19.新会社設立のためのあれこれ

 不正発覚から役員解雇に至るまでがたった2日間で収まったこともあり、その後徐々に株価は元に戻っていった。

 評価された点は事業での失敗ではなかったこと。自己浄化機能があり、会社の健全さがアピールできたこと。現状の業務も滞りなく引き継がれて進められたことが高く評価されたようだ。

 まあ、俺にとってはどうでもいい。

 むしろ、新しい会社をきっちりしなければ。

 俺は明日開く予定の決起集会を前に、今夜も4人で集まり、それぞれの報告会を行った。


 まず俺から。


「今日はみんなご苦労様でした。え~結論から言えば無事親会社の役員も入れ替わり、再生インターステートとして再出発できそうです。また、それぞれに取締役をお願いしましたが、当分はアンドロイドの皆さんが、親会社に常駐して代行執行してもらえるようです。」


 次に早瀬から。


「俺の方は全社員の聞き取りを終わらせた。新会社で頑張りたいというものがその大半だったが、どうにも部課長連中のシンパが潜り込んで何やら画策しそうな動きがあったので、それらは面接からも除外した。結果、2/3の社員が新会社への移動に賛同してくれた。ちなみに給与は2割増しで提示している。まあ、業績が上がればボーナスでも出してねぎらってやってほしい。」


 次に山田から。


「俺は前社長と折り合いが悪くて、能力があるのに会社を追い出された人たちを中心に、スカウトの打診をして回った。すでに現在の職場に恩があるからと断られた人もいるが、今日だけで20名ほど確保できた。この人たちも早瀬と相談して今の給料の2割増し程度で合意してくれた。中にはかなりの薄給でこき使われていた人もいたが、そういう人たちは愛ちゃんたちが組んでくれた査定システムで、能力的に妥当な給料を提示して合意をもらった。中には泣いて喜んでいた人もいたよ。」


 最後は山下。


「俺は概ね柏木と一日中同行していたから、特に報告はないが、親会社の人たちの中にも俺たちの新会社への移動をねだってくるようなことを言われたな。もっともそういうやつらに限って上司が今回の一件で出世の目がなくなったのばかりだったけどね。今まで親会社の地位にいたから自分たちが好きにできるとでも思ったのかね。完全に別資本での別会社だと教えてやると、負け惜しみに暴言吐いてたよ。多分あいつらはあの会社では使い物にならないだろうな。」


 それぞれがそれぞれの場所で、上々の結果が出せたようだ。

 付け足すように山下が話し出した。


「あ、それと明日の件なんだが、辞表を提出した社員は全員出席の意向を聞いている。それと下請け会社も15社ほどが出席の予定だ。あとは辞表は出していないけど新会社に移りたいという人たちも明日の決起集会への参加は了承をもらっている。人数的にはアーバン商事の2/3ほどで、100名ほどになっている。」


 そうか、いよいよだな。

 といってもまだ2日しかたってないんだよな。

 気の休まる時間がないけど働けちゃう。あのメディカル・ポットは、実は社畜製造機じゃあるまいか…。

 まあ、やることが山ほどある今は十分以上に役立っているのでいいんだけどね。


「ところで、会社設立の方はどうなってるんだ?」


 と、早瀬が聞いてきた。


「それは愛ちゃんの方で進行してもらってるよ。現時点で資本金の振り込み、定款の提出等、できることは進めてもらっている。

 あ、そうそう。事務所も決めたからね。」


 と俺は本社から近いビルを1棟購入したことを告げた。


「え?あのビルって結構デカかったんじゃない?」


「うん。そうだね。今日時間ができたときに見に行ったけど10階建てで1フロアー当たり200人ぐらいなら働けそうだよ。」


「そんな大きなところ買ってどうするの?テナントでも入れるつもりか?」


「いや、いくつか考えていることがあるんだ。明日みんなの前で説明するけどね。今の商社としての機能はそのままで、関連企業をいくつか立ち上げて総合商社として活動していくつもりなんだ。」


