朝焼けに恋う

閑 ちひろ

朝焼けに恋う

小さな頃からこんな田舎、出てってやるってずっと思っていた。


電車なんて一時間に一本だし、雑誌だってすぐ買いに行けるような本屋も近所にない。あるのは田んぼと山と川と農家のトラクターと下世話な人たち。

誰かを好きになればご近所みんなに筒抜け。田舎には自由もなければプライバシーもないのだから最悪。

だから地元の幼馴染同士で結婚なんて死んでも嫌だ。


いささか捻くれた気持ちで見る故郷の友人の結婚式に出席した私は、いつもより酷く酔っぱらっていた。


「夕夏、ちょっと飲みすぎじゃない?」


隣に座る佐奈子が飽きれたように水を勧めてきたけれど、そのグラスに目を向けることもなくワイングラスをあおった。ワインといっても白だからジュースみたいなものだ。舌の奥で甘い香りが残る。


「だってこういう場じゃないとおしゃれなワイン飲めないでしょ。田舎のスーパーに置いてあるのは安いテーブルワインなんだから。そもそもこんな田舎じゃ誰がワインなんて飲むのよ。料理酒なんかにも使わないじゃん」

すると佐奈子は「田舎田舎って連呼しないでよ。そんな田舎に住む私に失礼じゃないの。すっかり都会人め」とむくれた。

「ごめんごめん」と、すねる佐奈子のご機嫌をとろうとした矢先、

「夕夏、佐奈子!新郎新婦と一緒に写真撮りにいこーよ!小学校メンバーで写ろ!」

別のテーブルから小学校からの面々が声をかけてきた。

私たちはとりあえず顔を見合わせて「行こっか」と席を立つ。


今日の主役の彰浩と唯奈とは子供のころからの幼馴染だ。


東京から新幹線で2時間、そこから更に電車で1時間。山ばかりに囲まれた盆地の田舎では、小学校から中学校まではクラスは1クラス。ゆえにほとんど同じメンバーで過ごしてきた。

高校卒業後は大学進学か地元で就職するかで完全に道が分かれる。

佐奈子は高校卒業後就職組で、地元のガス会社の事務をしながら主婦を頑張っている。

私は何が何でも地元を出ていきたかったので東京の大学を受けて、就職も東京で決めた。といっても大手通信会社の内勤事務なので、東京で暮らすには経済的にギリギリだ。

だから今回もわざわざ帰省して、ご祝儀を払ってヘアメイクのおしゃれをするにも正直出費としては手痛かった。っていうか、出席しないつもりでいた。

……けれど佐奈子からめちゃくちゃ鬼電はくるし、両親は「唯奈ちゃんのご両親にはうちの娘も出席するからって言っといたから!」なんてニコニコしながら電話してきたし……そんなこんなで出席せざるをえなかったのだ。

