第5話 ロケット計画会議
カグヤと出会った日は隼人にとってかつてないほどに濃密な一日だったが、それからの三日間は平穏だった。
授業を終えた後は宇宙に関する本を読んで勉強。読書だけでなくパソコン室で宇宙に関連する動画なども視聴して、とにかく知識を頭に入れることに専念した。
その間、カグヤはほとんど寝ていた。たまに起きて思い出したかのように隼人に話しかけてはまた眠る。その繰り返しだった。
今のうちにたくさん寝ておけば後で無理が出来る、と本人は説明していたが隼人は別の意図を察していた。
(…たぶん…俺に気を使っているんだな……心の整理をさせる為に……)
初日は慌ただしく終わってしまったので深く考える時間がなかった。だがこうして時間が出来るとどうしても考えてしまう。
自分はこの地球上で宇宙生物と唯一コンタクトを取っている人間である、そう思うと隼人は落ち着かなかった。
あの演壇でクラスメイトを、教師を、学園に居る人間すべてを操り支配下に置いた時点で決意したつもりだった。
だが所詮は言葉だけの覚悟。実際に行動すれば「これでいいのか」という迷いと不安が浮かぶ。そう簡単に振り切れるものではない。
そんな濃霧に包まれたような日々を過ごすこと三日目。パソコン室で宇宙に関する勉強をしていた隼人はあることを思い出した。
『そう言えば…昨日の夜にあったんじゃないのか?あのフランスのロケットの打ち上げ』
念話でカグヤに話しかけると、数秒ほどして返事が返ってきた。
『む…確かにそうだな。延期された可能性もあるが…調べてみるか』
動画サイトを3分ほど探した末に、ロケットの打ち上げ動画を発見した。
(成功したっぽいな)
失敗したのならばタイトルに失敗と書いてあって、サムネイル画像は爆破、または分解する瞬間を収めた画像になっているはずだ。あるいはもっと大きなニュースになっているはず。
ページを開くと定点カメラでロケットが捕えられた映像が流れだした。
『これ…日本の宇宙に関連する機関が投稿しているんだな。日本語の説明も入るのか…』
左上には発射までの時間を示すカウントダウンが表示されている。
発射まで40分。それまでは技術的な説明をする動画で尺をつないでいるようだ。
多少は勉強して知識もついたので、出てくる用語などもある程度は理解出来た。
やがてカウントダウンが始まり、ロケットは空に向かって飛んでいく
『前にも映像は見たが…やはり宇宙への挑戦というのは美しいものだな』
カグヤが感慨深げに呟く。
(単独で宇宙を旅することが出来るカグヤの視点で言うと、猿が石を使ってクルミを割って食べたとか、そういう感動なのか)
そんな自虐的な考えが浮かぶ。だが確かにロケット打ち上げというのは心が奪われる映像だった。隼人は画面に注目した。
打ち上げ後も映像は続く。衛星が軌道に乗ったことを示すCG、そして関係者のインタビューやコメントなどが続く。
『動画再生数は3万…これって少ないよな。全然話題になってないのか』
試しにニュースサイトを開いたが詳細な情報は中々出てこない。ただ「フランスの衛星打ち上げロケットが成功」という短文ニュースが出てくるだけだ。
『これって…恥ずかしいことじゃないのかな』
『何?』
『ロケットは税金が使われる国家事業だ。そして今は宇宙開発競争の時代。他国のロケットが失敗すれば日本のロケットの成功率が評価される…っていうのは不謹慎な考えだけどさ…それでもオリンピックやワールドカップみたいなイベントに近いじゃないか。もっとみんな関心を持ってもいいと思うんだ。宇宙開発事業に』
『…少しは宇宙について詳しくなってきたではないか』
『ば、馬鹿扱いするなって!まだまだ勉強は必要だけど……』
隼人と会話をするうちにカグヤの言動も少し人間らしくなってきた。学んでいるのは二人ともだ。
『それで…お前を宇宙に返すための計画についてだけど……本命は…二葉島のロケットと考えていいんだよな』
『いや、私としては民間ロケットの方が好ましい』
『え…なんでだ?民間ロケットは失敗続きだし、成功率という面ではそっちの方がずっと上だろ』
疑問に思った隼人にカグヤが返答する。
『地球への影響度の問題だ。ロケットの打ち上げが成功すると仮定しての話だが…私が二葉島から打ち上げるロケットに搭載されれば宇宙ステーションに運ばれる物資を200g分損失することになる。だが元々打ち上げること自体が目的である民間ロケットならば任務に与える影響は小さい』
『…そういうことか』
納得した隼人は話を続けた。
『そっちをメインに考えるとすると…民間ロケットの方はクラウドファンディングをやっているんだから、そこから資金提供するのが一番の支援だと思うけど…それはNGだよな』
『…そうだ。直接的な形で金銭の流れを作り出すのは可能な限り避けたい。地球への影響度という観点からあまり好ましくない』
『あくまでも間接的な方法で支援するのが条件…だよな』
そう言いながら隼人は鞄からノートを取り出した。
『それを満たす計画をこの三日間、ずっと考えていたんだ。ロケットの知名度を上げる為の計画を』