「それって…つまり…。今のインターエステートのような企業になるってこと?」


「そうだね。おそらく規模としてはあれよりもっと大きくなると思うよ。最終的にはエンターテイメント部門も持ちたいと考えているからね。」


「そんなに最初から手広く広げて大丈夫かよ?そうか、愛ちゃんたちか…。」


「うん。もちろん愛ちゃんたちの援助も受けるけど、最終的には言い方がおかしいけど地球人でまかなっていく予定だよ。」


「ところで、社名は決まったのか?」


「もちろん。それがないと会社登記できないからね。」


「何て名前なんだよ?」


「それも明日のお楽しみ。18時から決起集会は行うけど15時までに社員は全員集めておいてね。メディカル・ポットに入ってもらうから。」


「え?あれを全社員に使うのか?」


「うん。いろいろ考えたんだけど社員の家族まではその守備範囲にしようかなと考えてるんだ。特に魔法が使えるってことは教えないけどね。だってこのままお前たち今日家に帰ったら多分質問攻めにあうぞ。どこのスポーツジムに通ったのだとか、エステに行ったのかとか。奥さんや恋人たちからの追及が躱せると思うか?」


「「「…」」」


 3人とも無言で首を横に振った。


「だから、信頼できる家族だけ1/10ほどの機能限定版のメディカル・ポットを用意して使ってもらおうと考えているんだ。明日はホテルに置いておくけど、明日以降は新会社の1階と2階をフィットネス&ヘルススペースとして社員の福利厚生として開放する予定なんだ。学習能力などはつけずに身体ケアを中心としたものになるけどね。時間も1回あたり20分ほどの簡易なものになりそうだよ。まあ、回数通ってもらう必要はあるだろうけど、効果は絶大なんで、2~3回も通ったら病みつきになると思うよ。特に女性は…。」


「「「あぁ…。」」」


 3人ともが俺の話にうなだれた。


「まあ、今日は問い詰められる覚悟して状況説明のためにも家に帰ってね。全員独身だっけ?それに家族と同居してるよな?」


「そうだな。恋人はそれぞれいるだろうけど。」


「う~ん。ないとは思うけど、よこしまな考えを持っちゃいないか、愛ちゃんにチェックかけといてもらった方がいいね。その親族や背後関係まで。これから、地球では扱われていない技術がどんどん出てくるだろうからね。産業スパイってわけじゃないけど脅されて協力させられたってのはよくある話だからね。」


 俺は危惧になればいいとは思いながらもそう皆に話した。


「恐れ入ります、マスター。その件につきましてはマスターが皆さまを地球号に招待するといった時点で確認が取れております。それらの結果は個別にお知らせいたしますが、概ね問題ないと思われます。」


「概ね?問題ある人もいるんだ?」


「若干ですがおられます。今後マスターの遺産相続の件もありますので、危険はできるだけ排除していきたいと考えておりますのでご了承ください。」


「そっか…。その問題もあったな…。」


「遺産相続って、どういうことだ?」


「うん。俺に子供ができるとして、その子供が地球号を含めた俺の資産をすべて受け継ぐってことだ。帝国としても辺境にある惑星がどうなろうと知ったこっちゃないんだろうけど、俺がちゃんと相続する意思をもって継がせないと、地球号を含めて相続人がいなくなってしまうんだ。その遺産を争ってってことは考えたくないんだけど考えておかないといけないことだとも思う。」


「まあ、お前の財産だからな。となると・・・。お前もいずれ再婚しなきゃいけなくなるのか…。まあ、頑張れ。」


 早瀬がそう言い、ほかの二人もうなずいた。


 それからしばらくしてそれぞれの家の近くに転移してもらって帰っていった。

 さて、俺は今日もあの心地よい寝床に潜り込むとしよう。

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