10.そして宇宙へ
ひとしきり自分が置かれた宇宙的な立ち位置を思い知った後、気分を変えて話し始めた。
「なんの話してたっけ?」
「マスターがプー太郎でモルモットという話です。」
「……いや、それはもういいんだ。…えっと、拠点の話だったな。」
「…はい、その通りでございます、マスター。」
もう少しいじりたそうなその変な間はやめろ。
突っ込まないぞ…突っ込まない。
「う~ん、できれば車で移動できる距離がいいんだけど2㎞四方となると、どっかの無人島とかの方がいいのかな。」
「それでも大丈夫と思われます、マスター。地球上のどこでも転送装置で移動は可能ですので。」
「ん、ん?転送装置?」
「はい、マスター。戦闘艦には物質転送装置が多数装備されております。通常任務ですとこれらの機器は潜入捜査、派兵等に使用されるもので、大きさも様々なものを取り揃えております。」
「…まあ、本来の用途はともかく、それをどっかマンションの部屋にでも設置しておけば、どこからもテレポートできるってこと?」
「その理解で結構です、マスター。マンションといわず、道端でも地中に埋め込んでおけば用は足りますので、お好きなところに設置されればと思います。」
「そうはいってもテレポートしてきたところを他人に見られるわけにはいかないだろ?そんな技術、地球上にないんだし…。まあ、適当に借りればいいか。…ということは、まずその宇宙船に行って情報集めるってことから始めた方がいいのかな?」
「おっしゃる通りです、マスター。しかし、今、この部屋でも空間ディスプレイにおいて情報の確認はできます。一度は宇宙に上がって地球号を確認された方が良いとは思いますが、いかがいたしましょうか?」
「いかがって…。今から行きたいって言ってすぐに行けるの?」
「はい、可能でございます。地球号から転送装置を座標指定で転送してくることで、この部屋への転送装置の設置はすぐにでも可能となっております。」
「なるほど。敵地で潜入捜査に使うぐらいだから、どこにでも設置することが可能な体制はあるわけだ。じゃあ、設置してみて。」
「了解いたしました、マスター。」
愛ちゃんがそう返事するとしばらくして、直径1mほどの円形マットとしか思えないものが、リビングに現れた。
「これがそうなの?」
「はい、その通りです。大きさは半径10mまでなら拡大することも可能です。その転送マットの上にお乗りいただければいつでも転送いたします。」
「そっか。じゃあ行ってみようか。なんだかワクワクするな。宇宙に行けるってことだもんな。」
俺はそう言いながら転送マットの上に乗った。
「マスター…。恐れ入りますが、地球号艦内では靴が必要だと思われます。」
「ああ、そっか。よし、持ってくるね。」
俺は慌てて玄関に靴を取りに行った。
服は寝巻のままだし、一応カッターシャツにジーンにでも着替えていこうか。
とすると、靴はスニーカーでいいな。
俺はそのまま寝室に向かい、着替えてから玄関経由で転送マットまで戻ってきた。
「マスター、念のためスマホとタブレットは持っていかれた方がよろしいと存じます。」
「了解。」
俺はタブレットを抱え、スマホをジーンズの後ろポケットに突っ込んで転送マットに乗った。
「では転送いたします。」
俺は瞬時に白い部屋に転送された。
「なんかこう、転送するときに光ったり音出したりはしないんだな。」
「…マスター…。」
なぜか愛ちゃんが残念な人を見るようなつぶやきが聞こえる。
「光ったり音を立てるようなものでは潜入捜査は行えません。」
なるほど。そりゃそうだ。
…なんだか愛ちゃんからあきれ返られているのを感じる…。
気にしない。気にしない。
「それではマスター、そのドアにタッチしてください。」
俺は真正面に見える壁に枠が引いてあるところにタッチした。
ドアといわれても、ドアのようには見えない。ただの壁の模様のようだ。
すると、ドアは音もなく消滅し、その向こう側に椅子が見えた。
「マスター、その椅子におかけください。」
俺はその椅子まで歩き、座った。
するとひじ掛けの手に触れている部分が少し光り
「個人認証開始…照合中…培養器照合データと一致を確認。柏木努本人と確認。地球号艦長への就任を帝国本部へ報告……確認。マスターがこの偵察宇宙戦艦地球号の艦長として登録されました。現時点をもってすべての権限をマスターに移行。すべてのシステム制限を解除いたしました。何なりとご命令ください。」
当初、椅子にしか光が当たっていなかったので周りがよく見えなかったが、俺が艦長に就任したとたん室内に様々な計器があることがわかるように部屋が明るくなった。
「おぉぉぉ…なんか、かっこいい。」
俺はその状況を見て感動した。
小さいころに見たアニメなんかを思い出した。
今俺がいるところは一段高くなっていて、階段で数段下にフロアーが広がっている。
「マスター、本艦は現在マスターのマンション上空、静止衛星軌道上にステルス状態にて待機しております。上部スクリーンを外部カメラに接続しますか?」
「それって、外が見えるってこと?ぜひぜひ。」
俺がそう言うと一瞬で天井部分が外れたようになり、その向こう側に大きく地球が浮かんでいる状況が目に入ってきた。
「すげー!」
俺は感嘆した。
ここ数日驚いてばかりだが、それも会話や資料ばかりで驚いていたわけで、初めて自分の身に起こったことを実感することができた。感動だ。
最もさっきの説明だとこれも映像らしいので、実際に目にしたのとは違うのだろうけれど。
それでも感動した。
「肉眼で外を見られる展望デッキもございます。それはまた後程ご案内いたします。まずは、システムがフル稼働になったことですので各部のチェックを行いたいと思いますのでしばらくお待ちください。」
そういうと愛ちゃんは黙ってしまった。
俺はただただ上空に映し出された地球を飽きもせずに眺めていた。
「…各種チェックが終了いたしました。お待たせいたしました、マスター。」
愛ちゃんがそう報告してくると、上部スクリーンは天井としての見た目に戻り、椅子の前にテーブルが現れた。どこからか転送されてきたのだろう。
もういちいち驚いていては身が持たない。
併せて、シュッという音とともに左側にあるドアがスライドし、女性がお盆の上にティーセットを載せて現れた。
「な…なん。」
俺は驚いてなんだ、誰だといおうとして、変な声を出してしまった。
「失礼します。お茶をご用意いたしました。」
「次から次に驚かせないでよ。で、あなたは誰?」
よく見るとアニメに出てくるような体にぴったりと合ったパイロットスーツのようなものを着た女性に問いかけた。
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