『出来たのか。それで説明してくれ』
『ああ。案は三つあって…』
隼人は計画についてカグヤに説明した。
『ううむ。一つ目の案は賛成だが、二つ目と三つ目の案は……よくわからないな。効果があるのかも上手くいくのかも…』
『俺もこのまま行けるとは思っていない。やっぱ他の人の助言は受けるべきだと思うけど……』
『そうだな。会議を開いて意見を集めるとしよう。メンバーはどうする?』
『文芸部や漫画研究部とか…そういうのに詳しそうな人物だな…雫も本屋だから知識はあるはず…』
『人数は多いほうがいい。お互い世間知らずだからな』
『ああ。今日は木曜日だから…明日メンバーを選定して資料を渡して…土日の間に読んでもらって、月曜日で会議って流れでどうだ。場所は長机がある生徒会室だ』
『よし。それでいこう』
他者を操ることへの抵抗は消えた。
カグヤが隼人に影響されたように、隼人もカグヤに影響されて少し感覚がおかしくなりつつあった。
月曜日。隼人の予定通り会議は始まった。
「それでは第1回文化部合同会議、「カグヤ様を宇宙に返したい」を始めます」
雫の号令によって生徒会室の空気が引き締まる。
議長の席に座るのは人間形態となったカグヤだ。
恰好はいつもの薄布。衣装だけを見れば奴隷のようにも見えるが、室内を見渡して満足げにかすかな笑みを浮かべるその様子は女帝とも言うべき高貴さがあった。
「まずは自己紹介から…私は進行役の田宮雫。実家が書店だから出版業界についてはそれなりに知識はあると思う」
落ち着いた態度にキリっとした声。彼女が一番まとめ役に適しているのは明らかだった。
「それぞれ…代表の方、挨拶をお願いします」
「演劇部代表、倉守美崎」
「映研部代表、山本玲美」
「天文部代表、大城まどか」
「美術部代表、田中楓」
「文芸部代表、梅沢晴菜」
「漫画研究会代表、島村百合」
「報道部代表…野村佳奈子」
代表が挨拶をしていく。
集めたのは文化部のメンバー30人。学園中からアドバイザーとなりそうな人物を集めた。
彼女達はカグヤの正体や能力についてすべて知っている。
同時に、
「この会議の存在、およびカグヤの存在を外部に漏らしてはならない」
「カグヤの言うこと、そして隼人の言うことに従わなくてはならない」
という命令が刷り込まれている。
このため情報が洩れる心配はない。そして、カグヤがどうしたら宇宙へ帰れるか、自分の進路と同じくらい本気で考えて協力してくれるはずだ
「俺は深浦隼人。カグヤの器だ。よろしく頼む」
自分で言って少し嫌になる説明だが、隼人には他に話すことが思い浮かばなかった。
「カグヤだ。どうか私が宇宙に帰る為に、みな協力してほしい」
その呼びかけはSFアニメに登場するキャラクターのような口調だった。どこかで学んだらしい。
その挨拶を受けて女子が一斉に身震いする。カグヤの存在が絶対であるとある種の洗脳状態に置かれているためだ。
(にしても…すごい光景だな…みんな)
集められた女子は全員、カグヤと同じ格好をしていた。
シーツのような一枚の薄布を躰に巻き付けただけ。露出度的には水着と大差ないが、それでも際どい衣装と言えた。
(まあ俺にとっては眼福だけど…)
すでに彼女達は電波によって完全に支配下に置いてある。もう服を脱がせて電波を浴びせる必要はないのでこれは完全にカグヤの趣向だ。
同じような恰好をした人間に囲まれたい、というある種、人間的な思考をカグヤは見せ始めた。
(カグヤもどんどん成長…というか思考が人間に近くなってきているような気がする…)
ちなみにカグヤが纏っている薄布は服のように見えるだけで実際には体の一部。バランサーとしての機能を備えているため、それ故にそれ以外の形状に変形することが出来ないし、重ね着をすることも出来ない。シャツ一枚でさえ着ると重心が狂って動けなくなるそうだ。
(時間を作って貰って…こんなHな恰好させちゃって……ごめん…みんな……)
隼人は全員に心中で謝罪した。そして気持ちを切り替える。
「議題は…ロケット計画を推進する為の計画についての意見交換。立案者は隼人君よ。それじゃ説明をして」
「わかった」
隼人は立ち上がってスクリーンの前に立った。スクリーンには近くに置かれたノートパソコンの画面がそのまま投影されている。
「それじゃレジュメを出してくれ。プランを一つずつ説明する」
金曜日に企画書を配って、土日を通して全員が目を通してきているはず。だが改めて自分の口から説明する必要がある。隼人はスクリーンの前に立った。
なお、レジュメを作ったのはカグヤだ。インターネットで検索するのがやっとの隼人に文書作成などできない。
カグヤは電波でパソコン自体を操ったのか、4ページに渡る企画書を数秒で完成させた。隼人が行ったのはプリンタから出てきた書類をクリップで留める作業だけだ。
「最初にプランA。これはSNSでの工作活動だ」
全員の視線を感じながら隼人は説明を続けた。
「宇宙に関連する団体は…ほとんどが動画投稿サイトやSNSのアカウントを作っていて、情報発信している。いわゆる広報だ」
