20.拠点が面白くなりそうだ
メディカル・ポットは2時間で必要な睡眠時間を満たしてくれるけど、それ以上眠れないってことではない。
俺は快適な眠りから朝の6時に目が覚めた。
うん、快調快調。
俺は部屋に備え付けてある風呂に入りのんびり朝風呂を楽しんだ。
風呂から上がり、備え付けのクローゼットからスーツを出して、着替えた。
このクローゼットには、いつの間にか愛ちゃんがそろえてくれたらしく、かなり高級そうな生地のスーツがいくつも吊るされている。
下着やその他の服についても同様に何着も用意されている。
今や体系もすっかり変わったので、前の服が着れなくなっているそうだ。
…これって、あの連中も同じことになってるよな…。
愛ちゃんにお願いして…ああ、もう用意してくれてるのね。ありがとう。
革靴を履いて、今日は赤いネクタイを締めていこう。晴れの日だしね。
俺はソファーに座り、のんびりとコーヒーを飲むことにした。
ドアが開き、アンドロイドの愛ちゃんが部屋に入ってきた。
「おはようございます、マスター。」
「おはよう、愛ちゃん。」
「早速ですが、マスター。こちらをご覧ください。」
と愛ちゃんが手をかざすと、空中にいくつものパソコンの画面のようなものが浮かび上がってきた。
「どうしたの?何かあった?」
「いえ、特に何かあったわけじゃございませんが、今朝までの進捗のご報告です。」
そう言って一つのウィンドーを俺の前に引き寄せ、説明を始めた。
「まずは地球号のドックのための北海道の牧場跡地ですが…。」
牧場跡地の取得、その場所の地底探査の結果が画面に表示されていた。
「実はこの土地の深度2,000mほどのところに温泉があることが判明いたしました。」
「うぉ。それはすごい。それって掘ることは可能なのかな?」
「もちろん可能でございます、マスター。」
「そうかそうか。それじゃああのプランに最適な本拠地ができそうだよね。うんうん。じゃあこうして…。」
俺は温泉と聞いてテンションが上がり、地球号のドックとして使う場所以外のところで、温泉療養のできる娯楽施設を話し出した。
「これは…完成しますと、遠方からの観光客でにぎわいそうですね。」
「だよね。温泉設備の上はホテルにして、リゾートホテルとして使うのも手だね。」
「なるほど…。帝国での常識では如何に合理的に簡素にというのが常なのですが、なるほど…。帝国ではすでに失われている娯楽がたくさんこの地球にはありそうですね。早速調査した情報から娯楽に対して洗い直しを始めます。」
そう言って楽しそうな表情を見せた。
……確かに、俺を観察して賭けの対象にしているぐらいだから、娯楽には飢えてるんだろうけれど、帝国には温泉もないのか…、いや、温泉を楽しむという感覚が廃れているのか…。
「ところで、地球号のドックはどんな感じになりそう?」
「はい、こちらが完成予想図です。一部植林をして、周りの目から開口部が見えないようにして、ステルス状態で出入りできるようにいたします。開口部は平常時は封鎖されておりますが、入渠時にはこのように開閉いたします。」
と、CGのアニメーションでドックの入り口が開いていくのを見せてもらった。
う~ん。子供のころに見た操り人形のレスキュー隊の基地のようだ。
面白い。
いや、面白いのはいいけどよく見たら結構な規模だよね…。
「規模としては敷地面積いっぱいに広げておりますので、5㎞四方ほどはあります。地球号クラスの戦艦ですと10隻は収容して、メンテナンスが同時進行可能になります。」
「いやいやいや。そんなに大きいの作ってどうするの?」
「いえ、マスター。これは帝国からの要望でもございます。」
「ん?帝国からの要望…?まさか侵略してくるの?」
「いえ、マスター。前にも申し上げました通り、帝国がこの惑星に侵略してくるメリットがございません。こんな辺境の星を侵略しても統治が大変で…。まあ、あったとしてもたまに視察に来るぐらいだと思われます。」
「なるほどね…。まあ、いいか。でもこんだけ大きなもの作るのにどんだけの時間と金がかかるんだよ。」
「それについては帝国の誇る技術力で、解決いたします。資材は転送装置にて現地に直接運び込みます。期間は約1か月を考えております。」
「すごいな…。この規模のものが1か月で作れるなんて…。ただ、この手のものを日本で作るとなると、建築の確認申請も大変だろうな。半年ぐらいかかるんじゃないだろうか。それに材料の認定もいるだろうし…。う~ん。うまくいって一年、普通だと5年は最低かかるんじゃない?」
「そうですか…。原始的な惑星でしたので、危惧しておりましたが、そこまで手続きが煩雑とは…。今確認が取れました。確かにマスターのおっしゃる通り、外壁ドームの構造物認定、材料の認定、強度試験、これらに約4か月ほどかかりそうですね。…それに現地の一級建築士の申請でなければ確認申請も通りそうにありませんね。」
