1440話 罪人をかばい立てするというのか?

「な、なぁ……。もしかして、侍の奴らが……」


「しっ!」


 俺は流華を黙らせる。

 そして、じっと気配を探った。

 俺の研ぎ澄まされた感覚が、その気配をとらえる。


「……」


「あ、ああ……。やっぱり、オレは目を付けられているのか……?」


 流華が不安そうな声を出す。

 彼はすでに罪を償った。

 侍連中にリンチを受けた上、右手首まで失ったのだ。

 もう十分だろう。

 だが、それでも彼が完全に無罪放免になったとは限らない。

 侍や町民たちの中には、流華に悪感情を持っている者も少なくないはずだ。


「安心しろ」


「え?」


「俺がお前を守る。今度こそ、奴らに引き渡したりはしない」


「でも……」


「絶対だ。俺を信じろ」


 俺は流華の頭を撫でる。

 すると、彼は気持ち良さそうに目を細めた。

 ……よし、行こう。

 俺は覚悟を決めて、部屋の扉を開ける。

 するとそこには、やはりと言うべきか侍の姿があった。

 先日の侍集団のリーダー格だった男だな。


「何用だ?」


 俺は侍に問う。

 すると彼は、静かに答えた。


「そこのガキを引き渡してもらおう」


「なに?」


「そやつはスリの常習犯だ。貴殿も知っているだろう?」


「ああ、知っている」


 俺はうなずく。

 だが、流華は俺たちと行動を共にする仲間だ。

 引き渡すわけにはいかない。


「彼はもう罪を償った。切断された右手首は痛々しいほどだ。もう干渉しないでもらいたい」


「ほう。貴殿はそやつの肩を持つのか?」


 侍が俺に鋭い視線を向ける。

 彼は流華を指差しながら言った。


「確かに、そやつには罰を与えた。だが、まだ償いきれておらん。そやつは罪人だ」


「彼はすでに罪を贖っている。これ以上の罰は不要だ」


 俺は流華を抱き寄せる。

 流華は不安げな顔をしていた。

 そんな俺たちに、侍が言う。


「罪人をかばい立てするというのか?」


「これ以上の罰は不要だと言っているんだ。それとも何か? お前たちに、彼を罰する権限があるとでも言うのか?」


 俺は語気を強めて言う。

 侍の懸念も理解はできる。

 右手首を失ったとはいえ、流華はスリの常習犯だった少年だ。

 再犯を警戒するのは当然である。


 窃盗罪を含めた一部の犯罪は、再犯率が高いとされている。

 それには様々な要因が関係しているだろうが、その一つに『犯罪行為への心理的ハードルが下がる』というものがある。

 つまり、一度でも犯罪に関わってしまうと、その後も同じような行為をしやすくなる傾向があるのだ。

 名言風に言えば、『一度盗んだら”盗む”って選択肢が俺の生活に入り込むと思うんだ』といったところか。


 ともかく、侍の懸念にも一定程度の合理性はある。

 だが、それはそれとして、流華が罪を償ったことも事実。

 法的根拠のない追加の罰を、俺は認めるつもりはない。


「権限か」


「ああ、そうだ。お前には、追加の刑罰を執行する権限があるのか?」


「ある」


「……なに?」


 俺は眉をひそめる。

 ちょっと想定外だった。

 そんな俺を見据えて、侍は言葉を続ける。

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