第3話 オフロマ!

 

 《じゃあ明日、セントラルパークで!》

 【セントラルパーク?】

 《中央公園ですw》

 【あぁw了解ですw】






昼、雲が3つ4つ浮かんでる。窓から外を覗けば暖かそうに見える午後。屋上で昼食をとることにした。


屋上の扉にはおっきな鍵がついている。ゴツくてチェーンでグルグルになってる。これじゃ一般の生徒ははいれない。

だから鍵はくすねた。一年ほど前に。楽しかった。


「さみぃなぁ…日差しはあんだけどなぁ…」

ガサリと紙の袋を開けた。中には冷えたハンバーガー。

一人くるはずの友達を待たずして食べる。

「はぁ…楽しみだなぁ…!」

一緒に昼食をとる友達のことではない。あったこともみたこともない、友達のことをさしていた。


ポケットからスマホをとりだしチャットをひらいた。

「なんだか昨日は上手くいった気がすんぜ」

彼女は笑っていたのかな。勝手に想像した顔を勝手に笑顔にした。

【やっぱり面白いですね!】

【明日が楽しみです!】

【おやすみセラさん!!】


「はぁー…はやく会いたいぜ…ルルちゃん…」



 学校が終わるとオレはすぐに中央公園へむかった。カイチには先に帰ると伝えておいた。

いつもよりいくらか人の少ない校門前をすりぬけ、アバドンを横目に走った。変な名前のコンビニも見つけた。彼女との話のタネにでもなればと思った。


 一人の女の子が駅にいた。少し色素が薄いような女の子。白いコートを着ている。細い指が自販機のボタンを押した。

「あの…ルルさんですか…?」

「あっ…!セラさん…!?」


自分の想像を超えた容姿だった。こんな子もインターネットでチャットなんかするものなのかと思った


「こ…この駅、中央公園に行く時とおるんすよ…!」

「そうなんですね…!はやめに会えてラッキーですね!」


なんて嬉しいことを言ってくれるんだ。チャットの文字から感じた暖かさは間違いではなかった。現実の彼女は眩しすぎる。


「どうします?中央公園行きましょうか?」

「いや、中央公園はただ待ち合わせに使おうと思って…ルルさんどこ行きたいですか…?」


やってしまった。緊張でプランがはじけとんだ。色々と考えてきたのに。

「じゃあ遊園地!どうです?」

俺は少し面食らって、「いいですね!」と返した。

だってこれはオフ会というよりデートじゃないか。



 彼女は俺の2つ上。大学一年生だそうだ。

出会ったのはインターネットの掲示板。小説の感想を書き込むようなところ。俺は小説になんて興味はないんだけど、たまたま親父の本棚にあった本を読んだ。面白いか面白くないかもわかんなかったけど全部読んだ。

この本の評価が知りたくて掲示板へいったんだ。

レビューサイトもネットのブックストアにもこの本はなかったから。


《だれか読んだ人いません?》


反応はあった。4人読んだという人がいたが、4人全員がイタズラだった。


【それ大好きです】


5人目がルルさんだった。彼女はイタズラなんかじゃなかった。

その本の話をするうち仲良くなった。





 「いやぁー、楽しいですね〜!」

彼女は髪をなびかせそういった。

「意外でした。最初は本屋にいこうと思ったんですけど…カフェがくっついてるヤツ」

俺は彼女にソフトクリームを渡しながらそう言った。

彼女は目を輝かせ、美味しそうに食べはじめた。

一呼吸して、俺は空を眺めながらしあわせを全身で感じた。

頭に友達がうかぶ。

カイチ、しあわせはこーゆーもんだぜ。寝てばっかいないで動き出せ。物語は全部ボーイミーツガールで始まるんだから。




 彼女がジェットコースターにのりたいというので、恐怖を噛み殺して列に並んだ。

「どうかな〜…のれるかな…」

彼女は身長が足りるか考えていたようだった。

145cm以下の子はのれないよ!と書かれた看板に頭をつける。

148cmでギリギリセーフ

「よぉ〜〜し……!」

嬉しそうな彼女が可愛かった。

「ん?」

ウチの制服を着た女がいる。かなりデカい。170…172ぐらいはあるんじゃないか?

「おっきい人はいいな〜」

なんて微笑む彼女とはオーラが違った。

黒い大きなイヤリングをつけて無表情でそこにいる。

一人で、ジェットコースターの順番をまっている。




 「きゃあ〜〜っ!」

道にそってジェットコースターはグリングリンと回転した。

ゴゴゴと擦れる音。気持ちのいい風。かわいい彼女。

最高だ。ジェットコースターロマンスだ。


「楽しかったですね!」

「はい!」


 あたりは薄暗くなってきていた。もうすぐ別れがくると示唆していた。

「どこかでお茶でもしていきません?」

「いいですね」

緊急事態だ。小洒落た喫茶店など知りはしない。

アバドン意外になにも浮かばない。

「ちょっとトイレいってきます」

「あ、はい」

今しかない。

ケータイで調べよう。俺はいい喫茶店を知ってる男になるんだ。

「………」

黒い長身の女と目があった。すぐに目をそらしたけど、彼女がコッチをみてニヤリと笑っていたのがわかった。


俺は調べたいたカフェのスクリーンショットをとり、ダイヤルを開いた。うちなれた番号。

「もしもし」

「ナガシマ!でっけー女!ウチにいんだろ!?ソイツのことおしえてくれよ!」

「それだけじゃわかんないって。なんかないの?もっとさ…他になんか」

「黒っぽいんだよ…。顔はよくみてねぇけど。雰囲気が黒かったんだ…!」

「あーニエちゃんだな。ウチのクラスの。大人しい感じでいい子だよ」

「いい子!?そんなふーには…」


「いい子だよ」


後ろから声がする。


「ほら、アバドンのハンバーガー。好きでしょ?」


「お前……なんなんだ……」

後ろにいたのは黒い女。ニエというらしい。

「なんだはないでしょ〜。せっかくセラくんにもってきてあげたのにぃ」

怖い。なんなんだこいつ。怖すぎだ。ジェットコースターなんて比じゃない。


「ごめんまった〜?」


彼女がトイレから出てきた。

ニエとあわせては駄目な気がする


「どうも、セラくんのクラスメイトのニエです」

「…どうも…?」


なにを考えてんだこいつは…。第一クラスメイトじゃない。


「じゃあセラくんまた」


帰るのか、良かった。


「学校でね」


俺はやっぱり間違ってなかった


「好きだよ」


物語はいつでもボーイミーツガールではじまるのだと

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