ただただ感心するばかりだね。だってこれ直径2㎞、高さ1㎞の半円ドームを含んだレジャーランド構想なんだよ?中央には高さ500mの複合レジャーホテルを中心として、周りには温泉設備を使ったプールなんかも併設されてる。出入り口の開口部だけでもかなり大きい。まあ、お手並み拝見と行きますか。最悪、俺は別にこの施設がなくてもかまわないからね。地球号のメンテナンスだってそもそもそんなに必要とは思えないし。当初の補償契約書ではメンテナンスも帝国持ちで永久に行われるって書いてあったんで、特に気にしていない。もっと言えば、まだ数日しかたってないんで、この地球号の中も見回ってないからね。何があるのやら。
「いいんじゃない?まだまだ計画段階なんだから。それに3年かかろうが、5年かかろうが気長に行こうよ。」
「はい、マスター。どうやらこの地球には1,000m上空に設置する技術もおぼつかないようで…。技術進歩を待つしかありませんね。」
「いやいや、今度は打って変わって気の長い話をしてるな。計画を変更しようよ。これだけ土地があるんだし、高さを稼ぐより面積で部屋数を増やして、高くても2~3階建てぐらいで、ロッジ風の…そうそうそう!こういうの!」
俺が話をしながら頭に描いたホテルを話していると見る間にそれが立体造形として作られていく。
これは便利だ。そうか。俺の思考を読んでいるだろうから、俺が思い浮かべたものを参考にしてどんどんデザインしていけるのか…。それも立体で。これは今後もあのプロジェクトで活用できそうだ。
「それでいいんじゃない?それと建物以外のところは元の牧場らしい風景を残して…。そうそう。競走馬が引退した後には引き取ってここで放し飼いにしてもいいよね。そういう風景が残っててもいいと思うんだよね。元々ここの牧場で暮らしていた人たちもいたんだろうから、そういう人を雇って、馬の面倒を見てもらえばいいよね。一角に従業員のための村を作ってもいいな。老人でも働ける人なら、どんどん働いてもらって、ゆくゆくは終の棲家として、余生を過ごしてもらえばいいな。あくまで従業員の宿舎だから働かない人は入れないけどね。まあ、畑を耕したり、馬の世話をしたり。年を取ってもできることはたくさんあるだろうしね。それにメディカル・ポットがあるから、結構老人でも長く働けるんじゃない?」
若いうちは一生懸命働いてもらって、年を取ったら、ゆっくり働いてもらう。そういう施設になればいいな…。温泉もあることだしね。のんびりと暮らしてほしい。
うん。いいんじゃないかな。
「これでいいんじゃないかな?」
「はい、マスター。素晴らしい構想だと思います。それではこれで進めさせていただきます。」
出来上がりを楽しみにするか…。
ん?そうだ。もう一つ気になってることがあったんだ。
「愛ちゃん、この施設って結構電気を食うよね。それと下水道施設。そのあたりはどう考えてるの?」
「はい、マスター。電気については常温核融合施設をドック内に併設し、上水道については地下水を浄化することでまかないます。下水道については、ドルーア星にて捕獲しました生物を排水槽にて飼育することで、浄化が可能だと判断しております。この生物はここ地球でいうところの、いわゆるスライムという生物ですね。」
……アブねぇ…聞いといてよかった…。
「え~っと、愛ちゃん。地球ではまだ常温核融合発電施設は開発されてないし、スライムなんて生物で役所が認可してくれるとは思えないんだ。だから発電もせっかく温泉があるんだから地熱発電で、下水処理設備は日本で作られているものを参考にして設置してくれるかな?できればほかに拠点を作る際にもこれは踏襲してほしいな。」
「マスター、地熱発電ではドックが必要とする電力量を賄いきれないのですが…。」
「じゃあ、ドックだけは別経路として常温核融合発電施設を作ってくれていいよ。これはどの国に作る場合もそうなんだけど、目に触れる場所や俺たち以外の人が利用する場所には地球にある技術、材料で作るようにしてね。じゃないとどこも認可が下りないから。それともし新素材や工法などがどうしても必要な場合は、専門家を交えて、協議したほうがいいと思うんだ。そのための子会社も作るように明日の決起集会で話をしよう。」
あぶないあぶない。
何でもすぐにやってくれるから気軽にお願いしてたけど、全部、チェックが必要だな。
……しかし、愛ちゃんは地球の、特に日本の情報は結構詳しく調べていたはずなのにこういう抜けがあるんだな。…ん?待てよ。ひょっとしてこれって試されてるのかな?
それとも日本の法律なんてどうにでもなると考えているのかな…。どっちもありそうだな…。
あ、愛ちゃんを見てたら今目線をそらした。
やっぱりそうなのか。
それにしてもわかりやすくごまかすな。
…あ、これもわざとなんだな。
もとは機械なんだし、動揺が表に出るってこと自体あり得ないんだもんな。
まあ、これも駆け引きの一つだと割り切っておこう。
どうせ俺の一生はもうどうしようもなく帝国に監視されているんだろうし…。
せいぜい娯楽になる範囲で試行錯誤させてもらおう。
俺はここ数日で以前の俺とは違う思考をするようになっている。
これが魔王の因子によるものなのか、メディカル・ポットの恩恵なのかはわからないが、どっちにしろ元には戻れないんだし、開き直るぐらいがちょうどいいのかもしれない。
そのほかの拠点のベースプランも同じようにロッジ風にしてもらって、設計してもらうことにした。
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