1393話 リーゼロッテ純愛ルート 貴族
数か月後――
「ええっ!? り、リーゼロッテさんって、お貴族様なんですか!?」
俺は驚きの声を上げる。
現在、俺とリーゼロッテさんはラーグの街から出る馬車に乗っていた。
Bランクパーティの認定を受けた『蒼穹の担い手』は、次なる街へと旅立つことが決まったのだ。
依頼の段取りの関係で、この馬車に乗っているのは俺とリーゼロッテさんの二人のみ。
その道中で、リーゼロッテさんが貴族の娘だということを打ち明けられたのである。
「ええ、実はそうなのですわ」
リーゼロッテさんが言う。
リーゼロッテさんって、偉い人だったんだな……。
「ご、ごめんなさい! 俺、今まで失礼なことを……」
「お気になさらないで。わたくし、貴族の娘だからといって特別扱いされるのは嫌いですの。今まで通りに接して下さると嬉しいですわ」
「そ、そうですか……」
俺は安堵の息をつく。
どうやら、これまでどおりの関係でいられるようだ。
「しかしですよ? リーゼロッテさんが貴族なら、ひょっとして他のパーティメンバーの方々も貴族だったり……」
「いえ、違いますわ。まぁ、貴族とまったくの無関係ではありませんが……」
「無関係ではない……というのは……」
「彼らはわたくしの護衛騎士ですの。パーティリーダーのコーバッツが、筆頭護衛騎士ですわね」
「な、なるほど……」
俺は納得する。
貴族の私兵であれば、冒険者としても一流なのも納得だ。
「しかし……どうして俺に打ち明けようと思ったんです?」
俺は尋ねる。
隠したいことの一つや二つ、誰にでもあるだろう。
それをわざわざ教えてくれたのだ。
何か理由があるのだろうか?
「ふふっ……。実はわたくし、タカシさんのことが大好きなんですの。タカシさんが望むなら、わたくしはタカシさんの妻になってもよろしいと思いまして」
「えぇっ……!?」
俺は素っ頓狂な声を上げる。
このお姉さんはいきなり何を言い出すんだ!?
「り、リーゼロッテさん……。あなたは高貴な身分でしょう? 俺なんかと……」
「あら、身分差なんて気にしませんわ。わたくしは長女ですが、兄が二人いますし……。当主を継ぐことはありません。それに、わたくしが好きになったのは、他でもないあなたなんですもの」
リーゼロッテさんが言う。
俺はごくりと唾を飲み込んだ。
彼女の好意は本気らしい。
「ねぇ、タカシさん……。わたくしをお慕いくださいまして……?」
リーゼロッテさんが耳元で囁く。
彼女の甘い香りが、俺の鼻腔をくすぐった。
「え、えっと……その……」
俺は返答に詰まる。
そんな俺に対し、リーゼロッテさんは妖艶な笑みを浮かべた。
こんな笑みを見せられたら、俺が返せる答えなんて――
…………。
……いや、待て。
彼女の企みが分かったぞ。
「リーゼロッテさん、あのですね」
「はい?」
「よだれが垂れてますよ」
「あらあら、失礼しましたわ。タカシさんの創作料理を想像すると……思わず……。……じゅるり……」
リーゼロッテさんがよだれを拭う。
そう、彼女は食いしん坊なのだ。
俺は日本から来た転移者なので、この世界にはない料理の数々を披露していた。
特にマヨネーズが好評だったな。
「でも、料理だけが狙いではありません。わたくしからタカシさんへの愛は本物ですわ」
「しかしですね……」
「ねぇ、タカシさん……。わたくしと夫婦になりましょう? ラスターレイン伯爵家は継げませんが、分家としてなら貴族の地位を得ることができますわ。タカシさんの水魔法は一流ですし、誰にも文句は言わせません」
「えっと……。その、何というか……」
俺は返答に困る。
これはもう、逃げたほうがいいかもしれない。
そんな俺にリーゼロッテさんが顔を寄せてきた。
「お望みなら、わたくしの胸をいつでも触らせて差し上げますわよ?」
「そ、そんなことで俺は……」
「ご無理なさらないで。わたくし、気付いていますのよ? タカシさんがいつもわたくしの胸を見ていることに……」
「うっ!?」
俺は動揺する。
そんなの、バレていないと思っていたのに……。
「ふふっ、いいのです。好きなように見ていてくださいな」
リーゼロッテさんが胸を突き出すようにして言う。
「うぅ……」
俺は思わず胸を凝視してしまった。
ああ……メロンみたいだなぁ……。
俺はもう、ダメかもしれない……。
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