パソコンで実際のページを表示した。するとスクリーンそのまま投影される。
「これらを支援する。カグヤの催眠電波を使えばいくらでも工作用のアカウントを増やせる。それこそ5万や10万単位で登録者数を増やせるはずだ」
この支援方法についてはカグヤも肯定的だった。「事が終わった後に削除して元通りに出来るという点は特に好ましい」とコメントしている。
「まず…この案についてだが…みんなはどう思う?」
隼人が声をかけると、口々に意見を出した。
「特に問題は無いと思う。どこまで効果があるのか…という点が気になるけど」
「効果は薄いかもしれないけど、デメリットもない。カグヤ様の力なら低コスト、ノーリスクで実行に移すことが出来る」
「的確に狙い打てば効果的だと思う。例えば…宇宙開発の予算が削減、というニュースに反対意見を大量に投入するとか」
「確かに、上手くチャンスを掴めば…」
「でも…そんな急激にアカウントや登録者数が増えたら、運営に不正なアカウントだと判断されて消されるかも」
「それを避ける為には…少しずつアカウントを増やしていく必要がある…そのあたりの調整には気を使わないとね」
「気を付けるのはその点くらいじゃないかな」
全員の反応が上々であることを確認して、隼人は話を進めた。
「それじゃプランAは採用とする。これは俺とカグヤでそのまま実行できるから運用について話し合う必要はない……次のプランBに進むぞ」
全員がレジュメを捲った。
「ロケットの小説をネットで公開する。作品のあらすじは…宇宙から来た妖精を月へ帰すために学生たちがロケットを飛ばす……まあ今の俺達の状況を流用した形になるな」
色々考えたが隼人にはこの話しか思い浮かばなかった。
「そしてプランAと組み合わせる。投稿した作品に操った人間のアカウントでブクマとポイントを入れる。いわば自演だな」
他者を操って投票させるとはいえ、自作自演であることは確かだ。
「そうやって自演して人気を伸ばせば……書籍化して…そのまま…漫画化、アニメ化、映画化って狙えるんじゃないかと思ったんだ。そうして作品を広めることで……ロケットに対する国民の関心度を上げる。世論が宇宙開発を推進するような流れに持っていくんだ」
反応は芳しくなかった。プランBの説明になった途端、全員の顔が一気に曇り始めたので隼人も既に察していた。
本気で考えているが故に安易に賛成せず、冷徹に意見を述べる。
「私からいい?」
文芸部の代表、梅沢晴菜が立ち上がった。
「結論から言うと…極めて困難。いくら自演してポイントを稼いだとしても…書籍化まではいけると思うけど、その後が厳しいと思う。ロケットという題材に課題が多すぎる」
彼女の目つきが鋭くなった。
「一つ目。最近の流行からかけ離れている。今の主流は異世界を舞台にしたファンタジーが流行っている。そしてスキルとかランクとかわかりやすい表現で伝えている」
隼人が雫に貰った本もまさにそんな内容だった。
「ハッキリ言ってロケットはそれと真逆。どうしても「技術面に関する専門的な説明」や「困難を乗り越える」といった不向きな要素だらけになる。人気は得難い」
「…ロケットという題材がNGなのか」
そこを否定されてはどうにもならない、と思った隼人だが批評は続く。
「小説投稿サイトで人気を得るには面白さとは別の要素が必要。ちゃんとニーズを読まないと」
「一流のピアニストが高名な曲を演奏した動画よりも…胸の大きい女性が水着姿で話題のアニメの曲をピアノで演奏した動画の方が再生数ははるかに高い…これは動画サイトの視聴者層を考えれば当然の現象……一流の曲を求めている視聴者と、手早く刺激を得られる動画を求める視聴者のどちらが多いか…」
「それに…ロケットものである以上、技術的な説明をするシーンが必要だけど、どういうのも「テンポが悪い」「難解だ」「説明で尺を稼いでいる」とかどうしても否定的な意見が届きがちだし」
他の文芸部員からも賛同のコメントが続く。
「そう…いくら内容が面白くても、小難しいロケットの話なんてそもそも読む人がいないのよ。ただわかりやすくて、読んでも疲れないくらいに軽くて、刺激を提供する作品が求められるの」
「いくら腕のいい釣り師でも、魚が居ない池では釣れません」
次々と噴き出る問題点。隼人に反論は浮かばない。だが彼女の批評は続く。
「他にも…大きな問題がある…ロケットが題材の作品である以上、打ち上げのシーンを描くのは必然。でも一度打ち上げたら、その後はどうするの?」
「その後って…ロケットの打ち上げが一番の見せ場…そこはラストシーンで後はエピローグじゃだめなのか」
「…仮に書籍化したとして…1巻のラストに?だとしたら続きはどうするの?2巻では何を描くの?」
「…1巻の後は……次のロケットを打ち上げるとか…ああでもカグヤが居ないのに何を打ち上げるのかってなるな…」
全く考えて無かった点を指摘されて隼人は全く反論できない。
「やはりそこね…尺の調整ができないっていうのも大きな問題」
「いくら面白くても1巻で終わってしまう作品ではヒット作として弱い。人気がある限りは続けて…人気が無くなったら打ち切る。それが今のパターン」
