18.そして誰もいなくなった…

 朝、8時半にそれぞれが身支度を済ませ会議室に集合した。

 すでにそれぞれが朝食を済ませていた。

 ありがたいことにアンドロイドが転送で地球に降りて、今や日本の代表的なバーガーショップのモーニングセットを買ってきてくれていた。

 ここ宇宙だよね?

 気にしない…気にしない…。


 さて、そろそろ出勤と行こう。

 俺たちはアーバン商事の近くで人気のないところに転送してもらった。

 直接会社に転送してもらえばよかったんだが、セキュリティの関係上、どうしても入退出管理はされているので、やむなく近所にしたのだ。

 もっとも愛ちゃんが介入すれば、それすら書き換えるといっていたのだが、そこまで大げさなことをする必要もないので。


 俺たちは出社後、親会社の会長権限で業務を停止し、それぞれの分野の取りまとめを進めた。

 一つの会議室に集められた社長以下部課長クラスに、それぞれ横領の証拠と告訴状を突き付け、懲戒解雇を言い渡していった。


 会議室は荒れに荒れた。


 しかし、すでに弁護士も同席しており、不正の総額がそれぞれ数億から数十億単位にまで膨れ上がっていることを指摘すると徐々にその声は小さくなっていった。


「親会社の社長からの指示だったんだ。俺はそれに逆らえなくて…。」


 この期に及んで社長は泣き落としを始めた。

 みじめなもんだな。

 総務部長と弁護士の二人がかりで、社長が私腹を肥やしていた証拠を次々と明らかにしていくことでようやく静かになった。


「…この野郎!俺はこの会社の社長だ!俺の言う通りしてればいいんだよ!」


 と、最後には社長が暴れ始めた。

 俺は難なくそれを取り押さえて、拘束し、席に座らせた。

 やがて親会社からも監査チームが応援に来て、それぞれが個別に示談するか刑事告訴まで行くか協議を始めた。

 示談したものは書類にサインして、解放されていった。

 部課長クラスは横領していてもその額は預貯金でまかなえる程度だったようで、示談に応じたものは懲戒解雇という形で退社していった。

 別に罪に問われないわけではないけど今後こいつらが表に出てくることはないだろう。

 すでに朝から、親会社を含めて蜂の巣をつついたような大騒ぎに発展していた。

 騒ぎを聞きつけて、警察も事情を聴きに来たが、弁護士が介在して、すでに告訴状も用意されていたことから、民事不介入として、帰っていった。


 俺と山下は蔵元会長からの連絡で、急遽親会社に向かった。

 移動の時間がもったいないので、愛ちゃんに頼んで転送してもらった。

 残ったアンドロイドたちがその後の業務を受け継ぎ、順次作業していった。

 改めて、アンドロイドの優秀さに驚いたこともあるが、その見た目が皆美人で、物腰も柔らかく、理路整然として説明していくので、ほかの社員たちもこぞって協力してくれていた。

 本当に見た目で彼女たちがアンドロイドだって気づかないよな。

 今回応援に来てくれているアンドロイドはそれぞれ早瀬たちが名前を付けてあげているようだ。いちいち聞いてないけど、又教えてもらおう。

 見た目は皆日本人の容姿をしている。

 違和感なんか全然ない。

 彼女たちは新会社のスタッフということで応援に来てもらっている。

 それぞれが情報戦のためのエキスパートばかりなので、どこにどんな証拠が隠されているか、帳簿でどこがおかしいかを瞬時に判断し、おかしなところに付箋をつけていくだけで、プリントアウトされた帳簿は付箋の山となっていった。

 愛ちゃんに話を聞くと場合によっては敵対した惑星政府を転覆させるために潜入して、不正を暴き、民意を高揚させる…って、そこまでしなくていいからね。


 俺たちは親会社に追加のスタッフを伴って向かった。

 昨日話していたようにアンドロイドが10体応援に来てくれた。

 これまたみんな違った美女ぞろいだ。

 俺たちはそのまま最上階にある会長室に向かい、昨晩中に用意した親会社の社長を含めた取締役からのアーバン商事への介入の証拠と、資金流用の証拠、それらの不正な使い込みに対しての訴状の写しを会長に提出した。

