11.メディカル・ポットからの拠点決め

「私は愛でございます。もっともこのアンドロイドだけではなく、複数のタイプのアンドロイドを所有しておりますので、お好みがございましたらお申し付けください。」


「いや…いいんだけど。アンドロイドなのか。」


「はい。アンドロイドとしての型番はございますが、現在この機体を制御しているのは戦艦コンピューターAIの愛でございます。また、これらアンドロイドは複数の同時起動が可能となっておりますので、私の管轄にある200体ほどのアンドロイド以外にも各戦闘技術に特化したアンドロイドも多数待機しており、戦時の情報収集、分析の際には個別アンドロイドがここブリッジの各ポジションに座り、実戦を行います。

 また艦長の私生活に置かれましても、日常生活のお世話から、夜の性交渉まで、様々な分野で実体としてお手伝いすることができます。」


 また、おかしなことをぶっこんで来たぞ。

 性交渉だと?

 アンドロイドって機械だろ?あ、そういえばそんなアンドロイドを題材にした漫画があったな…。確か、セクサロイドだったか。


「いやいや、日常生活はまだしも性交渉は遠慮するよ。相手は人間の方がいいからね。」


「く…悔しい。」


 愛はしなだれ、崩れ落ち、どこから出したのかハンカチをかみながらそう言った。

 …どこでそういうの学習してきたんだろ?

 やっぱ、日本のアニメとかかな?

 突っ込まないぞ。突っ込まない。

 すると愛はシャキッと立ち上がり


「いえ、性交渉は今回の補償の範疇ですので是非ご利用になってください。」


「いやいや、いいよ。間に合ってる。」


「そんなこと言いながらここ5年ほどDTなのは知っております。ぜひご利用ください。定期的に精液採取を義務図けられておりますから。」


「は?今なんて?」


「ですから、マスターの精液採取です。魔王因子の覚醒や今後の遺伝子変化を記録するためにぜひとも必要ですのでご協力ください。」


「魔王化の前兆を調査する目的か…。そういえば、補償の中にメディカル・ポットってのがなかったか?それを使えばいいんじゃないか?」


「ちっ、気づいたか。」


 愛ちゃん今舌打ちしたよね?

 やっぱりそういうのはメディカル・ポットで検査されるんだね。


「じゃあそのメディカル・ポットってやつを見せてよ。」


 俺はこれ以上性交渉の話にかかわらずメディカル・ポットを見せろと要求した。


「…はい、わかりましたよーだ。」


 ふくれっ面をしながら、俺の椅子の背後にメディカル・ポットを転送してきた。

 ったく、地球の、いや日本の変な文化に侵食されてないだろうな…。

 ひょっとしてもう手遅れなのかも。


 メディカル・ポットを改めて見てみた。

 細長い卵型とでもいうのか。上面は透明で中が透けて見える。


「この中に寝ればいいのかな?どれぐらいの時間がかかるの?」


「検査そのものは自動で行いますので、ものの10分もあれば終了するかと。この中で睡眠をとっていただければ、睡眠中に検査することも可能です。睡眠も時間調整ができ、最短2時間もあれば通常の日常活動ができるだけの休息をとることができます。」


 睡眠時間が2時間だけで済むって…。これが前職の時にあれば。


「そうか。わかった。じゃあ、俺の部屋?寝室?に設置しておいてくれ。」


「了解しました。」


 メディカル・ポットはまた転送されていった。


「さて、拠点探しとどういうものを作るか、計画を練ろう。」


 俺は次々に指示を出し、候補地を絞り込んでいった。


「この無人島はいかがでしょうか?ちょうどこの島が所属している国が売りに出しています。ただ、難点はこの島の北にある国が領土を占領しようとして定期的にちょっかいを出してきていますが、その分お安くなっています。迎撃も十分可能で、何ならこの国ごと海に沈めるまで可能です。」


