第22話・助っ人三将
宇宙船から降下してきた空挺隊は、ブラックハート艦の方にも侵入していた。
艦内部にまで侵入してきた空挺隊が、爆弾を仕掛けるために艦橋に入ると、回転椅子に座っていた人物がクルッと椅子を回して向き合った。
鉄ウサギの月華だった。ドクロ鉄球を撫でながら月華が言った。
「ごくろうさん、まさか艦内が全員出払って無人だとでも思っていた?」
数分後──顔面や体がドクロに凹んで呻き倒れている、空挺隊の連中がいた。
イカリを担いだ月華が言った。
「今、あたしの心は楽しさにピョンピョン跳ねている──穂奈子は、ちゃんとココ教授に会えたかな?」
艦外のミリ・ヘレンたちは、ドドド・リアンのお面をつけた空挺隊からの攻撃を必死に防いでいた。
頭と手足を強固な甲羅の中に引っ込めたロックウェルは、打撃武器の連打に耐え。
軟体なポアズは、打撃の衝撃を吸収する。
ニュートンは近くにあった大岩に、垂直に張りついて攻撃を避け。
ダインは反発性の体で攻撃を跳ね返す。
ミリ・ヘレンだけは、手や首に巻きついたワイヤーをつかんで、ワイヤーを発射した男たちをブンブンと振り回して遠くに放り投げていた。
なんとか健闘していたブラックハートの面々だったが、元々肉弾戦は苦手な彼らは次第に追い詰められていった。
ついに振り回すのに疲れたミリ・ヘレンが、ワイヤーを引っ張られ地に膝をつく。
ここまでか………と、ブラックハートの面々が思った。その時………ロックウェルは上空から、こちらに向かって落下してくる小柄な物体を見た。
その物体は、空挺隊とミリ・ヘレンたちの中間に落下してクレーターを作った。
土埃の中から、少女の声が聞こえてきた。
「あれぇ? あたしが到着一番だ………バハムートは、まだ来ていない?」
土埃が晴れると、クレーターの底から山伏のような格好をした小柄な少女が飛び出してきた。
一本歯の下駄を履いていて、背中には木製で長方形をした笈〔おい〕と呼ばれる法具木箱を背負っている。
不思議な少女は胡座をかくと、どこからか取り出した湯飲みのお茶をすすって一息つく。
「ふうっ、宇宙を跳んできた後の一杯のお茶はおいしい……さてと、自己紹介してから。ひと暴れするとしますか」
立ち上がった少女が背負っている笈から、柄が長い木槌が飛び出して落下してきた木槌の柄をつかんだ少女が言った。
「アリアンロード十五将が一人……第十一将、『星屑姫〔スターダストプリンセス〕・計都』参上! ええっと、あたしの敵は……どっち?」
計都は、ミリ・ヘレンの側とドドド・リアンの側を交互に見る。
「困った、ちゃんと聞いから来れば良かった………おっきいお姉さん、あなたがあたしの敵?」
ドドド・リアンがミリ・ヘレンを指差す。
「そうだ、そのでかぶつ女が敵だ、やっちまえ!」
リアンの言葉を真に受けた計都が、木槌をミリ・ヘレンに向かって構える。
「そっか、おっきいお姉さんが敵なんだ………やっつけちゃうよ」
星屑姫が、誤解したままミリ・ヘレンを倒そうとした時……計都の目の前の空間に裏返った内臓のようなモノが出現した。
内臓空間は内側から吐き出されるように広がり、赤土色をした肌に幾何学的模様が浮かぶ、二本足で立ち上がったカバのような生き物。
第九将『悪食バハムート』が現れた。
計都が言った。
「バハムート、間に合ったね………これから、あのおっきいお姉さんをぶっ叩くところだよ。あっちが敵なんだよね?」
バハムートの横に厚みがない、電子翻訳版が現れる。
「バフフッバウッ………(ちがう、ちがうアリアンロード十五将の敵はあっちのホボ邪魔団)ブフッバウッバウッ………(もう一人、アリアンロードの将を連れてきて三人でやる)」
バハムートが口を大きく開けると、緑色をした植物系種族のヒューマン女性を吐き出した。
吐き出された成人女性は、頭を大地に衝突させて痛そうにぶつけた頭を擦りながら女の子座りをする。
「痛っ、バハムートは場所考えないで、移動させるから乱暴なんだから」
頭に髪飾りのように見える花が咲き。
緑色の裸体にラッピングでもされているかのように太いリボンが巻かれた、露出度が高く目のやり場に困る植物系異星人は、リアンたちに気づくと正座をして三つ指で頭を下げた。
「お初にお目にかかります………わたくし、アリアンロード十五将。第五将・生体華道家の『スタぺリア・ザミア』と申します………以後、よろしくお願いいたします」
第十一将、星屑姫・計都。
第九将、悪食バハムート。
