第25話・紫色恒星突入
映像に映る豪烈が言った。
《オレの誕生日を祝ってくれてありがとう、毎年感謝しているよ……狼炎、放任主義のバカ親で悪いな。長男のおまえに迷惑かけてばっかりで。弟や妹の面倒を頼むぞ》
「親父……しょーがねぇなぁ」
《芽里ジェーヌ、おまえの星の統治無理するなよ。困ったら狼炎たちに頼ってもいいんだからな……あまり怒らないで、旦那や子供と仲良くやれよ》
「お父さまの、お言葉心に染みますわ」
《セレナーデ、法律の勉強がんばれよ……おまえならできる》
「お父さん……うん、わかった」
《レオノーラ、自分が信じた道を行け。おまえの人生だ》
「はい、パパ」
《竜剣丸、アイドル活動無理しすぎるなよ。また、コンサート観に行くからな。体調には注意しろよ》
「OK! 父ちゃん」
《グレム・リン……えーと、とにかくあまり機械を壊すな。ハグハグ》
「わかったべ、おっとう」
豪烈は子供たちの声がまるで聞こえているかのように、ウンウンとうなづいてから言った。
《誕生日に集まってもらってからで悪いが、オレは急用で行けなくなった……その代わり、おまえたちに隠した宝を託す》
「宝?」
豪烈は、映像の丸窓から見える紫色恒星を指差して言った。
《あの【紫色恒星】に隠した宝を、兄妹で協力して探し出せ……それが、オレが用意した誕生日イベントだ、詳しいことはレオノーラに伝えてある……以上》
そう言って映像は消えた。狼炎がボソッと。
「あの位置から見える紫色恒星って、この極楽号から見えるのと同じだよな」
芽里ジェーヌが困惑した顔で言った。
「お父さまの誕生日を祝うはずが、反対にお父さまから宝探しのプレゼントをされてしまいましたわね……お父さまらしいですわ」
薄っぺらな竜剣丸が言った。
「兄妹が協力してして宝探しをする姿を父ちゃんは見たいんだよ。
どんな豪華な料理や高価な誕生日プレゼントよりも、子供たちが元気な姿が親にとっての一番の誕生日プレゼントだって、コンサートの楽屋でオレに言っていた」
セレナーデが眼鏡のレンズを光らせながら言った。
「で、お父さんはなんてレオノーラに伝えてきたの?」
「極楽号で紫色恒星に突っ込めって」
セレナーデが驚きの声をあげる。
「はぁ!?」
「『恒星空洞説』って知っている、セレナーデ姉さん」
「恒星の内部に星が浮かんでいる空間があるっていうあの学説でしょう……まさか、紫色恒星が空洞恒星?」
「そのまさか、耐熱処理をしたフワフワ極楽号で、黒点に向かって突入する」
「冗談じゃないわよ!! 恒星に突入するなんて自殺行為よ!!」
グレム・リンが会話を繋ぐ。
「オラぁ、暑いのは苦手だぁ……帰るべ」
グレム・リンが帰り支度で、唐草模様の風呂敷包みを担いだその時。
管楽器のファンファーレが広間に響き渡り。
サラブレッドのようにスラッとした竜の馬の背に乗って、竜馬を走らせる乗馬服姿の二十代女性が現れた。
乗馬服のヒューマン型種族女性は、レオノーラたちの前で竜から降りると言った。
「豪烈に子供たちへの宝探しイベントを提案したのは、あたしです兄妹の絆を再確認してもらいたくて」
いきなりレオノーラたちの前に現れた謎の女性は、乗馬服を脱ぎ捨てて女子プロレスラーのような格好になった。
そして、軽く準備運動をしてから。頭の後ろに手を組んでスクワットをはじめた。
屈伸運動をしながら、現役女子プロレスラーの女性が言った。
「あたしが宝探しを見届けます……だから、豪烈が恒星内の星に隠した宝のカギを集めて宝探しやってくれないかな。超おばさまからのお願い」
