1439話 子ども好き

「ふぅ……」


「お疲れ様です、高志様」


 紅葉がコップに入った水を差しだしてくる。

 俺はそれを受け取り、一気に飲み干した。


「うまい……。生き返るな」


「ふふ、高志様が事前に魔法で用意してくれていたお水ですからね。純度が違いますよ」


「そうだったな。だが、紅葉がコップに注いでくれると、格別にうまい気がする。ありがとう、紅葉」


「そ、そんな……。えへへ……」


 紅葉が嬉しそうにはにかむ。

 そんな俺たちを見て、流華が言った。


「なぁ、あんたは子ども好きなのか?」


「そうだ。俺は子ども好きだ」


 俺は即答する。

 子どもというのは素晴らしい。

 未来への無限の可能性を秘めている。

 それに、単純に可愛い。

 庇護欲をそそられる。

 まったく……子どもは最高だぜ!


「そ、そうか……」


 そんな俺を、流華は複雑な顔で見ている。

 何かおかしなことを言っただろうか?

 まぁいい。

 とにかく、これで今回の治療は終了だ。


「あんたがオレを同行させるのって……『そういうこと』なのか?」


「ん? ああ、『そういうこと』だな」


 さっきも説明した通りだ。

 部位欠損は、一度や二度の魔法で治すことはできない。

 継続的に治療していく必要があるのだ。

 そのため、彼には同行してもらう必要がある。


「……お、お手柔らかに頼むぜ……」


 流華が上目遣いで言う。

 そんな流華を、俺は改めて見つめた。

 彼は全体的にやや痩せ細っている。

 栄養不足だ。

 全身のアザは治ったものの、右手首はまだ欠損したまま。

 少しでも早く、万全の健康的な少年に戻してやらないと……。

 俺はそんな決意を固め、あえて厳しい言葉を口にする。


「甘ったれるな。厳しくいくぞ」


「ひぇっ!? き、厳しく!?」


「当然だ。俺は甘やかすつもりはない」


「……うぅ……」


 流華が涙目になる。

 我ながら、なかなかの鬼教官ぶりだ。


「でも、オレは初めてなんだ……」


「初めて? 誰だって最初は初めてだ。甘ったれる理由にはならない」


 部位欠損からの復活は、普通の治療ではない。

 当然、ほとんどの患者は初めての治療体験となる。

 多少の配慮は必要だろうが、なるべく早い完治を目指すならば適度な厳しさも必要だ。


「うぅ……。が、がんばるよ……」


「ああ、その意気だ。……とはいえ、今日の治療はもう終わり。このまま部屋でゆっくりと休もう」


 俺の言葉を聞いて、流華がほっと息を吐く。

 だが、すぐに彼は俺に言った。


「別の街には行かないのか?」


「いずれは移動するかもしれないが、まだいい。そこまで急いでいないからな」


「でもよ……。オレは元お尋ね者なんだ。街の連中から嫌われてる。あんたたちの迷惑をかけるかもしれねぇ」


「ふむ……」


 流華はすでに罰を受けた。

 スリの常習犯への刑罰として、右手首切断をされたのだ。

 かなり重い罰である。

 さらに、刑罰の一部によるものなのかは不明だが、全身にアザもあった。

 これ以上の罰は不要のように思える。


 だが、それはあくまで制度上の話だ。

 スリの被害にあった者からすれば、流華は憎き犯罪者。

 この街に滞在する限り、彼に対する風当たりが強いままな可能性はあるだろう。

 実際、この宿屋の息子は流華に文句を言っていた。


「そうだな……。早めの出発も視野に入れておこう。……ん?」


「あ……」


 俺は妙な気配を感じ、立ち上がる。

 少し遅れて、流華も立ち上がった。

 彼も感じ取ったらしい。

 スリの常習犯だけあって、気配察知の能力にも長けているようだ。


「ど、どうされましたか?」


「シッ!」


 俺は紅葉を手で制して、部屋の隅に移動する。

 これは……慎重な対応が必要になりそうだ。




-------------------------




【宣伝】


拙作の新たなコミカライズが始まりました!

「TS少女の猫耳ライフ」です!


出版社経由での商業コミカライズではなく、自主コミカライズとなります。

FANZAとDLsiteの全年齢枠です。

日本のヤンチャ少年が異世界に転移(転生)して美少女となり、チート装備で無双する感じです。

ぜひ読んでみてください!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る