単眼族や有翼族など、幻想的な種族の暮らす世界での、とある学校の小さな事件のお話。
ミステリです。いわゆる人の死なないミステリで、学園を舞台にしたキャラクター文芸で、そのうえしっかりファンタジーです。それがなんと一万文字の短編で。いやいやこの分量でやれること? という、読み終えてまず思ったのがそこでした。すごい衝撃。全部の要素がしっかりと、余すところなく使い切られている……本当にこの設定、この謎、このキャラだからこその物語だというのがわかって、いやもう凄まじい完成度です。とんでもないもの読みました。
世界の設定が独特です。お話の主軸というか、「これがなんのお話か」という部分は完全にミステリそのものなのですけれど、それに対して思いっきりファンタジーしてくる世界。いわゆるローファンタジーで、例えば学校のありようとか技術レベルのようなものは現代そのものと思われるのですけれど、そこにいろんな異種族(いわゆる人外)が存在している世界。もちろんしっかり意味があって、例えば一番わかりやすいのは、探偵役であるところの単眼族、シクロくんの種族的な特性です。
なんと彼の目には、他者の感情がぼんやり見えてしまう。探偵にはもってこいの能力で、当然それはしっかり活かされるのですけれど、でもすごいのはそれらの設定の折り込み方というか、語り口の自然さです。結構尖った設定のはずなんですけど、普通にわかる。なんとなく読んでるだけでちゃんと頭に入る。
ちょっと個人的な話なのですが、自分は探偵ものに対して結構不誠実な読み方をしてしまうタイプで、つまりあんまり謎について考えないままノリでぐんぐん読んじゃうのですけれど(探偵の格好いいところが目当てなので)、でもそんな読み方をする自分でも本作、必要な情報の取りこぼしがない。順を追って、丁寧に、かつ難しかったり情報がパンクしたりしないように書かれている。もうこれだけで勝ったようなものだと思います。
キャラクター、というか主人公コンビが好きです。彼らの関係性というか、ほんのり漂う信頼感のようなもの。キャラクターはしっかり立っているんですけど、全然コテコテではなく自然なんですよね。単眼というすんごい派手な特徴があるのに。この感じ、どこまでも自然なところが好きです。すごく好感が持てるというか、気がついたら好きになっている感じ。
あとはもう、本作を語る上で絶対に欠かせない最大の魅力なのですけれど、やっぱり『名探偵は謎を解かない』です。その言葉の意味。いわゆるタイトル回収といえばそれはそうなのですけれど、ただ拾うという感じではまったくなく、〝本当にそれをただ最初から書いていたのだ〟というのが最後にわかる感じ。なによりだからこそ、でなければ絶対に辿り着けなかったであろう、この物語の結末の心地よさ。非の打ちどころのないハッピーエンド!
読後の余韻というか「あー」ってなる感じというか、もう本当に満足感がすごい。捨てるべき要素がなにひとつない、ぴったり綺麗に組み上げられた佳作でした。結末が好きです。格好良すぎる!