「ネットでは「単巻完結する名作ラノベまとめ」みたいなのがありますけど、それに掲載されたところでどうなのって話ですし」
「作家や出版社にとっては作品が継続した方が得。本当に人気がなくなってから打ち切ればいいだけの話ですし…やたら引き延ばされて設定やパワーバランスが破綻した作品なんて数知れず…円満に最終回を迎えた作品の方が少ないくらいですよ」
「バトルものだったら別の敵を登場させて戦わせ続ければいいし…ラブコメだったら別のヒロインを登場させるとか…Ifルートって形でそれぞれのヒロインとくっつくエンドを描くとか…色々と方法があるけど…ロケットじゃその点がネックになる…」
漫画研究会の生徒が口々にコメントする。
「あのロケットのドラマも続編だと何故か農作業機械にシフトしていたような…やっぱり次のロケットを打ち上げるのは無理だったからなのかも」
「あ…あれか」
演劇部から出た台詞に隼人はハッとした。そのドラマは隼人も視聴した。視聴したのにもかかわらず、この問題を見過ごしていたというのはやはり隼人の考えは浅かったと言うしかない。
「それに…仮に書籍化して挿絵や表紙を描く絵師の人の気持ちを考えてください。絵師さんが「人気が出れば続きが出る」と考えれば絵もキャラデザも気合を入れて作るでしょう。でも「どうせ続きは出ないんだから」と思ったら手を抜いた絵を書きますよ」
「その意見はちょっと言いすぎじゃない?たとえ1枚の絵でも絵師は魂を込めて描くわ。手抜きする絵師って噂になったら自分の首を絞めるし」
漫画研究会の意見に対して美術部から反論意見が出る。
「そうかしら?私はあるラノベの表紙で露骨に手を抜いた…というか過去作のキャラをちょっと弄っただけで使いまわした絵師を一人知っているけど」
「その話はそこまで。話を元に戻しましょう」
雫がすぐに止めに入った。
「あ…そういえば…書籍化で思い出したけど…もっと重大な問題があると思う。最初に言ったことを憶えている?書籍化まではいけるけど、その後が続かないって」
そして晴菜が再び口を開く。
「最大の問題点は…今はメディアミックスの時代ということ。人気がある小説はまず漫画化、そしてアニメ化、逆に漫画やアニメを小説にするっていうのが定番」
それを聞いて隼人は雫に勧められたラノベの帯に「コミカライズ連載中!アニメ化決定!」と大きな文字が書いてあったことを思い出した。
「そしてメディアミックスという観点ではロケットは致命的に向いていない。小説なら文字で表現できるけど…漫画やアニメなら絵でロケットを描かなければならない…それがどれだけ難しいことが想像できる?」
美術部の生徒がこの意見に同意する。
「ロケットなんて描くのが大変。科学的な考証という面も含めて大きな負担となる。変な作画をしたらネットでネタにされますよ」
「小説の挿絵なら空に伸びていく煙と光の点になったロケット、って感じで誤魔化せなくもないですが…マンガじゃそれも出来ない。アニメではなおさら」
「まだスペースコロニーとか、起動エレベータとか、月面の都市とか、ずっと先のガジェットならどうにか誤魔化せるけど、身近なロケットとなると厳しいですね」
「あ…私たちもそれはあるかも」
今まで発言の機会が無かった天文部が口を開いた。
「天文ファンとしてはそういうミスは気になるかな。無重力空間で銃を撃ったのに普通に薬莢が床に落ちる描写は思わず突っ込んじゃった」
「大人げないとわかっていても…オタクは突っ込みたくなるものよ」
「野球とか軍隊とかでもそういうのはあるあるっていうか…」
漫画研究会が口を挟んでまた脱線しそうになったが、雫が視線を向けたことで口を閉じた。
「話を戻すけど、さっき話した異世界ファンタジーなら漫画化やアニメ化の敷居が低い。背景は中世ヨーロッパっぽい感じでOKだし、中には町の鳥観図とかモンスターのデザインとかを使いまわしている作品もあるくらい」
「ついでに言うと…ファンタジー作品なら海外でのヒットも狙える。世界観が伝わりやすいの。これが学園モノだと日本の高校と海外の高校じゃ全然違うから、その点で不利になる」
映研部からも意見が飛ぶ。
「何よりメディアミックスは最大の宣伝。アニメ化されれば5倍や10倍以上に原作の売り上げが伸びるの。ヒット作になる為にメディアミックスは避けて通れない道」
『……お前が考えたプランB、ガタガタではないか。やはりこういった他の者の意見を聞く場を設けたのは正解だった』
厳しい意見に晒される隼人に対してカグヤが念話を送った。
「…考えが浅かったよ。特にメディアミックスについて全然考えてなかった…」
隼人の口から出たのは苦し紛れの言葉だった。厳しい意見がくるとは予想していたが、少しも反論できない自分が情けなくなった。所詮は素人の思い付きだ。
「そりゃ出版社も商売ですからね…メディアミックスを前提にしています。とある小説応募企画では「商品化という点を意識した作品を投稿して欲しい」と選考者がコメントしたケースがありました…ある編集者は「ラノベは漫画やアニメの原作だ」とか「ラノベはキャラを紹介する為のPV。そこからアニメや漫画に派生する」とSNSではっきり言ってましたし」
