第四章【紫色恒星】の偽宝
第24話『織羅家六兄妹全員集合』
アメシスト色に輝く【紫色恒星】星域に、緑色をしたフワフワの毛玉が浮かんでいた。
衛星級のフワフワ球体に近づく、艦首にオオカミの彫刻顔がついた大型宇宙船があった。
表面をフワフワの耐熱コーティングした【極楽号】内で、遮光器土偶型異星人──織羅家財閥の執事『アラバキ夜左衛門』が言った。
「織羅家長男、『織羅・狼炎』さま到着しました」
傍らでうなづく織羅・レオノーラ。
今日は織羅家現当主、レオノーラたち織羅六兄妹の父親『織羅・豪烈』の誕生日。
いつもなら、織羅兄妹が持ち回りで担当して祝う豪烈の誕生日。
今回、担当となったレオノーラに豪烈は兄妹全員を集合させるコトを伝えた。
「多忙で六人全員が滅多に揃うコトが無い織羅六兄妹に、必ず集まるように指示するとは……豪烈さま、何か企んでいますな」
「そうね」
夜左衛門の言葉にガンホルスターに収まった黄金銃『銘銃レオン・バントライン』を擦る、バグ・フリーダムでガンレディ姿のレオノーラ。
父親の豪烈は、どちらかと言えば自由奔放。子供たちに対しては放任主義。
若い時は、銀牙のあちらこちらで異星の女性たちと青春を楽しんでいた。
極楽号の広間にファンファーレが鳴り響く。
夜左衛門が言った。
「狼炎さまの登場は、いつ見ても派手でございますな」
通路にレッドカーペットが敷かれ、金糸や銀糸の刺繍がされた軍服を着てマントをなびかせた。
織羅家長男、獣人種族の『織羅・狼炎〔ろうえん〕』が供を従えて悠然と歩いてきた。
狼の獣人頭には斜めに人面お面を被っている。
レオノーラの前までやって来た狼炎が言った。
「久しぶりだな、レオノーラ……親父はまだ来ていないのか?」
狼炎が口を開くと、斜めに被っている人面も同じ動きで口を開く。
レオノーラが答える。
「パパは、まだ来ていない……狼炎お兄ちゃんが一番乗り」
「そうか、オレが一番最初に到着したか」
極楽号の近くに、数匹のヘビが絡み合ったような動きをしている、メデューサ顔の宇宙船が跳躍してきた。
夜左衛門が言った。
「織羅家長女『織羅・芽里ジェーヌ』さま……ご到着でございます」
レッドカーペットが取り除かれ、代わりにホワイトカーペットが敷かれ。
結婚ミュージックの中、白いウェディングドレスに身を包んだ、上半身が人間で下半身が蛇身の物静かな雰囲気の女性が現れた。
ドレスの下から見える白蛇の蛇腹を蠢かせ、織羅・芽里ジェーヌはレオノーラと狼炎が立つ場所まで来て言った。
「あらあら、わたくし今年も二着ですの……今年こそは、狼炎お兄さまを抜いて一着だと思っていましたのに……残念」
芽里ジェーヌが額に埋め込まれた宝石を輝かせていると。
今度は電飾を点灯させた、やたらと派手な宇宙船が現れた。
「織羅家次男『織羅・竜剣丸』さま……ご登場でございます」
スポットライトに照される広間に手にマイクを持ち、バラの花弁と紙吹雪が舞うロードを歌いながらアイドルのような男性が。
レオノーラ、狼炎、芽里ジェーヌの近くへ華麗な足取りでやって来て言った。
「兄ちゃん、姉ちゃん、久しぶり。事務所に頼み込んで、やっと長期の休みをもらった」
竜剣丸が体の向きを少し変えると、ペラペラの紙のように変わる。
厚みが無い、二次元種族だった。
竜剣丸の後ろには、インテリ眼鏡をかけた『織羅・セレナーデ』が不機嫌そうな顔で立っている。レオノーラが久しぶりの姉との再会に声を弾ませる。
「セレナーデも来てくれたんだ」
「ふん、宇宙船を持っていなかったから竜剣丸の宇宙船に乗せてもらって来たわよ……お父さんの誕生日パーティーが終わったら、すぐに帰るからね。その時は送りの宇宙船手配お願い、乗車料金必要だったら経費で落とすから」
最後にやって来たのは、鬼瓦のような形をした、和の雰囲気をプンプンさせた宇宙船だった。
「織羅家四女で末っ子の『織羅・グレム・リン』さま到着いたしました」
三味線と和太鼓の音色の中を、モンペ姿の機械生命体種族ヒューマン美少女が歩いてきた。
頬にはメカ筋、頭からは小さなコブが数珠繋ぎになったゴキブリの触角のようなモノが生えている。
井桁絣〔いげたかすり〕柄の着物の上に、毛皮のベストを着た機械生命体美少女が、レオノーラたちの前まで来て言った。
「兄ちゃん、姉ちゃん、久しぶりだべ……みんな元気そうだぁ」
織羅・狼炎
織羅・芽里ジェーヌ
織羅・セレナーデ
織羅・レオノーラ
織羅・竜剣丸
織羅・グレム・リン
銀牙に名を轟かせる、織羅家六兄妹集合だった。
グレム・リンが言った。
「おっとうはまだ、来ていないべ?」
芽里ジェーヌが答える。
「まだ、ですわ。お父さまの遅刻はいつものコトですわ」
狼炎がレオノーラに訊ねる。
「親父は、レオノーラに兄妹全員に集まるように伝えたんだよな……他には何か言っていなかったか」
「パパは、極楽号を耐熱化しておけって」
セレナーデが眼鏡の縁を押さえながら言った。
「お父さんのコトだから、またロクでもないコトを考えているんじゃない」
竜剣丸がマイクで声を反響させる。
「父ちゃんは、普段は放任主義だけど誕生日になると、やたらと燃えるぅぅ」
グレム・リンが言った。
「オラの誕生日の時は、おっとうは誕生日プレゼントで、吐き気をもようすような生物を送ってきたっぺ」
「それで、その生物はどうした?」
「調理して、美味しく食べただぁ……後になって、送られてきたのは食材じゃなくてペットだったと気づいたぁ……はははっ、オラぁ機械生命体でも、おっとうの血が入っているだで飯は喰えるだぁ」
六兄妹が談話していると、大広間の巨大スクリーンに『織羅・豪烈』の姿が映し出された。
《おまえたち、みんな集まっているか……これは録画した映像だ》
三十代くらいの若々しい豪烈が、白い歯を見せてスクリーンの中で笑う。
「親父」
「お父さま」
「お父さん」
「パパ」
「父ちゃん」
「おっとぅ」
六兄妹がそれぞれの、呼び方で父親の豪烈に言った後。
狼炎が呟く。
「親父のヤツ、またアンチエイジングで若返っていないか?」
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