16.メディカル・ポットの効果

 俺たちはそれぞれに割り当てられた個室に誘導され、そこにあったメディカル・ポットの中に入った。

 服を着たままでもいいので靴だけ脱いでそのままポットの中で横になった。


「魔法の習得以外で何か必要な学習はありますか?」


 と、愛ちゃんが訪ねてきたので


「英語、フランス語、ドイツ語、スペイン語、イタリア語、それと中共語ぐらいかな。」


「了解いたしました。それでは多言語プログラムを学習いたします。リラックスしてそのままお眠りください。」


 俺は促されるままに眠りに入った。

 ついさっきも一度入ったが、この中って結構心地いい。

 すぐに眠りに落ちてしまった。


 2時間後、俺たちは再び会議室に集まった。

 俺も含め皆十分な睡眠がとれたようだ。

 それに身体が軽い。

 これが調整の効果だろうか。

 皆がそれぞれ口々に言う。


「俺も結構疲れてたんだな。かなり体が軽い。」


「俺も、俺も。」


「それに頭がすっきりしている。」


「うんうん。」


「俺は副社長に任命されたから、経営や経済の基礎を勉強させてもらったけど、結構頭に入った気がする。今ならもっとうまく仕事がこなせそうだ。」


「俺はコンプライアンスについて学習した。」


「俺は言語やマナー全般かな。」


 それぞれがうまく学習できたようだ。


「魔法についてはどうだ?俺は一通り使えそうな気がする。まだ試してないが。」


 といいながら


「ライト」


 と呟いてみた。

 すると右手のひらからスッと光の玉が浮かび上がった。

 魔法の使い方としてはこれでいいようだ。


「おはようございます、マスター。調子はいかがですか?」


 と、愛ちゃんが尋ねてきた。


「うん。かなりいいようだよ。学習したこともちゃんと頭に入っているようだ。」


 と俺は答えて頭に浮かぶ魔法の知識や発動方法、多言語の学習成果を一通り試してみた。

 ほかの3人も各々魔法を出してみて、感動していた。


『愛ちゃん。ひょっとして早瀬たちの身体に何かした?』


 俺は愛ちゃんに思考で聞いてみた。

 すると愛ちゃんは


『はいマスター。魔法を使うための魔法経路を体内に構築いたしました。地球人はその体内に魔法経路を持っていることは持っているのですが、長い間使われていないのでその経路を活性化させました。』