第五将、生体華道家。スタぺリア・ザミアの三名がドドド・リアンのお面を被った空挺隊と対峙する。
少し頬を怒りで膨らませた計都が、木槌を片手でブンブンと振り回す。
「ウソつきはいけないんだよ………美鬼さまから、本気ださないように言われているけれど、少しだけ本気出すからね……うりゃあぁぁ」
計都が大地に振り上げた木槌を打ちつけると、衝撃波が大地を走り空挺隊を吹っ飛ばす。
スタぺリア・ザミアが
「実技です」
そう言って、投げた切り花が次々と空挺隊の体に刺さり、根を張って生きている生け花に変えていく。
ザミアが命じると、空挺隊の体内に張った根が
動いて自在に体位を変えさせる。
「もう少し腕を曲げて美しい形に、あらっ? 関節から変な音がしましたわ……ふふふっ、美しい芸術が完成しました」
植物に体液を吸収された空挺隊員は渇れていく。
口を開けたバハムートが空挺隊を吸い込む、パハムートには食べたモノを強酸で消化する胃と。別空間に通じている胃の二種類が存在する。
計都が木槌に換えて、笈から釣竿を取り出す。針がついた釣糸は、一端別空間に消えて空挺隊員の背後から襟首を引っ掛けて別空間に引っ張り込んだ。
次に釣られた空挺隊員が現れた時は、白骨に変わっていた。
「いっけない、力の加減を間違えて白骨化させちゃった………カダに復元してもらわないと、てへっ」
恐るべきアリアンロードの将に次々と倒され、残るはドドド・リアンとアシ・クサヤだけとなった。
クサヤは腰が抜けて放心状態のリアンを脇に抱えると、クモ脚でピョンピョン跳ねながら逃げていった。
惑星ガルバンゾ、廃退都市の夕暮れ迫る公園──公園の駐車スペースに器用に中型宇宙船を着陸させた、カウダ・ドラコニスが連れてきた穂奈子は、ナユタと一緒にいるココ教授と会っていた。
ベンチに座り新聞を広げたココ教授は、穂奈子を一瞥すると。小娘がなんの用だといった顔をした。
カウダ・ドラコニスが口から冷気の白い息を吐きながらナユタに言った。
「穂奈子を連れてきてやったぜ……織羅家とアリアンロード家の目安箱にSOSを送った存在が、そこのジィさんと話したいそうだ」
ココ教授が気難しい顔で、穂奈子クローネ三号を見る。
「ふん、儂と話したい存在だと……その娘、亡くなった妻にどことなく面影が似ているな。いいだろう話しとやらを聞いてやる」
一礼した穂奈子は、精神同調の為に肘から先がイカの菱形触手腕や、ゲソ足の手を絡めて印を結ぶ。
穂奈子の目が虚ろになり、穂奈子の体に入った別の意識が穂奈子の口を借りて喋る。
「最初に、この生物……失礼、娘さんの肉体と発声器官を貸していただき、我らにココ教授と接触する機会を作っていただいたコトに深く感謝いたします……初めましてノアド・ココ教授、以前より教授の存在は存じております」
「おまえさんたち何者だ?」
「我々の容姿は、この娘に描いてもらった絵があります」
そう言って、穂奈子はスケッチブックを広げる。
そこには、園児並みの画力で脳ミソと、脳ミソから周囲に伸びる菌糸のようなモノが描かれていた。
「これが我々の姿です、我々は自分たちを『コア』と呼んでいます」
「コアだと?」
「まだ、惑星ガルバンゾの人間は我々の存在を知りません……我々、コアは惑星の地中深くに生息して独自のネットワークを形成しています」
「まだ発見されていない、未知の知的生命体か」
「はい、最初は惑星の養分を吸収するだけの寄生生物でしたが。進化して惑星ガルバンゾと共存の道を選択しました」
ココ教授は黄昏を眺めながら言った。
「まさか、そんな生物が地中にいたとはな──しかも儂のコトを知っていたとは。それで、おまえたちはこの先どうするつもりだ?」
「いずれは、地表に生息圏を広げていくつもりです、菌糸を伸ばすキノコのように──地表に出るのは何年も先の話しですが」
「ふむっ、惑星の知的生命権が人間からコアに移るのか……それも自然の摂理だな」
「我々コアは、他生物との共存を望んでいます……多少の生態系変化は起こるかも知れませんが」
この銀牙系には、ヒューマンタイプの生命体以外の存在が進化して、文明を築き覇者となった惑星も数多く存在する。
「人間よりも、コアの方が惑星のコトを真摯に考えているのかも知れんな」
ココ教授がコアに質問する。
「儂がホボ邪魔団に依頼した、人工災害をやめさせるように依頼した理由を聞こう」
「我々の子供の未来のためです、幼いコアはまだ人工災害の環境変化に適応する力が弱いので、死んでしまう危険があったのです」
