15.ようこそ地球号へ
「皆さんようこそお越しくださいました。こちらは偵察宇宙戦艦地球号の会議スペースでございます。私は戦艦搭載のAIの愛と申します。今後ともよろしくおねがいいたします。」
とアンドロイドの愛が3人にあいさつした。
うん、わかるよ。戸惑ってるよね。早瀬ちょっと汗かいてる?
「つつつ努。これはどういうことだ?」
3人の中では一番初めに硬直から抜け出した早瀬が俺に問いかけた。
「さすが早瀬だな。状況適応能力が早い。」
「いや、訳が分からん。俺たち今さっきホテルにいたよな?ここはどこなんだ?」
「だからさっき愛が言ったように『偵察宇宙戦艦地球号』だよ。まあ、何言ってるかわかんないだろうからとりあえず座ってくれ。ちゃんと説明するから。」
よかった。やはりこういう状況では俺と同じような反応するんだな。
3人はきょろきょろとあたりを見ながら、白く大きな会議テーブルにそれぞれ就いた。
この椅子、リクライニングするんだね。
「どこまで話そうか悩んだんだけど、これからかなりの期間苦楽を共にするだろうから、俺の今の状況を包み隠さず全て話すね。とはいっても俺も3日前?4日前?からこの状況なんで、まだすべてを把握しきっていないんだけど。」
俺は苦笑いしながら3人に向かって説明を始めた。
「俺にもよくわかってないんだけど実は俺は4日前に一度死んだらしい。」
「え?死んだ?」
「いえ、正確には仮死状態になったが正解です。」
山田の問いかけに愛が答えた。
「いやいや、どう考えても一度俺死んでるよね。」
「いえ、それは星間文化の相違ということで…。」
「うん、そのくだりはもういいや。どういう状況かというと地球から数十万光年離れたエスペランダー帝国ってところが、星間戦争をしていたらしくって、何やら兵器の誤動作で俺が巻き込まれて大砲から俺が打ち出されて、魔王に激突して魔王も俺も大破。ここまでOK?」
「いやいやいや、全然わからんよ。」
山下が大きく答えた。
うんうん。俺と同じだ。
俺と同じリアクションしてくれると俺もなぜかうれしくなってくるな。
「その大砲が任意の座標の岩の塊を転送して打ち出す仕様だったようなんだが、発射直前に被曝して艦載コンピューターが暴走。それではるか遠くの座標が入力されて、そこにたまたま俺がいて、転送されて撃ち出されたってことらしい。実際のところ俺にもよくわかってない。」
ここで少し理解が深まるのを待った。
大体理解できたと思って次に進んだ。
「で、俺は鉄砲玉として現地で魔王と呼ばれる怪物に撃ち出されて、これを貫通、撃破。で、俺も木っ端みじんになったらしい。そのあと回収班が、魔王の身体に残っていた俺の細胞を培養して記憶と魂を定着させて俺のマンションの部屋に送り届けたらしい。」
…3人とも黙って聞いている。
「3日前にどうも体の調子が良くなかった日があったんだが、まだ、身体が意識になじんでなかったんだよね。で、その日帰宅したら、エスペランダー帝国の外交官ってのが現れて、今回の事故に対する補償だって言ってこの宇宙船をくれた。」
…まだ黙って聞いている。
「それと金100tと…」
「「「金100t?!!」」」
…おぉ…ここで反応するんだ。
「それと身体のケアのためにメディカル・ポットってのを置いていった。」
…3人ともがうわごとのように金100tと繰り返していた。
「だから、俺の身体の中にちょっぴりその魔王の細胞も混じってたらしくて、身体能力が軒並み上がったらしい。」
「…あ、だからあの日、力が入りすぎるって言ってたんだ。」
と早瀬が言った。
そうだよな。この中で唯一そのことを相談したのは早瀬だけだったな。
しばらく沈黙が流れた。
3人とも必死で理解しようとしている。
だが、生まれて今までの常識が邪魔して、理解できないでいる。
うんうん。俺も通った道だ…。
「…あ、だから会社も自己資金でやるって言ってたんだ…。」
「うん。もっともこれから資金を株で増やすけどね。」
「はい、マスター。すでに地球に於ける株式の予想プログラムは完成しており、徐々に資金を増やしている段階です。」
「あ、もう稼働してるんだ。といってもきょう一日だよね。」
「はいすでにマスターの個人資産である1千万円の元手で10億ほどには増やせています。」
「「「10億?!!」」」
…お金の話になると現実味を帯びてくるんだろうな。でも結局額が多すぎて驚いている…と。
俺の個人資産でってことは…。ああ、あの慰謝料やら返済金の一千万円か。実際、履歴が残る資金繰りができてないと後で税務関係なんかがややこしいんだろうな。
そのあたりは今後も愛ちゃん任せで増やしてもらおう。
「ところで、君たちは今宇宙にいるってことはわかってる?」
「「「はい???」」」
「だよね。実感わかないのも無理ないよ。愛ちゃんこの部屋でも外が映し出せる?」
「はい、マスター。しかしどうせなら、展望デッキの方で、肉眼でご覧になってはいかがでしょうか?ここからすぐに転送できます。」
「あ、じゃあお願いするよ。」
「はい、かしこまりました。」
愛ちゃんは返事をするとすぐに大広間のようなところに会議テーブルとイスも含めて転送していた。
3人は周りをきょろきょろと見まわしている。
「じゃあ、愛ちゃんお願い。」
「かしこまりました。」
愛ちゃんは返事をすると徐々に天井のアーチ型のハッチが開いていった。
内側にはガラスのような幕があり、有害な光線はシャットアウトしてくれるのだそうだ。
俺も肉眼で見るのは初めてだ。
4人で呆然として天井の先に浮かぶ地球を見ていた。
しばらく黙って地球を見上げていた。
やがて俺の顔をじっと見つめた早瀬が口を開いた。
「お前って魔王になっちゃったの?」
「いやいやいや。あくまで身体がってことね。精神的にも魂的にも俺のままらしいんだが、こういうケースは初めてのことらしく、メディカル・ポットとこの宇宙船が俺のお目付け役ってところかな。」
「しかしマスター。マスターはその魔王の因子を取り入れたことにより身体能力の向上はもちろんのこと、魔法も使うことができるようになっています。」
「「「「魔法???」」」」
「なんでお前も驚いてるんだよ。」
「いやいや、俺も初耳だし。っていうか説明してもらってても理解が追い付かずにところどころ抜けてるかもしれん。」
「…わかるぞ。」
3人はうんうんと首を上下させた。
「マスター、ご友人とともにメディカル・ポットに入られたらいかがでしょうか。急遽帝国よりレンタルでメディカル・ポットを追加入手いたしました。地球人のサンプルとしてのデータ測定をご友人たちにお願いしたく思います。」
「え?サンプル?」
3人ともが少しいやそうな顔をした。
「データ収集は10分ほどで終わります。それにこのメディカル・ポットを使えば身体の異常などを補修し、病気なども完治いたします。また、睡眠学習で様々な能力の開発も可能です。身体能力の向上、多言語の学習、魔法の習得…」
「「「「魔法の習得???できるの?」」」」
「はい、可能です。しかし、マスターは別として一般的な地球人である皆様はあまり威力の大きな魔法は無理と思われます。しかし生活補助に使えるような基礎魔法なら行使が可能だと思われます。」
「「「ぜひ、それに入らしてください。」」」
3人は声をそろえていった。
そういうことで、いったん説明はお開きになり2時間ほどメディカル・ポットに4人ともが入ることになった。
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