「他にも…「大賞を受賞した作品はコミカライズを確約」という特典を設けた小説応募企画もありますが……それって実質的に叙述トリック禁止という条件でもありますよね。主人公と犯人が実は同一人物とか、そういう絵で表現することが不可能な内容の作品を選考者が大賞に選ばれる訳ないですし」
「…そういえば…実写化したせいで、その手の叙述トリックが台無しになったと批判された作品もあったような…アニメではかろうじて誤魔化していたけど…」
雑談が始まろうとしたとき、一人の声が割って入った。
「ここで私からいい?隼人君の案をフォローしたいんだけど、ロケットが有利に働く点もいくつかあると思う」
雫の声だった。
「作品を売るためには釣り針が…フックが必要。さきほど異世界ファンタジーが主流という意見が上がったけど…これを見て」
雫はパソコンを操作してスクリーンに書店の在庫検索ページを開いた。
「このページで…「異世界」で検索すると1000件以上…「異世界、奴隷」とか「異世界 学園」とかある程度絞って検索しても数百件くらい出てくるの。主流に乗ると…それはそれで目立たなくなってしまう」
画面をスクロールしながら雫は続けた。
「そんなコピーを重ねた…似たような作品がひしめく中で目立つため…読者をひっかける為の工夫…それがフック」
新たなページを開く。そこには今月発売のラノベが並んでいた。
「例えば長い説明的なタイトルをつけたり、大きな胸の女性が露出度高い服を着て、胸を強調したポーズと取ったイラストが表紙にしたりとか…」
小さなサムネ画像でも、そういうイラストであることは判断できる。
「そして…ロケットというワードなら十分フックになる。検索してみると10数件。ほとんど科学史で…ラノベは10件未満…一般小説もそんなに多くないから…目立つ…」
ロケットに関連する難しそうな本の中に並ぶラノベは確かに浮いている。言い換えれば目立っている。
「たとえば…前にラグビーが話題になった際に、うちの書店ではラグビーに関連する本を並べた特設コーナーを設置していたの。その棚にはラグビーを題材にした漫画や小説も並べていたの。ラグビーブームがすぐに終わったから撤収も早かったけど…これをロケットに置き換えることも可能でしょう」
「…ロケットがドラマとか映画で話題になった際に、ロケットの小説がその特設コーナーに並ぶってことか」
「ええ。それが契機となって売り上げが急に伸びて再販…なんてこともたまにある。そういうフックが引っかかって売れる、みたいなことが。サラリーマンがただ一人で食事するだけの漫画とかもその類だと思う」
隼人はその作品の事を知らなかったが、漫画研究部は知っているらしく頷いた。
「確かに近年でもそういうオリジナリティがある作品がヒットした例もある。「南極」とか「競走馬」とか「キャンプ」とか「ライフル射撃」とか「将棋」とか。そういう他とは違うフックがあれば勝負になる…けど…」
語気が弱まっていく。
「まあ……今までに挙げた難点を巻き返せるほどの武器にはならないとは思う…要はロケットは悪くないけど、他にも武器は必要ってこと」
雫が最後に付け加えた。あくまでもフォローで論破ではない。
「…聞きますけど、隼人君はそんなにアニメや漫画に詳しくないですよね」
文芸部の一人から声が上がる。
「そ、そうだけど」
中学校まではフィギュアスケート漬け。高校に入ってからは勉強漬けだった。
一週間前に雫から勧められたラノベを読んで、動画投稿サイトで無料配信されていたアニメ版の第1話を視聴しただけだ。
「私たちだってプロではありません。多少知識があるだけで素人に毛が生えた程度です。そんな私たちにすら指摘できるわかりやすい問題に…自分では気づいてなかったのでしょう?」
「そうだな…知識不足は認める…でも、今の業界ってそんな制作側の都合が透けて見えるような作品ばかりなのか」
隼人はその点は一番気になっていた。面白いだけじゃなく、そこまで配慮しなければならないのか、という点だ。
「そりゃあ読者が求めている需要もそうですが…出版社が求めている需要も考えないといけないでしょう」
「出版不況の昨今、稼げそうにない作品に水をやる余裕はないです。誰だって育てるなら金の成る木がいいに決まっています。今は稼げる作品が求められているんです。ネット配信が普及した今では円盤の売り上げも伸び悩んでいて…グッズとかフィギュアとかで稼いでようやく採算がとれるという苦境…」
「…そもそも鵜が先か卵が先かって問題でもある…出版社はアニメ化出来て稼げる作品を求めているけど……自分の作品がアニメ化されることを期待して、アニメ化しやすい作品を執筆している作者も多いと思います」
「まあどうせ書くなら金になる作品ってことです。クリエイターだって趣味でやっている訳じゃないですし」
美術部、映研部、漫画研究会がそれぞれ返答する。
