ウオオオオアアアアアーーーーーーーッ!
上記一行で「全部」です。以下は余談。あるいは説明を試みようとして迷走する様。
すごい。かなりの爆弾、相当な劇物ですよこの作品。読み進めるのがこう、あの、純粋な毒物をストレートでグイグイ飲まされているようなもので、だって読んでいる間は実際に、ずっと心臓がバクバクしてましたもん。なんでだろう……いや「なんで」かは明白なのですけれど。
幸運にも現実にはこういうもの(こういう人、こういう状況)に遭遇したことのないはずの自分ですらこうなのですから、これ人によってはフラッシュバック起こすのではないかしら……? いやもう、凄まじい筆致でした。筆致っていうのかな。なんかこう、徹底した仕事ぶりというか、しっかり〝それ〟を浮き彫りにするその書き表し方が。
正直、内容に触れられる気がしません。だってまだ全然鼓動がおさまってない。ざっくりいうなら悪意そのものというか、「一応ギリギリ人間の形をしている邪悪そのもの」の一人称小説、みたいな感じです。
とにかく「すごい」、そう評価するのに一切のためらいが要らないというか、とにかく「すごい」ことだけは保証できます。ここまで徹底的に邪悪に振り切ったものが書ける、それだけでまず尋常じゃない。ただ不思議というかどうしてというか、いくらすごい作品だと言っても、それがどうしてここまで効くのかわからないんです。
主人公の造形。殊更に、極端に、明らかに嫌悪を感じるようチューニングされているため、ここまでくると逆に安心できそうなものなんですよ。だって本作はあくまでも創作、架空のお話でしかないわけですから。もちろん共感能力を介してこっちにダメージが来るのはよくあることなんですけど(共感性羞恥とか、あと痛みの描写なんかよくありますよね)、でもそれにしたってここまで来るもん? という。いや本当、なんでしょう。いま本当に変な汗まで出ていて、だからこれはおそらく、もしかして、自分の中に原因があるのかも。
このお話を読んでいる最中、主人公に対してただ『悪』としか思えず、なにより自分自身を彼の側——100%純粋な『弱者』で『聖者』で『被害者』の側に置いていたこと。この行為。この〝踏み絵〟を前にして、一切なんの迷いも疑問も持たず、自然に自分がやってしまっていたこと。自らを正義の側に置いて、現実には存在しない『許せない悪』に向かって、ただ怒りのままに「自分はこんなに傷ついたんだぞ」と拳を振り上げる行為。
いやまあ、一応はさすがに考えすぎっていうか、作中のそれは明らかに「ホラー」の根源として書かれてはいるんです。だからきっと、読み方そのものは間違ってない。つまり問題はその振れ幅というか、さすがにここまで冷静さを欠いてしまうのは、きっといろいろ気をつけたほうがいいかもしれないな、なんてことを思いました。一歩間違えば、いやすでにこの時点で、自分も彼女の鏡写し——同じホラーになっているのだと、そう判断するには十分すぎるくらいのやられっぷり。胸が痛い……肉体にダメージが出てきている……。
凶悪でした。もはや感想も何もなく、ただ感情的に心の中をぶちまけるしかなくなるくらいには。ていうか実際ほとんど自分自身のこと書いてますね(すみません)(でもこんな作品をぶつけてくるほうが悪い)。堂々と胸を張って「この作品に出会えてよかった」と言える、でも〝二度と出会いたくない〟物語でした。ひとりの人間を創作物でここまで追い込んだ記録として。