14.新会社設立への決意

 これって実質俺に断る選択肢は用意されてないよね。

 何でこう、次から次にいろいろ起こるかね。

 俺は考えをまとめて、決断した。


「わかりました。俺でよろしければ代表になり起業します。ただし、条件があります。」


「なんだね?大抵のことは飲むつもりだ。資金についても十分な額を用意するつもりだ。」


「いえ、資金は一切お断りいたします。条件としては自己資金のみで起業させていただきます。」


「え?大丈夫なのか?資金繰りが大変じゃぞ。」


 会長が不思議そうにそう言った。


「資金は何とか集めます。しかし、このまま親会社であるインターステートから資金が出てくると、子会社である立ち位置は変わりません。今回の一連のことはこの関係性が事件の発端でもあるのです。今回のことでインターステートの社長も交代されるでしょうが、いずれまた、なあなあな関係に戻ってしまう可能性があります。そこで独立資本で、完全な別会社としてインターステートから子会社であったアーバン商事が請け負っていた業務をすべて新会社に業務委託してください。それらの業務が完了してから,新たに物件ごとにインターステートと契約を結びたいと考えます。」


 会長はそれを聞いて


「確かに子会社にしてしまうとその人事権もすべて親会社に握られてしまうからのう。それをすると今回のことの繰り返しになるか…。今の会社を買い取ってもらったところですでに信用はガタ落ちだ。わかった、柏木君のいう方向で検討しよう。だが、自己資金がそんなにあるのかね?少なくとも数億は保留資産が必要だが…。」


 と会長は資金について問いかけてきた。


「大丈夫です。私からの委託金として100億ご用意いたします。それをもって業務提携の保険としてください。もっとも、今のアーバン商事にある資産は無料でご提供いただけるのですよね。」


 と俺は逆に会長に問いかけた。


「ははは。君も言うね。おそらく社長たちを訴えても半分ほども取り返せないだろうが、それについてはそちらに譲渡するようにしよう。また、現在ある備品なども自由にしてくれ。」


 と会長は笑いながら合意してくれた。

 アーバン商事で売り上げていた利益を食い物にしていたんだから、それを新たな会社、頑張った社員のために使うのは当たり前だよね。

 これで大筋で合意できたはずだ。

 会長が席を立ち、帰り際に握手を求めてきたので握手した。


「今後ともよろしく頼む。」


 と会長は総務部長とともに、部屋を去った。




 残った俺たちはそろってフ~と大きくため息をついた。

 それがおかしくて顔を見合わせながら笑った。


「いやいや、笑い事じゃないですよ。これがうまくまとまらなかったら、私たちは倒産の危機でしたから。」


 と、田中社長は胸をなでおろしながらそう言った。


「本当に。これで何とかなりそうですね。」


 桐谷社長も安堵した表情だ。


「俺たちもほっとしたよ。柏木社長、これからもよろしく頼む。」


 と早瀬たちが口々にそういった。


「いやいや、何安心してるんだよ。早瀬は新会社の副社長、山田は営業部長、山下は総務部長として情報を取りまとめておいてくれよ。明後日に辞表を提出した人を全員集めて決起集会だな。その席に下請けの会社の人たちも呼んでおこう。場所はこのホテルの大宴会場でいいだろう。山下総務部長、さっそく手配を頼むね。」


 とそれぞれに役割分担した。

 それぞれが顔を見合わせて笑い出した。


「いや~やっぱり柏木はいいな。社長に向いてるよ。業務命令を承りました。」


 と山下がそれにおどけて答えた。



 それから俺たちは田中社長と桐谷社長を見送り、部屋に4人だけが残った。

 この3人には俺の秘密を話しておいた方がいいだろう。

 俺は3人に声をかけ、一緒に飲みに出かけることにした。


「実は3人に少し話があるんだ。今日こんな話になったんで、俺の抱えていることも話しておいた方がいいと思うんだ。」


 俺はそう言いながら、3人を見回した。


「なんだ?改まって何の話だ?」


 早瀬が答えた。


「実は少し秘密があって…。このことは絶対に他言無用だ。」


 少し首をかしげながらも


「わかった。なんだ秘密って?お前が資産家の息子だとかか?」


「う~ん。中らずとも遠からずって感じかな。この話は少しぶっ飛んだ話になるんで、心して聞いてほしいんだが、お前たち時間はあるか?」


「会社には辞表を提出してるしね。」


 3人はまた笑いながらそう答えた。


「ちょっと時間がかかると思うんで家族には今日は話し合いで柏木の家に泊まるとでも言って連絡しておいてくれ。」


 俺がそう言うと、それぞれが自宅に電話をかけていった。

 俺はその隙に愛ちゃんと少し相談だ。


『愛ちゃん、こいつらに俺の抱えてる事情を少し話そうと思うんだが、大丈夫か?』


『はい、マスター。どちらにせよいずれ協力者は必要だったと思われますので、大丈夫です。まあ、たもとを分かつようなことがあれば魔法でその部分だけ記憶を操作すればよいと思われます。』


 …愛ちゃん、物騒だな。

 でも後何人かは引き入れておかないと、うまく回りそうにないな。

 まあ、まだ時間はあることだし、そのうち考えるか。

 必要になってからでもいいだろう。

 思念通話でそんな話をしているうちに3人がそれぞれ電話を終えた。


「この部屋はそのままにしといていいのかな?」


 俺が早瀬に聞くと


「ああ、そのままでいい。そこの内線からこの部屋のリリースを知らせればOKだ。」


 といいながら、早瀬はさっそく内線電話を使ってフロントにこの部屋のリリースを告げた。

 俺は自分のビジネスバッグからタブレットを取り出し、3人に見えるように立てかけた。


「じゃあ、ちょっと俺の秘書を呼び出すから。」


 そう言って愛ちゃんに呼び掛けた。


「愛ちゃん、俺たち4人を艦内の会議室に転送してくれる?」


 そう言うと


「はい、かしこまりました、マスター。4名様を地球号艦内会議スペースに転送いたします。」


 と返事が返ってきた。

 3人はそろって、こいつ何を言い出したんだという顔でいぶかしげに俺を見ていたが、次の瞬間には地球号に転送されていた。

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