「あくまでも私個人の意見ですが……最初からメディアミックスを意識していた弊害として…聾唖なのでテレパシーで会話する能力者とか、隻腕とか、ハーフサイダーとか、そういうアニメ化した際に色々と面倒なキャラを見なくなった、と思っています」
「決してロケットが駄目と言う訳ではありません。誰もが自分の都合を優先して…自分が得をする方を考える…その結果、こうなったというだけのことです」
(……宇宙開発と少し似ているな…結局は自分の都合…ってことか……そりゃあそうだよな…俺だって…目の前の欲に勝てていないし)
部屋を見渡しながら隼人は心中で呟いた。
普通に考えれば男子もこの場に居た方がより豊富な意見が出るはずなのだがあえて呼ばなかった。
その理由はあられもない姿となった彼女達を独り占めしたいという隼人のわがままに他ならない。
一応カグヤも「男をこの格好にしてもつまらない」と女子だけを集めることには反対はしなかったのだが。
「本の一番最後のページには…新たな才能の開花だとか…教養を広めるとか…文化の発展だとか…文章の復権だとか…色々難しい文章が載っていますが…出版社の本音は金ですよ。業績が悪ければ会社は潰れる訳ですし」
「私は公共の利益のために、破滅することも受け入れる…そんなことが出来る人間なんて滅多に居ません」
「探偵ホームズの台詞だっけ。それ」
「そのホームズも読者からの人気があり過ぎたから死んだはずなのに「実は生きていた」って後付け設定をつけて連載を再開したんだっけ」
「作者のコナン・ドイルもファンから「続き書かないと殺すぞ」って手紙が来て、自分の母親からも「続きは書かないのか」と言われて、嫌々執筆したとか」
隼人が黙ったことで雑談を始める女子達。
そんな場の空気を一変させる声があがった。
「私はいいプランだと思うけど。間違いなくアニメ化までイケると思う」
口を開いたのは報道部代表の野村佳奈子。
今まで黙って会議を冷めた目で見ていた彼女が口を開いた。
「どういうことなんだ」
隼人の問いかけを受けて佳奈子は立ちあがった。
「みんな…重要なことを忘れていない?カグヤ様の力を使えばネットでいくらでも工作が出来るんでしょう。だったら簡単よ。自演で点数を入れまくる。SNSで宣伝しまくる。それだけで書籍化確定。漫画化もアニメ化もすぐよ」
今までの話を根底から覆すような発言に場が混乱する。
「ラノベが売れる為に一番大きな要素は何か…それは宣伝。たとえ面白くなくても、主流じゃなくても、宣伝されまくれば売れるのよ」
そう言いながら立ち上がってパソコンへと元へと歩いてきた。
「論より証拠よ。このブログ…ちょっと見てくれる?」
彼女はパソコンを操作してあるページを開いた。
「自作を宣伝しまくるラノベ作家に言いたいこと。批評を許さないラノベ作家に言いたいこと…?」
隼人はブログの記事の題名を呟いた。
「このブログの記事は私が書いたの。今日の会議で使えると思って。ちょっと見てくれる?」
全員が読めるように少しずつスクロールしていく。
「なんかわかりにくい…というか散らかった文章ですね」
「それも狙いの一つ。突っ込みどころがあった方が話題になりやすいし…文体もわざと馬鹿っぽくすれば「こいつ馬鹿だからマウント取れる」と思った人がガンガン反論してくるし」
「主張しているのは……「宣伝ばかりしてないで作品の質で勝負しろ…」「自由に批評させろ」という二点…」
まとまりのない文章を雫が要約する。
「そうよ。このブログには多くの人が反応している。閲覧数は25000を超えて高評価は140ってとこ。この記事にはプロの作家や編集者が10人以上反応している。反応しちゃったあたり、痛いところを突かれたみたいね」
次に佳奈子はブログに対する反応をまとめたサイトを開いた。
「ほんとだ…あの先生まで…」
「あの作品の作者が…嘘…」
隼人は分からなかったが、文芸部や美術部、雫は名前をみて驚いている。書籍化やアニメ化の実績を持つ有名な作家も含まれるらしい。
「『内容が良くても宣伝が下手だと売れない』…『宣伝して消費者の目に届かなければ内容や評価がどうこうという話ではない。存在しないのと一緒』とか、否定的な意見が多いでしょ。少数だけど『クソな作品でも宣伝次第では売れるのがメディアの世界』という意見も届いている」
確かにそのような意見が目に付く。見れば一発だ。
「9割以上は否定的な意見。言い換えればこのブログに対する反応がラノベにおいて宣伝が重要であることの証明ってことにならない?」
反論できるものは居なかった。プロの意見をこのような形で出されてしまっては答えようがない。
「これがラノベ業界の現実…みんなよく見て」
全員がスクリーンを注視して集まった意見に感想を述べる。
「それにしても口が悪い人が多いですね……寝言は寝て言えとか…馬鹿とか…幼稚園児並みの思考とか…ハゲとか…」
「ハゲは悪口じゃなくてラーメンハゲのことを言っているんじゃ?」
「ラーメンハゲ?なんですかそれ」
「そういう漫画があるの。ラーメンを題材にした漫画に出てくる「品質が良ければ売れるとは限らない。大切なのはプロモーションだ」みたいにアドバイスするキャラ。このキャラだけが主人公を差し置いて有名になって…今ではネットミームになっているの」