スクワットを続ける二十代の女子プロレスラー……織羅家の始祖『ウェルウィッチア超おばさま』
もはや、大おばさまの段階を超え。どのくらいの歳月を生き抜いているのか定かではない。
記録も残っていないので、叔母なのか伯母なのかもわからない。
噂では織羅家のアダムとイヴで、追放される前の楽園では全裸で過ごしていたらしい。
床に汗の池を作りながら、ウェルウィッチアが言った。
「先に言っておくけれど、兄妹の助け合いが宝だなんてチンケな結末じゃないから……あッ!」
スクワットをしているウェルウィッチアの首がポロッと落ちた。
体は首が落ちたコトに気づかずに、屈伸運動を続けている。
床で横倒しになった首から、虫の脚のようなモノが生えたかと思うと。
頭頂を下にして。
「ケケケケケケッ!」
と、笑いながら広間を走り回る。
しばらく走り回っていた首を拾ったウェルウィッチアの体は、ねじ込むように首を体に戻して言った。
「歳を取ると、首が落ちやすくなっていけないわね……試合では有利な体なんだけれど」
ウェルウィッチアは、織羅家一族の中でも特に奇想天外な存在だった。
その時、極楽号のブリッジにいるディアからの緊急の連絡が広間に響いた。
《レオノーラさま、極楽号の通信を傍受して、さらに通信に浸入しようとしている、跳躍終了間近の宇宙艦隊がいます………どうしますか?》
「呼んでもいないのに来た、お客さんだね。ディア、主力戦艦の映像は出せる?」
《出せますよ》
天井スクリーンに超弩級の巨大戦艦が映る。その戦艦を見た狼炎が言った。
「アイツら、オレを追ってここまで来たのか」
レオノーラが狼炎に訊ねる。
「狼炎お兄ちゃんの知り合い?」
「オレがいる星域で、オレと因縁がある、うざったい連中だ………奴らの名前は『ネオ・サルパ帝国』」
狼炎がそう言った時。天井スクリーンの画像が乱れヒューマン型の異星人男性の姿が現れた。
ピンク色の肌に青い虎縞模様が浮かぶ、サルパ人だった。
頬に猛獣の爪傷が残るサルパの男が言った。
《聞いたぞ………織羅家の財宝の話し、我ら『ネオ・サルパ帝国』が奪う》
狼炎が頬に傷があるネオ・サルパ帝国の男に言った。
「『ザガネ総帥』これは、オレたち織羅家のイベントだ………介入するな」
ザガネ総帥と呼ばれた男は薄笑いを浮かべる。
《織羅家のお宝なら、さぞかし高価な財宝か、デミウルゴスの遺産だろう………横取りして、我らネオ・サルパ帝国が侵略のために利用させてもらう》
「ふざけるな、ザガネ総帥! 狭い星域で知的生物文明の発達していない惑星ばかり狙って、何が侵略だ! 帝国を名乗るなら、もっとでっかい侵略をやってみろ」
《あまり派手な侵略行為は、極楽号やナラカ号に通報されるからな………我が帝国は地味に目立たない控えめな侵略をコツコツとやる………サルパに栄光を再び》
竜剣丸がレオノーラに言った。
「レオノーラ姉ちゃん、アイツうざいから。やっつけちゃいなよ」
「目安箱に助けを求める声も届いていないし、第一狼炎お兄ちゃんの知り合いみたいだから」
レオノーラはチラッと狼炎を見る。
狼炎は頭を掻きながら言った。
「まったく、面倒くせぇヤツらに知られちまったな………どうしたらいいものやら」
汗だくのスクワットをしながら、ウェルウィッチアが言った。
「サルパ帝国とやらにも、宝探し参加させてあげたらいいじゃない………ライバルがいた方が、盛り上がるわよ。ザガネ総帥さんとやら、あたしが見届け人になります。あなたが織羅家の宝を先に手にしたら差し上げます」
