました。」


 俺はそう言ってバックヤードに引っ込んだ。


 しばらく静寂が続いた。

 そりゃそうだろうな。

 あまりにも予想がつかないことばかりだもんな。


 静寂の後、会場が割れんばかりの拍手と歓声が響き渡った。

 自分たちの手でこういう理想の世界が作れる可能性を見てくれたようだ。


 特に下請け会社の社長の中には泣いている人もいる。

 田中工業の田中社長だ。

 実は一連の開発の中でも核を担う会社になると考えている。

 実際そう教育していくんだけどね。


 会場のみんなはその場で立食パーティーに切り替えた会場設営をして、思い思いに夢を語っている風景が目に入ってきた。


 うんうん。いい会社にしようね。

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