「へえ…」
「このブログを書いている時点で絶対このハゲが出てくるなって思っていたけど。本当にワラワラ出てきて吹いちゃった」
「私もこの記事を読んでいる途中で思い浮かべたかな」
漫画研究会からコメントが飛ぶ。
「…この話題に便乗して自作を宣伝している作家も居ますね」
自作の表紙の画像を載せて「発売中です」告知すると挑発するかのようなコメントも見られた。
「これが奴らのやり方よ。手段を選ばずに宣伝する…私たちも同じ手を使うの。どんな手段を使ってでも宣伝すれば勝ちよ」
佳奈子が皮肉交じりの笑みを浮かべた。
「中には肯定的な意見もありますけど。「レビューを探しているのに作者の宣伝ばかり出てくるのは確かにウザい」とか「過剰な宣伝を不快に思う気持ちはわかる」とか…」
「でも閲覧数が2万5000を超えてて高評価が100ってことは比率で言ったら99%以上が否定的な意見ってことにならない?届いたコメントも否定的な意見の方が多いし…」
「そうよ。これでわかったでしょう。ラノベの世界でどれだけ宣伝が重要か。どんな手を使ってでも宣伝すればそれでアドバンテージが取れる」
佳奈子がパソコンから離れて室内を見渡した。
「そして数百万というアカウントを操ることが出来る私たちはとてつもない宣伝力を持っているということ。勝ったも同然よ」
カグヤの方に手を向ける。こちらには神が居る、と言わんばかりに。
「でも…メディアミックスの壁はどうするんだ?」
隼人が質問した。
「それも大した問題とは思えない。確かにロケットは描くのが難しい。でも漫画化やアニメ化が不可能という訳じゃない。下手な漫画家や質の悪い制作会社を引いた結果、パースが狂った変なロケットがチープなエフェクトで打ちあがって、ギャグみたいな絵面になるかもしれない」
一呼吸おいて続けた。
「仮にそうなったらなったで、炎上させればいいんじゃない。ブログの後半に書いていた「批評は自由」っていう意見にはあまり反対意見は来ていないでしょう?」
「え…それは…」
「仮に良アニメになったらそれでよし。ダメなアニメになったらとにかく批評しまくって炎上させることで話題を呼ぶ。どっちに転んでもロケットの知名度を広げることは出来るんじゃないかしら。絵師たちが「#私はロケットを上手に描けます」とイラストを投稿しまくるみたいな流れを作ったりとか」
「そ、そんな…作品をなんだと思っているんですか!」
楓が立ち上がった。美術部の彼女には今の発言が許せなかったらしい。
「この場においてはロケットに対する関心度を挙げる為の道具。カグヤ様の願いを叶えることがこの会の目的でしょう?」
「う…」
目的を遂行する上では彼女の意見が正しい。楓は反論できなかった。
「ともかく、内容なんてどうでもいいの。ロケット小説として形になっていれば後はカグヤ様の力でどうにでもなる。大掛かりに宣伝されていればそれだけで大抵の人間は「面白い作品だな」と思い込んでしまう。自分で判断できないから」
「そ、そんな言い方は無いでしょう!」
どうでもいい、という言葉に来るものがあったのか、今度は文芸部の晴菜が立ち上がった。
「…確かにさっきのブログの通り、宣伝は大事ですが…だからと言って作品には面白さも必要でしょう!」
「その面白さの基準はどこにあるの?編集部イチオシ!このラノベが面白い!と宣伝していた割にはそんなにヒットしなかった作品だってあるでしょ。帯に「○○先生絶賛!」とか書いてあっても全然面白くない作品だってある。人の評価も絶対じゃない。面白さは多数決で決まる。多数票を得るには宣伝が必要だし、宣伝によって多数票が得られる。中身が介入する余地はどこにあるの」
「そんな理屈はクリエイターに対する…」
「ちょっと待った!ヒートアップし過ぎた。いったん落ち着いて!」
増していく声量と強まる語気に気圧されていた隼人だが、これ以上はマズいと判断して止めに入った。
「………」
立ち上がった楓と晴菜はゆっくりと着席した。理由はどうあれ話し合いの場では感情的になってはならないと思ったのか、少し苦い顔をしている。
「…プランBは新たに制作班を作って話し合いの場を設けるから…ここはプランCの説明に移らせてくれ」
収拾がつかなくなってきたので隼人は会議の場を強引に収めた。
「…私は戻っていいってことでしょ」
佳奈子はそう言って席に戻った。
「………それじゃ…プランCについて。レジュメを開いてくれ」
ピリっとした空気の中で隼人は説明を始めた。
「プランCはバーチャルアイドルによる広報。ロケットをはじめとする宇宙技術について解説するバーチャルアイドルを作ろうと思う」
資料には見本となる技術解説系バーチャルアイドルのスクショが掲載されている。
「これもプランAを応用する。チャンネル登録者数や再生数を工作して稼ぐ。これはどうだろうか」
先ほどのピリつきを引きずっているのか、全員の反応は鈍かったが、やがて口を開き始める。