そして結婚式に出てきたら、地元メンバーと帰省メンバーのごった煮で噂話の嵐だ。


「みんな来てくれたんだ!嬉しい~!夕夏もわざわざ休みとって来てくれたんでしょ。本当にありがとう!」


高砂に座る唯奈は相変わらず色白で小柄で可愛かった。まるで鳥のひなのようにほわんと温かく、クラスの男子は必ず一回は唯奈のことを好きになっているほど。


「だって唯奈の結婚式でしょ。おまけに相手は彰浩だし。ガキ大将がまさか唯奈と結婚できるなんて思わないじゃん。本当なのか確かめにこようと思って」


そう茶化してあげると、隣に座る新郎の彰浩がアルコールで真っ赤にさせながら抗議してきた。

「お前の減らず口は相変わらずだな!唯奈が俺の嫁になってくれたのは俺がいい男の証拠だろ!」

小学校メンバーの女子たちはその声を聴いて大爆笑しながら「自分で言ってるし」「もし2人が喧嘩したら確実に彰浩が悪いってうちら思ってるから」と悪ノリする。


「まぁまぁ、そう彰浩をいじめてやんなって」


よく通る声で女子たちの加勢から彰浩を庇ったのは、秀太だった。

秀太は「とうとうこちら側へようこそ」と彰浩に笑いかけて片手に持ってきたワイングラスで乾杯をした。


「こちら側って何よ~まるで結婚が不憫みたいじゃない」

「いやいや、尻に敷かれる日々も幸せですけど?」

「秀太!ほんともっと女子たちに言ってくれ!俺悪い男じゃないよな!?」

「彰浩、お前はいい男だ。だけどな?本当にいい男は自分から他人にいい男だと同意を求めないものだぞ」

「お、お前~~~~!!!」

「あははは!嘘うそ!唯奈、お前でかしたな!彰浩は顔は全然かっこよくないけど青年団でも若手リーダーだし、ほんと幸せにしてくれる男だから見る目あるぞ!」

「やだぁ、秀ちゃん。あっくんの顔にかっこよさ求めてないよ~。優しいのは知ってるけど♡」

「お前ら何のフォローにもなってないけど!!??」


気の抜けたやりとりに一層大笑いをし、式場スタッフにカメラやスマホを預け何枚か写真を撮ってもらい、それぞれ席へ戻ろうとしたとき秀太が近づいてきた。


「夕夏、お前いつ帰ってきたんか」


秀太と会うのは成人式以来だから8年ぶりくらいだ。

秀太はいわゆる理系男子で、クラスではよく勉強もできた。運動は少し苦手みたいだったけど野球を見るのは好きだった記憶がある。よくポテチについてた野球カードをあげていた。

たしか高校は工業高校に進んで、隣町の自動車整備専門学校に進んだって成人式の時に話してた気がする。多分そこから彼は地元就職組になったんだろう。

ただ変わったのは、ずっと眼鏡だったけれど今はコンタクトを入れたのか眼鏡をかけてないということ。背もすらっと高くなって、ただのひょろひょろじゃないということ。

……そして左手の薬指には鈍色に光るものが嵌められているということ。


「いつっていうか、昨日の夕方。だけど明日の午後に帰る」

「東京で事務だっけ。結構大手なんだろ」

「1日休んだだけでも結構仕事溜まるから」


ヒールのまま立ち話が億劫で席に戻ると、何の躊躇もなく秀太は佐奈子の席へ座った。

「ちょっと、そこ佐奈子の席なんだけど」

「いや、みんなもう自由っしょ」

会場を見渡したところ、すっかり会場は無礼講となったのか佐奈子は全然違う席で飲んでいた。


「これ、お前んとこのおばさんに渡しといて。こないだうちの娘がお世話になったからそのお礼」


秀太がスーツの内ポケットからカードを出して渡してきた。私は受け取りまじまじとそれを眺める。


「何これ」

「新しくできたスーパー銭湯の回数券。っても5回分だけで悪いけど」

「いや、そうじゃなくて。っていうか別にうちのお母さんに気を使わなくていいよ。何したか知らんけど」

「うちの娘がさ、こないだスーパーにお使い行ったわけよ。まぁ、5歳だから初めてのお使いってやつ」


娘という言葉を口にしたとたん、秀太の口元が少しだけほころんだ。

私は、5歳なんだ。女の子なんだ。ふーん。と妙に白々しい気持ちになる。


「娘がカレー用の肉を買おうとしたときに何の種類か分からなくて、たまたま買い物にきてたおばさんが色々と手助けしてくれたみたいなんだよ。帰り道も娘と色々話しながら送ってくれたみたいでさ。俺も仕事とかでなかなかお前んとこにお礼言いにいけなかったから、せめてこれ渡してくれると嬉しい」