ウェルウィッチアの言葉に、少し焦った表情をするザガネ総帥。
《ふふ……宝は、我がネオ・サルパ帝国が手にする》
「なんかワクワケしてきましたね、織羅家の宝は紫色恒星の中です……入り口の黒点が最大に広がる突入最適時になったら、こちらから連絡しますから。それまで待機していてください」
途切れ途切れの傍受で正確な情報を入手していなかった、ザガネ総帥の額から汗が滝のように落ちる。
《お、おもしろいじゃないか……サルパに栄光を》
ブルッブルッと震えながら通信は切れた。
切れる寸前にザガネ総帥の悲鳴に近い声で。
《恒星突入!?!?》
そう叫ぶ声が聞こえた。
レオノーラが狼炎に訊ねる。
「ネオ・サルパ帝国の詳しい情報を教えて、狼炎お兄ちゃん」
「情報なら極楽号の情報収集システムのデータベースに、銀牙系中の情報が蓄積されているんじゃないのか? わざわざオレに聞かなくても」
「狼炎お兄ちゃんの口から直接聞きたいの、お兄ちゃんあの、ザガネ総帥とかいう人と親しそうだったから」
「友だちじゃないけれどな……『ネオ・サルパ帝国』は異界サルパ軍の残党で、数名のサルパ人とロボット兵士で構成されている……ザガネ総帥が飼っているのは、でっかい三毛ネコだ。オレが知っている情報はこの程度だ、参考になったか」
「うん、ありがとうお兄ちゃん……でも、どうして宝探しの情報が漏洩したんだろう?」
レオノーラの言葉を聞いた、グレム・リンがニコニコしながら言った。
「たぶん、オラから漏れただぁ……うっかり、聞いた会話をオフ設定にしておいたから、オラの耳から微弱な電波が銀牙系に発信されちまっただぁ……今度から気をつけるだぁ」
芽理ジェーヌが、おっとりとした口調で。
「あらあら」と言った。
【ネオ・サルパ帝国】主力母艦内──艦橋の椅子に座った、ザガネ総帥は膝の上で喉をゴロゴロ鳴らしている、ヒョウかトラサイズの三毛ネコの頭を注意しながら撫でた。
ちなみにザガネ総帥の頬の傷は、この三毛ネコに引っ掻かれた傷だ。
苦虫を噛み潰したような表情でザガネ総帥が呟く。
「聞いてないぞ……恒星に突入するだなんて、自殺行為だ」
艦橋にはザガネ総帥の他にも車座になった椅子に、数人のサルパ人が座っていた。
そのうちの一人が口を開く。
「臆病風に吹かれたなら指揮を交代してやろうか……総帥から総統のオレに」
円形に向き合って座っている、サルパ人の中からクスクスと笑いが漏れる。
ムッとするザガネ総帥。
「断る、誰が臆病風に吹かれたって。今回の指揮はオレが行う」
「お手並み拝見といこうか、ザガネ総帥」
そう言って、椅子に座り頬杖をついた『ビス総統』は含み笑う。
ネオ・サルパ帝国は、数人の残党で結成された小規模帝国だった。
その時に、各自が勝手に最高指揮者を名乗るコトになった。
総帥・総統・元帥・大帝・皇帝──『ネージ皇帝』が言った。
「さてさて、ザガネ総帥に任せて。どうなるコトやら」
一日後、黒点が拡張して恒星内部突入の時が来た──黒点に向かって直進する極楽号と競い会うような形で、ネオ・サルパ帝国も恒星への進行を開始した。
近づくにつれて、極楽号のモフモフ耐熱が発火して極楽号は炎に包まれる。
ブリッジで極楽号を操縦している、カプト・ドラコニスがガムを噛みながら言った。
「極楽号船外温度急上昇……火の玉になった極楽号ブリッジ内は温度調整で快適……まるで極楽号が丸ごと油で揚げられているような天ぷら気分だ」
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