「これは賛成かな。こういう解説系の動画は一定の人気を保っているし」
「こういうアイドル系はゲーム実況やカラオケ配信をやっている例が多い…逆に技術解説系は目立てるんじゃないかな。さっきの話で出たフックみたいな感じで」
「でも…小説と違って書けばいいってものでもないけど…この中に動画撮影とか編集とか、3Dモデルとかに詳しい人っている?」
雫の発言に全員が顔を見合わせる。誰も居ないのは明らかだ。
「最近は敷居も低くなってきて…スマートフォンさえあれば出来るとは聞きましたが…」
「あれは事務所のバックアップがあってこその話じゃ…どのみち…クオリティを追求するなら…3Dデザインに動画編集に詳しい人材が必要だと思うけど…」
懸念点について論じる中、意外な人物が口を開いた。
「…私が演じるのでは駄目か?」
そう言ったのはカグヤだった。全員の視線が一気に集中する。
「私ならば撮影機材も必要ない…パソコンさえあれば直接データを作成できる。レジュメを作ったようにな」
カグヤが指を振る。するとパソコンの画面が切り替わった。カグヤの姿がバーチャルアイドル風の3Dデザインとなって表示された。
プロジェクターに接続されているパソコンそのものを電波で操作して、データを作ったようだ。
「他に必要なのは…私が何を話すか……台本くらいだな」
そう言ったのは部屋にいるカグヤではなく、スクリーンに映ったカグヤだった。音はパソコンにつないだスピーカーから流れている。
「カグヤ様の美しさなら確かに…」
「でも、カグヤ様にそんなお手を煩わせるなんて…」
「その御姿を晒すのは畏れ多い気も…」
ざわめく女子生徒達。
(カグヤの言うことに従うという命令を送っただけなのに…なんか崇拝というか信仰というか…変な方向に行ってるような気がするな)
そう思いながら隼人はカグヤに念話を送った。
『本当にいいのかカグヤ』
『…構わん。私に出来ることならば私がやるべきだ。それに私のこの姿は本来のものではない。人間と接触する上では似たような姿に化けた方が拒否感を軽減できると思って設計したデザイン…いわば偽の姿だから晒したところで問題は無い』
その点は隼人も薄々と感づいていた。人間形態のカグヤは動けることには動けるが動作がぎこちない。無理して形を変えている…すなわち本当の姿ではないことは推測できる。
『ついでに言うと声は人気声優の声を5人ほどサンプリングして合成して作ったものだ。カグヤという名前も宇宙に戻るという私の目的をわかりやすく伝える為に名乗っている偽名に過ぎん』
『…どうりでいい声してると思ったよ。カグヤって名前の伏線は気づかなかったけど』
『…本当は胸も風船みたいにでかくした方がいいと思ったのだが…体のバランスがとれなかった為に断念して、あえて平にした。バーチャルアイドルとして動画出演する際は少し盛りたいところだが…お前はどう思う?』
『…普通程度ならありじゃないか?まあ真面目な解説動画で女性キャラの不必要に胸をでかくすると逆に反感を買う気もするから後で相談するとして……それじゃ会議を進めるぞ』
念話を打ち切って隼人は声を上げた。
「プランCもこれで決まりだ。カグヤをバーチャルアイドルとしてデビューさせる」
隼人はまとめに入った。
「プランに合わせて班を三つ作る。プランAはアカウント管理班」
「これは俺とカグヤで…」
「もう一人欲しいところだ。雫も加われ」
「は、はい!」
隼人が口を挟んだカグヤの方を見ようとした瞬間、念話が届いた。
『今日の会議でわかった。お前と私のコンビではまだ穴がある。もう一人加えんと安心できん』
『…そうだな』
少し不甲斐なさを感じながら隼人は会議を進めた。
「次はプランBの小説制作班…これはまた後でメンバーを決めて、小説を作ってもらう」
今この場で決めるのは良くないと判断して隼人は先送りにした。
「最後にプランC。動画制作班だが…これは天文部にそのままやって欲しい。実際に作るのは動画じゃなくてカグヤが話す内容…いわゆる台本だな」
「ええ。雑学はあり余ってるからみんなに布教したいし」
「解説動画を見てくれたらなんか私たちも嬉しいかな…」
「天文検定2級の実力の見せ所だ」
三人はかなりやる気になっている。
「よし。それじゃ今日はいったん解散だ。また明日会議を開く。何か案があるならその時に提案してくれ」
そう言って隼人は場を収めた。
そしてパソコンやら機材を片づけ始める。
だが、誰も動かない。隼人が不審に思って顔を向けると、
「…着替えるんだから早く出て」
少し顔を赤らめながら雫が言った。そして31人の鋭い視線が突き刺さる。
「す、すまない」
慌てて隼人はドアに向かった。
(そっか。あの格好が普通だと思っているだけだからな。俺の前で着替える訳ないか)
そう思いながらドアに手をかけた瞬間。
「…………」
佳奈子が視線をよこした。思わせぶりな目。
(…話があるってことか)
意図は隼人にも伝わった。
目線を送り返して隼人は外に出た。
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