『それって日常生活に支障はないの?』


『支障御座いません。むしろ体の中の魔素の流れがスムーズに行われて、体調がよくなっていることでしょう。』


 詳しく聞くと個人差はあれど今までの身体能力、思考能力が活性化されて1.5倍ほどにはその能力が上がっているらしい。それってすごいことだな。

 俺にはそれらに加えて、この地球号でできることがマニュアルとして頭の中にインプットされているようだ。

 俺はあることを愛ちゃんに思考で相談し、それに承諾してもらった。


「みんな、聞いてくれ。」


 俺は3人に呼び掛けた。


「今愛ちゃんと相談したんだが、それぞれのサポートをアンドロイドにやってもらおうと思う。愛ちゃん、呼んでくれ。」


「はい、マスター。」


 そういうと部屋のドアがスライドして、3人の女性型アンドロイドが現れた。


「う~ん。このフライトスーツのままではビジネスは無理なんで、それぞれビジネススーツを着用してくれ。」


「「「「了解しました、マスター。」」」」


 それぞれがサポートを得て、俺たちは現状の業務復帰のための情報をまとめだした。

 俺と愛ちゃんは、新会社設立のために情報を整理した。


 4時間後、日本時間で23時を回ったころにようやく、ひと段落ついた。

 おなかも減ったので少し居酒屋にでも行って、腹に何か入れよう。


「じゃあ、明日からの段取りはそれぞれできただろうから、少し日本に戻って飯でも食いに行こう。腹減った。」


「「「了解。」」」


 俺たちは愛ちゃんに人目につかない都心の公園に転送してもらった。

 この公園は俺が一日中身体の調整をしていた会社の近くの公園だ。

 時間も時間だから、誰の目もないようだ。

 俺たちは愛ちゃんに促されて、近くの居酒屋に入った。


「とりあえず、目処がついたことに対する祝杯だな。」


 俺たちは乾杯した。


 適当に焼き鳥なんかをつまみながら、話が進む。


「俺たちにもタブレットとスマホ、それに腕時計が支給されたよ。これで思考?による会話もできるそうだ。」


 と早瀬は左腕につけられた腕時計を見せながら俺に行った。

 俺はこのメンバーで共有しておかなければいけないものの支給などを愛ちゃんに指示しておいた。

 というか、愛ちゃんからの提案があったのでそれを了承しただけなんだが。

 皆疲れとは無縁な顔をしている。

 とりあえずの目処も立ったので、安心しているのだろう。

 それにしてもあのメディカル・ポットの効果はすごい。

 あれを全社員に使えたらかなり効率が上がるだろうな。


『マスター、それはあまりお勧めできません。』


 と愛ちゃんが思考で話しかけてきた。


『ん?どうして?』


『あのメディカル・ポットはとても高価なもので、数がなかなか用意できません。それに…。』


『それに?』


 何か言いにくそうな愛ちゃんを促した。


『先ほどメディカルチェックの上、各種能力向上を図りましたが、皆さんは一般的な地球人より少し進化した人類になっています。』


 俺は危うく飲んでいるビールを吹き出しかけた。


『進化って…どういうこと?』


『魔法経路を活性化させることで身体能力、思考能力の向上を図ったのですが、こちらが想定していたより効果的で、地球号での説明では1.5倍ほどの能力向上だとお話ししましたが、今現在、安定した状態で元の能力の2倍ほどになっています。』


 俺はそれを聞いて呆然とした。

 そこまで能力が違うと、確かに進化したといえなくもない。


『これは実はマスターにも当てはまることで、マスターが取り込んだ魔王の能力も倍ほどの活性化が見られます。これはもう別の種族ですね。』


 俺はまた吹き出しかけた。


『どういうこと?』


『魔王の持っていた身体能力と地球人であるマスターが持っていた能力の相乗効果といいましょうか…。この処置を全社員に施すのは少し考えた方がいいと思います。部分的な能力開発ならばなんとか行けるかもしれませんが…。』


『なんで?優秀な人たちが集まったらそれに越したことはないんじゃない?』


『確かに優秀な人たちが集まるのはいいことですが、身体能力も含めた超人の集団が今現在の地球の文化では、到底受け入れられるものではないかと。』


 なるほどね、確かにそうかも。

 よほど優秀で裏切らない部下ができれば、今後部分的な能力向上は考えてもいいかもしれないけど、全員にフルに施すのは少し考え物だな。


『先ほどご使用になられたメディカル・ポットは人体改良を含めたフルサポートが行えます。実際、御三方の体脂肪率は減少させていますし、それに伴って筋肉量は増加させており、身体の最適化を済ませています。なので若干というか、大幅に見た目が変わっていると思うのですが、いかがでしょうか?』


 ……確かに。こいつら全員たくましくなって、顔も精悍に若返っている。


「あ~。ちょっと聞いてくれ。」


 俺は3人に話しかけた。


「ひょっとしてまだ鏡を見てないから気づいてないかもしれないけど、3人ともかなり若返ってるし、精悍になっている。身体の脂肪なんかもなくなってると思うけどわかるか?」


 3人はハッとして、体のあちこちを触りだした。


「家族や恋人にはすぐにでもばれると思う。うまくごまかしてくれ。」


 俺はそれ以上干渉するのは放棄し、それぞれのやり方で説明するように投げた。


「最悪ごまかしきれなかったら……メディカル・ポットをどっかに設置して、社員とその関係者が使えるようにするから。エステの肉体改造プログラムで頑張ってやせたとか何とか、当分はごまかしてくれ。」


 俺はそれ以上考えるのをやめた。

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