「そうなんだ。そういうことなら渡しとくよ。」

「ありがとな。ほんとそれだけなんだけど。あ、そういやお前って結婚したんだっけ」

「それセクハラ。田舎ってホントそういうの躊躇なく口にするからほんとやだ。秀太パパも今のうちに改めないと娘が年頃になった時に嫌われるよ」


私の言葉に一瞬目を点にして、だけどすぐに「あ、そっか。なんか職場も男ばっかの車屋だから全然気にしてなかったわ。気を付けねーとだな」と弱ったように笑った。


「結婚はしてないけど、付き合ってる人はいるよ。っていうか、実はプロポーズされて、来年あたり結婚することになった」

「まじか!おめでとう!良かったな!」

「あんまり大きい声で言わないで。あくまで予定、なんだから」

「じゃあ住まいはずっと向こうか?」

「うん。彼氏の両親も東京の人だし、私の実家は妹夫婦が近くに住んでるからこっちには住まないと思う」

「そっか。……でも良かったな」

「え?」

「だってお前、小さい頃から『自分は絶対に東京に出てく!』って言い張ってたもんな。夢を叶えたってわけだ」


夢を叶えた。

夢って、こういうことを言うものなのかな?

改めて人からそう言われると、なんだか違うような気がしたけれど口に出すのは面倒くさい考えな気がしてやめた。


少し世間話をしたところで結婚式の司会者がマイクスタンドに立つのが目に入ったので、「そろそろ新婦の手紙じゃない?」と秀太に言ったそばから「ここで新婦よりご両親へ手紙の贈り物があります」と司会者の落ち着いた声が会場に響いた。会場のざわめきがだんだんと小さくなり、好き勝手歩いていたゲストたちもそろそろと席に戻り始める。


「じゃあ俺も席にそろそろ戻るわ。またな」

「うん」


席を立った秀太と入れ違いに戻ってきた佐奈子が秀太の背中をちらりと見て、私のほうをニヤニヤしながら振り返る。


「懐かしの?初恋に?火が付いた感じ~?どうするプレ花嫁~?あんたの結婚式に、扉バターン!って開けて『夕夏を奪いにきた!』とかあったらさ!」

「ばっかじゃないの。そもそも秀太は既婚者だしパパでしょ」

「あれ?あんた聞いてないの?」

「何がよ」

「……秀太と奥さん、半年前にダメになってるよ。ってまだ離婚届出してないっぽいけど。……大きい声じゃ言えないけど、奥さんのほうが男作って出てった」

「はぁ!?子供置いて!?」

「シ────ッ!声でかい!」

佐奈子は慌てて私の口を手でふさいだ。注意深くまわりを見渡してからこっそり耳打ちした。


「まぁ、秀太ん家は同居だったし、奥さんは4歳下だったから19で結婚・同居・出産でしょ。なんかそれが嫌になったみたい。しかもだよ?高速インターの下がラブホ街じゃん。目撃談そこなんだよね。地元の人が何人も見かけたってオチのがキモいけど」

「それ、秀太の娘さんの耳に絶対に入ってないよね」

「それは大丈夫!そこまで下世話じゃないよ。みんな小春ちゃんのことは気にかけてるけど、大きくなった時が心配。こんな狭いとこじゃ絶対知っちゃう時がくるからさ」



……──娘の名前、小春ちゃんって言うんだ。


なんか、私と同じように季節の名前が入ってるんだと思ったら、ちょっと複雑な気もした。もちろん秀太とは何にもないし、ただの偶然だろうけど。

そして、ほんの短時間、地元に帰ってきただけなのに知りたくもない事を無理やり知らされる事はやっぱり居心地が悪いと思った。


ほどなくして新婦から両親へ贈る手紙がはじまり、涙で声を詰まらせながら手紙を読み上げる唯奈にたくさんのフラッシュが焚かれた。最後に彰浩の挨拶は男泣きに終わり、結婚式は盛大にお開きになった。

もちろん二次会にも誘われたけど、明日帰るのにこれ以上お酒を残したくなかったから真っ直ぐ帰ることにした。


お母さんに秀太からの預かり物を渡すと「別に良かったのに!」と申し訳なさそうだった。秀太の事情を話したところでお母さんの話も止まらないのは分かっていた私は敢えて何も言わないし、事情をとっくに知っていると思ったのかお母さんからも特に何も言われなかったので、面倒くさい話にならないうちに私はお風呂場へと逃げた。