 会長室には主だった役員がそろっており、ここでもひと悶着あったが、すぐに制圧し、

 資料を読み込んでいた総務部長が一言…


「これをうちでやろうとすると何か月かかることやら…。」


 と呟いたことから、


「なんならこのスタッフでインターステート社の洗い出しをやりましょうか?」


 と助言すると会長の一言で、すぐに調査が始まった。

 結構歴史のある会社だが、時効の関係からも過去10年の資料を洗いざらい精査し、資料から不正を暴き出していった。

 同時並行で告訴のための訴状も作成していった。

 1体が証拠を見つけてそれを並列処理でほかのアンドロイドが訴状として作成する。

 うん。そりゃ早いよね。ただでさえ処理速度が速いのに見ると書くのを同時進行なんだもの。

 3時間ほどですべての帳簿を洗い出して、それらの証拠をそろえていった。

 その証拠の中には個人への入出金の明細まで含まれており、どこまでが証拠として出しちゃダメなのかはあとで判断してもらおう。

 …これに異星文化の相違は使えない。

 まあ、何とかなるでしょ。

 証拠の中にはかなりの割合でイリーガルなものが含まれている。

 もちろん、開示請求を起こして、手続きを踏めば開示される情報には違いないけど、その間の手続きを全部すっ飛ばしてるからね。


 う~ん。次々とタブレットに上がってくる情報は社長たちの私生活にまで及ぶ。

 浮気相手とラブホテルにしけこんでる映像とか、楽しそうに高級ブランド品をプレゼントしている映像。…そっか、防犯カメラのハッキングだな。

 ……恐らく、この子たちには誰も勝てないだろう…。

 情報的にも、武力的にも、交渉的にも…。


 結局親会社でも不正が次々に暴かれていき、この会社でも部課長以上取締役から社長に至るまでその2/3ほどがまっくろくろすけだ。

 このままだと倒産間違いなしだな。

 すでに今の時点で情報が洩れているようで、株価が暴落している。

 昨日までの半値を切っている。

 さてどうしようかな。


 俺と山下は会長室に乗り込み、人払いをして、会長と話し込んだ。

 まず俺が口火を切った。


「蔵元会長。ほぼすべての資料を洗いましたが、昨日話されたようにこの会社の膿みを全部出すということでよろしいのでしょうか?」


「もちろんそれでいい。…ん?どういうことだ?」


 会長はいぶかしげに俺を見た。

 俺は株価が映ったタブレットを会長に見せた。


「すでに情報のリークが始まっています。株価は半減しています。このまますべての情報が世に出ると、間違いなくこの会社は倒産してしまいますが、どうされますかという意味です。」


 会長はタブレットを凝視したまま、しばらく黙り込んだ。

 こうなることがわからなかったのかな?それとも気づいてはいたんだろうけど直視できなかったのか。


「会社が倒産するのはやむおえまい。しかし、従業員の生活が…。」


 親会社はこれでも一部上場企業だ。

 社員数は世界中にある支店を含めると1万を超える。

 また、不動産や鉄鋼業、工作機械などの技術部門などの子会社もあり、それらを合わせると10万人では効かないだろう。


「会長。倒産はすべきではありません。情報を精査していく中でいくつか気になっている子会社があります。それらを起死回生の目玉として、緊急取締役会を今日中に開いてください。緊急動議としては子会社の不正並びにインターステート社長及び取締役の解任動議です。幸いにも半数以上の株式は会長個人とその親族で持たれていますので、さっそく取り掛かりましょう。会長が20%、奥様が20%、それと息子の社長さんが10%で半数になりますが、会長の弟さんが持たれている20%を足して70%で可決してしまいましょう。緊急株主総会の後はマスコミに向けて、事情説明のための記者会見を開いてください。」


「いや、しかし、わし個人名義では30%の株式はないぞ?」


「いえ、すでにそのあたりも調べてあります。会長、奥様、会長の弟さんがそれぞれいくつかの会社に分散してインターステートの株を持たれていますよね。あとの30%は子会社の相互保持分が10%と株式公開分が20%となります。間違いないですね?」


 俺はタブレットにそれらの調査結果を表示させ、会長に迫った。


「…柏木君の言うとおりだ。そもそも上場する必要がないほど、資金繰りはうまくいっておるのに、息子がどうしても株式公開したいというので上場していたが…。」


「確かに中小企業の社長と一部上場企業の社長とではネームバリューも違いますからね。見栄っ張りな息子さんにはぜひとも欲しい肩書だったんでしょうね。しかし、健全経営のためにももう少し持ち株比率を下げて、株式に公開しておいてもよかったのかもしれません。しかし、今の状態では株価が付くかどうか…。上場廃止も視野に入れて検討してください。」


 その後、緊急株主総会は無事行われ、状況説明、取締役の解任動議を経て、新社長、新役員が発表された。

 新社長には唯一といってもいいほど取締役の中で不正を働いていなかった、現場からのたたき上げの元購買部部長が就任した。


 なぜか、俺と早瀬たち3人も取締役として名を連ねることになり、それぞれに会長の親族から5%ずつの株を分配された。

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