「いやいや、そんなでかい国が海になったら、えらいことになるよ。その国で好戦的なのは偏った層の偏った軍人だと思うから、そこさえおとなしくなればちょっかいも出してこないと思うよ。本来、領土拡大に手を広げるほどその国の情勢が安定しているわけではないんだけどね。民族紛争も含めて貧富の差が激しく、他人を蹴落としてでも自分がいい目をしたいというのが共通の国民性だからね。日本国内ではどうかな。」


「日本国内ですと、北海道で牧場が売りに出されています。競走馬のための牧場だったようですが、後継者不足の上に、ブリーダーに恵まれず、勝てる競走馬を産出できなくなり廃業されているところが結構ございます。」


「大きさ的には問題ない?」


「はい、マスター。こちらですとかなり余裕のある拠点が構築可能かと思われます。」


 俺はその牧場の航空写真を見た。


「これって…かなりでかくない?」


「そうですね。5㎞四方ほどになりますね。しかし、分割で2㎞四方だけほしいといってもこういう場所柄、なかなか販売に応じてもらえないでしょう。むしろ土地単価はかなり安いので、ここを丸ごと買い付けても1億円にもならないと思われます。」


「え?そんなもんなの?……考えたら1億円が安く感じてしまう俺の感覚って…。」


「この牧場跡地はとりあえず押さえておきます。それ以外にも都内にマンションと近郊に山林、あとは中部地方、近畿地方、四国地方、九州地方にそれぞれ拠点として土地を押さえてログハウス風の拠点を構えるのもよいと思われます。」


「いいねぇ。ログハウスか。どうせなら沖縄あたりにも拠点としての土地を確保しといて。そうすれば日本全国どこにでもすぐに行けるね。」


「了解いたしました。とりあえず仮拠点としてそれぞれを確保し、今後必要になればその都度便利な拠点を増やすということでよろしいでしょうか?」


「そうだね。地球号が降りられるサイズは北海道だけでいいよ。それ以外は少し大きめのログハウスが立てられればいいかな。山林で川があって…って感じかな。」


「了解いたしました。それぞれ拠点としての土地を確保次第、建物を建設し、転送パットを置くということでよろしいでしょうか?」


「う~ん。転送装置ってドア状のものってないの?ドア開けたら目的地につけるようなの。」


「ございます。高さ2m、幅3mのものがございますね。このタイプですと転送する前にそれぞれ付属のタッチパネルで転送先を複数の中から選ぶことができます。」


「ああ、いいね。それにしよう。」


「了解いたしました。日本国内の取り掛かりとしてはこれでよろしいかと思われますが、海外の拠点はどこかご希望がございますでしょうか?」


「海外ね。う~ん。海外ってことはパスポートもって入管手続きしないといけないから、テレポートは難しいんじゃないかな。」


「マスター。その程度であればいつでもご用意できます。」


「ん?どういうこと?」


「ですから、たとえテレポートで移動してもいざとなれば入管審査済みのマスターのパスポートをご用意することは可能です。」


「それって、偽造ってことだよね。どこまでの精度で作れるの?」


「それは本物と同じものをご用意できます。オンラインを通じて、入国のためのフライト記録から、入国記録、税関記録まですべて作成できます。」


「う~ん。まあ、俺自身がそんなに厳格じゃないから良いっちゃ良いんだけどね。大体そんなに頻繁には使わないだろうし。」


「…現状、マスターはお知りになっていませんが、マスターの周囲の方はすぐにでも必要になってくると思われます。」


「え?それってどういうこと?」


「それについてのマスターへの打診がもうしばらくするとかかってくると思われます。」


「え?それって誰から…。」


 そんな話をしているところへ早瀬から電話がかかってきた。

 宇宙でも電話が通じるんだね。


「それは帝国の技術で通信回線を確保しております。」


 まあ、この宇宙船さえあれば極端な話、拠点なんかいらないのかもしれないけど、それだけじゃ味気ないよな。メンテナンスに必要だっていうし。

 おっと、電話に出ないと。

 かかってきた電話は、昨日送別会を急遽開いてくれた早瀬だった。

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