とりあえずこのガチガチにセットされた髪の毛や化粧を早く洗い流してしまいたかった。






翌朝、やけに早く目が覚めた。

きっといつも寝ている布団とは違うからだろう。


私の部屋はすっかり物置になってるし、客間に出された客用布団は暖かいはずなのに、肌触りが慣れないせいか深くも眠れなかった。

薄目を開けると、障子からさす光のせいで天井がうすら明るい。

二度寝しようと思い布団をかぶったけれど、一度光を感じたら頭が冴えてしまったらしい。眠気は残念ながらくる気配がなかったので、仕方なしに起きることにした。


障子を開けて外を見ると、空は白みはじめるもまだ夜の名残が残っている。

黒い山の影の向こう側はほのかに赤く染まり始めていて、幻想的で綺麗だった。


私はもそもそと着替えを済ませ、最小限の物音で顔を洗って軽く化粧水をはたくと、そっと玄関を出た。

薄手のワンピースは当然ながら朝には少し寒い。だけど日中は十分すぎるくらい温かいし、東京のほうが気温が高いから余計な上着なんか持ってきていなかったのだからしょうがない。

腕を少しさすったら温度が上がっていくらかましになった気がした。


向かう先は、家のわりと近くにある河川敷。

数年前に舗装された遊歩道の土手沿いを歩く。


普段なら絶対にこんなことしないけど、あの景色を見た瞬間、むしょうに散歩をしたくなったのだ。

朝日が昇ることによって変化していく空と、影の色も変わる山並み。

絶え間なく流れる川がキラキラ光っていく様子をどうしても目に焼き付けたくなった。

だってどれも私が暮らす街にはないものだから。


田舎は確かに退屈で嫌いだけれど、その景色が美しくないなんて思ったことは一度だってなかった。


見上げると綿を細くちぎったような雲が浮かんでいて、その縁は朝日のせいで朱色がかった金色に光っていた。

朝焼けの綺麗さに思わず口から言葉にならない息が漏れる。



「あれ?夕夏?お前なんでこんな時間にひとりでいるんだよ」


突然、聞こえた声に振り向くと、驚くことにそこには秀太がいた。

昨日とは違って眼鏡姿だった。服だってヨレヨレの白いカットソーにデニムで、足元なんか今時つっかけサンダルだ。全然かっこよくない。昨日少しでもかっこいいなんて思った自分を呪った。