「そうだったのか……コアの存在を、もっと早くに知っていれば人工災害の依頼はしなかった」
ココ教授は、穂奈子の体を使っているコアに向かって頭を下げた。
「すまなかった……許してくれ、惑星のコトを考えていなかったエゴイズムなのは儂の方だった」
穂奈子の体を借りているコアが言った。
「教授にお願いがあります」
「なんじゃ?」
「いずれ、我々の存在は惑星の人間に知られるコトになるでしょう。その時、人間が我々コアを敵対視して排除しないように働きかけていただきたい──我々コアは、争いを好まず。人間の排除は考えていません」
「それを、儂にやれと言うのか。この老いぼれに……人間がコアを受け入れて惑星の主導権をコアに譲り、生態系の一員として共存の道を模索するように導けと言うのか」
「惑星ガルバンゾで一番繁栄しているのは、人間でもコアでもなく。
昆虫類や植物類です……教授なら、我々の存在を誰よりも理解してくれると信じています」
「余生でどこまでやれるか分からないが、生き甲斐にはなるな……おもしろい、約束しようコアの子供たちの未来を守ると」
穂奈子が深々と頭を下げて、穂奈子の肉体からコアの意識は地中にもどっていった。
顔を上げた穂奈子の目からは、涙が頬を伝わり落ちていた。穂奈子が言った。
「コアが去った直後に、ココ教授と会話をしたい人間の意識体が突然、入り込んできました……少しだけ話してあげてください、ココ教授のよく知っている人物です」
穂奈子の口調が変わる。
「あなた、お久し振り……随分、あなたは歳を重ねてしまいましたね」
それは、若くして亡くなったココ教授の妻だった。
ココ教授の目から涙が溢れる。
「おまえ……なのか?」
「はい、あなたにどうしても伝えたいコトがあって、強引に体を借りました……もう、病に蝕まれ苦しんだ、あたしの体は存在しません。だから、あなたも人を恨まずに残りの人生を生きてください……わたしは人間のエゴイズムに殺されたのではありませんから」
「おおぉ」
ココ教授は穂奈子を抱き締める、穂奈子も涙を流しながら教授を抱き締める……穂奈子が言った。
「最後にあなたに言えなかった言葉を伝えて去ります『人生の最後まで、一緒にいてくれて……ありがとう、本当に幸せな最後でした』」
ココ教授の亡き妻の意識が穂奈子の体から離れ、ココ教授は涙を流しながら穂奈子にキスをした。
穂奈子クローネ三号はバタバタと手足を動かして抵抗していたが、いきなり老人から唇を奪われたショックからグッタリと、白眼になって意識を失った。
カウダ・ドラコニスが慌ててココ教授に向かって「穂奈子から離れろ、ジィさん!」と叫ぶと。
穂奈子を引き離す。
ファーストキスを老人に奪われてしまった穂奈子は、ドラコニスの腕の中でヒクッヒクッと痙攣していた。
「すまんつい、亡くなった妻のつもりで」
「穂奈子は、あんたの女房じゃねぇ!」
竜頭パイロットが怒鳴っているところに。打撃武器を手にした、数日前にナユタにやられた男たちが現れた。
男の一人が、ナユタに向かって言った。
「やっと見つけたぜ、あの時は世話になったな……今まで、なぜか忘れていたぜ」
男は天を指差して言った。
「オレたちのボス、チリコン・カーンさんが、ホボ邪魔団の中古宇宙船を一隻略奪してレンズ火山に向かった……おまえたちは、もう終わりだ。その前にオレたちの手でボコッボ……」
男が言い終わる前に、カウダ・ドラコニスは白い冷気の息を男たちに向かって噴射して、男たちを凍らせた。
「ゴチャゴチャうるせぇ! 穂奈子が意識失っているんだ、ちったぁ場の空気読め! なんか凍らせる前に気になるコトほざいてやがったな」
カウダ・ドラコニスは、眼鏡型の電子端末機をポケットから取り出した。視線で操作をするタイプの端末だ。
眼鏡をかけると、惑星ガルバンゾのニュースサイトを開いた。
「緊急速報? こりゃやべぇ、本当にどっかのバカがホボ邪魔団の宇宙船を奪って。ガルバンゾ最大の活火山、レンズ火山に向かいやがった」
ココ教授は建物の上空に見える、赤い衛星キドニーを眺めているナユタに訊ねた。
「本当に儂にできるのか? コアの存在を受け入れて敵視しないように、この星の人間の意識は変わるのか?」
「池に投げた小石の波紋は最初は小さなモノです──誰かが小石を投げ入れなければ、池に新たな波は立ちません──小さな波が起こらない限り変化は起こりません」
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