第23話・第三章ラスト


 衛星キドニー地表──ミリ・ヘレンたちから逃げてきた、ドドド・リアンの通信機にチリコン・カーンからの通信が入った。

《リアンの兄貴、中古宇宙船を一隻、もらったぜ………兄貴の面目は守るっす、このままレンズ火山の火口に突っ込むっす》

「ちょっと待て、カーン! オレは面目とか体裁なんかにこだわっていない! 早まるな! チッ、通信切りやがった」

 アシ・クサヤが言った。

「あの種族は思い込むと、自分の命を軽視する特性があるから………奪われた中古宇宙船の動力には他惑星では使われていない、有害な燃料が使われていて。

今回の作戦で使いきって恒星に放り込んで完全廃棄処分にする予定だったのに」

 クサヤはキドニーから、ガルバンゾを眺めて言った。

「火山に中古宇宙船が突っ込んだら、誘爆連鎖で惑星ガルバンゾが爆発する………仮に爆発を免れたとしても、飛び散った有害物質の影響で惑星ガルバンゾは死の星に。

この最悪の状況を回避できるのは、あの特化艦しか」

 クサヤとリアンの頭上を、防御特化艦ブラックハートが、ゆっくりとガルバンゾに向かって飛んでいった。



 惑星ガルバンゾ、レンズ大火山──チリコン・カーンが乗った有害燃料の中古宇宙船が火口へと迫る。

「兄貴、今こそ恩返しするっすよ………うへへっ、火山に宇宙船突っ込ませるっす」

 ギョロ目で口が耳まで裂けたギザギザ歯のカーンは、通常の精神状態ではなかった。

 灼熱の火口に全速で突っ込んでいく宇宙船──ガルバンゾが爆破されるカウントダウンが開始される。

 その時、進行する宇宙船の前方を遮るように防御特化艦ブラックハートが突っ込んできて、軟質防御化した艦の側面で中古宇宙船の船先を受け止める。

 火口に向かって前進しようとする宇宙船を、側面噴射で食い止めるブラックハートの姿は惑星ガルバンゾ全域に中継されていた。

 

 防御特化艦ブラックハート艦橋──側面からの追突で揺れる船体の艦長椅子から、ティーカップを落下させて立ち上がったミリ・ヘレンが言った。

「みんな悪いな、初仕事が最後の仕事になるかも知れない」

 ロックウェルが、眼帯をした顔で笑う。

「艦長、気にしないでください。ブラックハートに乗った時から覚悟はしていましたぜ」

 天井に張りつき、天井にもある操作盤を操作するニュートン。

「オレたちの艦長は最高だ! シャー!」

 軟質化したポアズが、傾いた椅子にへばりついて言った。

「艦長が来なかったら、あたしたち、誰からも必要とされなかった。はぐれ者ですから」

 ダインがレバーを押し上げる。

「側面噴射出力アップ………星を守る、ミリ・ヘレン艦長が、この艦の艦長になってくれて……オレ幸せ」

 迫る火口、ブラックハートの横腹に、めり込む中古宇宙船。

「耐えろ!! ブラックハート!!」

 マグマの火口湖が間近に迫る。ミリ・ヘレンは指示を出す。

「今だ『反発防御』最大で弾き返せ!」

「了解! 艦長!!」

 ブラックハートがゴムのように、中古宇宙船を弾き飛ばす。弾き飛ばされた宇宙船はそのまま恒星まで飛んでいって………恒星表面で蒸発した。

 額の汗を拭う、ニュートン。

「ふぅ、危なかったシャー」

 ミリ・ヘレンが、安堵した様子で椅子に巨体を沈めた。


 惑星ガルバンゾ、砂漠地帯──中古宇宙船から輩出された緊急脱出ポットの近くに、天を仰いで涙しているチリコン・カーンの姿があった。

「どうしてこんなコトになっちまったんだよぅ………オレはリアンの兄貴と、ずっとバカやって楽しけりゃそれだけで良かったのによ──どこで道を間違っちまったんだよぅ」


 最初はドドド・リアンに認めてもらって喜んでもらえるのが嬉しくてガムシャラにやってきた。

 それがいつの間にか、廃退都市の裏社会ボスに気に入られ、裏社会の頂点にあっという間に立ち。

 気づいた時には地位と名誉と金を手に入れて、都市を牛耳る市長になっていた。

 肩をガックリと落としたカーンの涙が、砂漠の砂に落ちる。

「やり直したいっす………もう一度、人生をやり直してぇ」

 そんな、嘆くカーンの耳に飛天ナユタの声が聞こえた。

「やり直してみますか」

 顔を上げると、そこに遊牧民風の衣服を着たナユタが立っていた。

 再確認をするナユタ。

「本気で人生を、やり直してみたいですか?」

「やり直したいっす」

 その言葉に、うなずいたナユタはカーンに手の平を向けた。


 砂漠に乾いた風が吹き抜け、数分後ナユタの手の中に真珠色の受精卵があった。

 ナユタが指笛を吹くと、どこからか白い髪で白い体の両腕がエイの翼のようになった、オスとメスの生物が二体、ナユタの前に舞い降りてきた。

 赤いアーモンド型の目をした口が無い宇宙生物で『アスワン』とナユタが呼んで使役している生物だ。

 ナユタはメスの方に、手の平に乗せたカーンの受精卵を差し出して言った。

「頼む」

 メスのアスワンが、受精卵を吸い込み。オスとメスはカーンと同種族のオスとメスに姿を変える。

 空を見上げてナユタが呟いた。

「これで、またひとつ銀牙の歴史に新たな旋律が加わった」


 数十年後──地中に生息する知的生命体『コア』の存在が惑星ガルバンゾで明らかになったが。

 人々はそれほどパニックには陥ることなく、コアの存在をすんなりと受け入れた。

 それは、前々から惑星ガルバンゾに人間以外の知的生命体の可能性を説き、共存の方向性を講演で広め続けてきたココ教授の努力があったからだった。

 そして、ココ教授の近くには常に教授を支援して協力している大学生のリーダー。

 成長したチリコン・カーンの姿があった。



【惑星ガルバンゾ】爆破~おわり~

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