手には犬のリードを下げており、つながれた先には柴の入った雑種犬だろうか。まるでこんがりと焼いたトーストみたいな色だなぁと思った。

私を見ると、無邪気そうにくるんとした尻尾を左右に振りながら近づいてきた。


「おはよう。犬の散歩?」

「いかにも。お前は?」

「自分の散歩だよ。……なんか布団が慣れなかったのか、目が覚めちゃって」

「実家なのに?」

「実家だけど寝てる部屋は客間だし客用布団だし、かつての部屋には使われなくなったワンダーコアとかエアロバイクが占領してた」

「帰省あるあるじゃねーか」


秀太は犬の首輪からリードを離した。

よく躾けられているのか犬は河川敷へと真っ直ぐ駆けていき、散策したり水際で遊び始めた。

秀太は隣で朝日に向かって伸びをし「くぁ……」と少し眠たそうに欠伸をする。


「いつもこんなに朝早く散歩してんの?えらいね」

「夜は娘の寝かしつけで一緒に寝ちゃうからさ」

「小春ちゃん、って言うんだね。佐奈子から聞いたよ」


私は色んな事を知った意味も含めてそう言ったら、秀太は全部分かったのか「……そっか」と、穏やかにほほ笑んだ。



しばらく、二人並んで空の模様と秀太の犬を眺めていた。

私はなんだか懐かしい気持ちになっていた。



何も言わなくても秀太は居心地のいい男の子だった。


私が怒られたときや悲しい時、しばらく家に入りたくないときは決まってここの場所に座って川や空を眺めていた。

秀太はそれを知っていて、遊んだ帰りに通りかかった時や、犬の散歩のついでと称して何だかんだ付き合ってくれた。私が「もう帰る」って言いだすまで。

ポテチの野球カードもここであげたんだっけ。


カードを秀太にあげたらすごく喜んでくれたのが嬉しかったから、本当はちっとも興味がないのにわざわざ買ったことを思い出して、懐かしさについ笑みがこぼれた。


「なんだよ、急に笑って。気持ち悪りぃな」

「思い出し笑いしただけ」

「夕夏」

「なによ」

「幸せになれよ」



ふいのエールに秀太を見ると、秀太と目が合った。

そして秀太の輪郭の片側が強い赤色に染まったのを見て、ああ朝焼けだ、と朝日のほうへと向こうとした時、強い力で秀太に抱きしめられた。



時じゃなくて、息がとまるかと思った。


そもそも一瞬、何が起きたのか分からなかった。けれど、拒む気持ちは1ミリも頭によぎらなかった。

私は、されるがまま秀太の腕の中にいた。


「幸せになれよ」


「なんで今、なの」


「分かんね。てかお前体冷えすぎ」


くっつきあう胸。服越しに秀太の心臓が大きく脈打っているのが伝わる。

生きているんだ、と分かるくらいに、体が熱かった。


「聞きたいことがあるの」

「何?」

「小春って名前。偶然だろうけど」

「春生まれだからに決まってるじゃん」

「だよね」

「……でも、季節の名前が入ってんの可愛いなって、お前の名前で子供の頃から思ってたのは本当」

「言っておくけど私は絶対に、秀の字も太の字も入れる気なんかないから」


そう言うと秀太は「ぶはっ!お前本当に面白いな!」と爆笑して、体を離した。子供の頃から何一つ変わらない笑顔。

私の知ってる秀太だった。


「秀太は、結婚は幸せだった?」

「えー、それ聞いちゃう?」

「だって幸せになれよ、なんて幸せじゃなかったみたいだから」

「幸せだったに決まってんじゃん。じゃなきゃ小春にも会えなかったし。……向こうにはそう思ってもらえなかったけど」

「同居しなきゃよかったのに」

「まぁ、色々あったんすよ。これでも」

「……そっか。」


もう空はすっかり明るくなっていて、犬が退屈そうに秀太のところへ戻ってきて、慣れたようにリードを再びつけてもらうのを待っている。


「言われなくても、私は幸せになるよ」

「お前は昔から有言実行だからな」

「それに、私が彼を幸せにしてあげるんだから。そうして二人で幸せになってくんだから」


強気に言い放ったところで、強い光が私たちを照らした。

さっきまで燃えるように赤かった朝日はただの光になってあたりをつつんで、冷えた空気はだんだんと柔らかくなっていく。川はより一層強い輝きを放っていて、山の緑が目を覚ます気配がした。


「元気でな」

「秀太も」



さっきまでの抱き合った時間は幻だったんだろうかと、ふと思った。


だけど、幻でもいいような気がした。


だって私と秀太のゴールはそういうものじゃないって、分かったから。


私にとっての秀太は、秀太との思い出は、恋愛というゴールに当てはめた途端にきっと色褪せてしまう。

秀太とは恋にはならなかったけれど、だけど恋とは別にして自分にとっては大事な人だと思ったから。

つらい時も、楽しい時も、ほんの少しだけ心の隅っこにいる故郷の大事な幼馴染だと分かったから。


好きとか、愛とかの種類はひとつだけじゃない。


どこにいても、どれだけ時間がたっても、好きとか愛とかの次元では括れないような大切な人がいる。きっと、家族とかそういうもの。



秀太の左薬指には当然指輪があるままだ。

だけど、それをいつか素直に外せて、小春ちゃんの気持ちも何もかもを乗り越えて、どんな時にも秀太のすぐ傍で微笑んでくれる人がいつかちゃんと現れますように。


今よりもっともっと、秀太がこの先ずっと幸せに生きていけますようにと、私はただ素直に朝日に願った。




―了ー

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