第2話 エンスト!
夜。静寂の時。
住宅の少ないこの通りには灯りも多くない。電柱についた外灯が数本ある以外はこのコンビニが唯一の光。
そうなればそこに魅せられるのは必然だ。虫が光に集まるように、オレはコンビニへ吸い込まれた。
「まァいっか。ごーかくねカイチくん」
何が、と聞こうと思ったが認められた事が嬉しくて情けない返事をした
「それにしてもカイチくんさぁ、なんでこのエンストきたの?」
また謎の単語、「エンスト」とは何だ?己が無知を嘆きながら
「エンストってなんすかぁ…?ハハ…」と問う。
「あーコンビニだよコンビニ。コンビニエンスストアだろ?だからエンスト」
「それすげーいいですね〜…!」
本当にそう思った。もし彼女以外がそう略していたら思わなかっただろう。
「んで?どーしてここに?」
彼女の問いにオレは少し考えて
「走り回って、気づいたらコンビニにいた」と答えた
本当の事だ。夜に外を出歩くなんて非常識極まりない。誰かに見られたらどうなるかわかったもんじゃない。なのに、楽しかったんだ。昼より明るいこの世界が。全部忘れて駆けてしまった。
「あてられたね。たぶんね」
彼女はそう言うとニヤリと笑った。かわいい。
「カイっちゃんはどー思う?夜に出歩いてる人」
非常識、不真面目、馬鹿、お馬鹿。あとはクラスの嫌いなやつが頭に浮かんできた。
「んー…駄目ってか……フツーじゃないっすよね〜…。非常識ってーかなぁ」
「じゃあ夜に働いてるヤツらは?」
「それは〜…!国の人たちじゃんすかぁ…!」
「そーゆーコトになってんのねカイっちゃんは」
先程からのカイっちゃん呼びに気が気ではない。カイチくんからランクアップしたのか…オレもルイちゃんと呼ぼうか…
「エンストのいいところって何だと思う?」
「んー…あたたかさ?夜でも人がいて安心するっつーか…光…アスファルトも…住宅と合体してるのもあるね〜…!。うん、全部ひっくるめてフインキが好きだなオレ」
「バカイチ。なげーしちげーよ。利点をきーてんだよ」
バ、バ、バ、バ、バカイチ!?親しみをこめて呼んでるよコレは!よし、オレだって
「ル、ルイファちゃん、利点は24時間やっているということだよ…じゃない…すかね?」
「そうだね、なんで24時間やってるかな?使う人がいるからだろカイチくん」
ランクが下がってしまった。
「夜に出歩いても犯罪じゃない。てめーで勝手に駄目だと思ってる。罪悪感を感じてる。だろカイチくん?」
ハッとした。どうして夜に外でたらダメかなんて考えたこともなかった。そういうものだとおしてえもらったから。空気が街が世界が、夜はキケンだと説明してきたから。
「こっち来なカイチ。なんか飲むだろ?」
ルイファちゃんはでっかい冷蔵庫に寄り掛かり、床に座った。とても絵になる。黒のショートパンツからのぞく足が余計に長くみえた。
「いっ…いいの?お客さんきちったらさぁ…!」
「こねーよ。くんのはカイチみてーなバカぐらいだよ」
ルイファちゃんが親指をレジの方へ向けた
「来てもアイツいっからさ」
褐色の胡散臭い長髪がそこにはいた。
「ऋग्वेद」
良い、何言ってるかわかんないのが良い。これが深夜のコンビニだよな
「あちらインド人のインドラ君。インドラ君ーっ、こちらバカのカイチ」
「よろしくねーっ」
これぐらいの日本語はわかるだろう。オレは冷蔵庫に手を伸ばした。たしかリーチインとかいうヤツ。この冷蔵庫も最高なフインキだ。
オレとルイファちゃんは話した。2時間ぐらい話した気もするし30分だった気もする。
「また来るよ。明日、夜。いてねルイファちゃん」
「うん。じゃーなカイチ」
彼女の赤い目を見るたびにフワフワする。今オレは夜に生きていると思うと余計に。
けど地に足がついたものもある。
カイチくん→カイッチャン→カイチとフワフワした呼び方はどうやらカイチで落ち着いたらしい。
オレもフインキじゃなく雰囲気だとおしえてもらった。
二駅歩いて家まで帰った。頭が冴えてろくに眠れずそのまま学校へ向かった。
眩しい、光で溢れた世界。空は秋晴れ。日差しがさしている。
ふと目を瞑った。眩しい世界に嫌気がさしたから。
けど暗くはならなかった。まぶたの裏には昨日の夜が、絢爛な光に揺れる煌びやかな夜が張り付いている。
眩しいけど、嫌ではなかった。
アバドンの2つ先の角を曲がると、そこには昨日のコンビニ
「ゴゼンゴゴ」
よくわからない名前だったけど雰囲気がいい。
少し眺めていたら窓越しに目があった
「どーーもこんちはーァ」
褐色の胡散臭い長髪がでてきてオレにそう言った。
「えっ…インドラ君てさ……日本語しゃべれたん?」
「ルイファさんに教えてもらいましたーーァ」
オレが帰ったあとに?そんなすぐ覚えるハズが…あんのか?ルイファちゃんなら……いけなくは…
「このエンストに来て良かったでーすァ」
とても、ひっかかった。手が出そうになった。コンビニって言えよ。フインキがよくねーよ。
「ふふっ」
夜が楽しみだ。いまにも体が浮きそうなぐらいフワフワしだした
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