1392話 リーゼロッテ純愛ルート 蒼穹の担い手への加入

「しっかりして下さいまし!」


 女の人の声だ。

 誰だろうか?

 どこかで聞いたことがある声だな……。


「んちゅ……。んむ……」


 誰かの唇の感触が伝わってくる。

 何かの液体が流し込まれてきた。

 全身に感じていた痛みが和らいできたような感じがする。

 俺、死にかけていたのか……?


「ぷはっ……。これで大丈夫なはずですわ」


 女の人の声が聞こえる。

 やはり聞き覚えがある声だ。

 俺はゆっくりと目を開いた。


「俺は……何を……」


「記憶に混濁があるのですわね。でも、もう安心ですわ」


 俺を覗き込んでいる女の人がニッコリと笑う。

 とても綺麗な女性だ。

 年齢は20歳ぐらいだろうか?

 美しい青髪で、どこか神秘的な印象すら受ける。


「あなたは……リーゼロッテさん……?」


 俺はその人物の名前を呼ぶ。

 なぜ彼女がここに……?

 いや、そもそもここはどこだ?


「はい。『蒼穹の担い手』のリーゼロッテですわ。あなたは、クレイジーラビットの猛攻を受けてしまったのですわよ?」


「クレイジーラビット……?」


 俺は首を傾げる。

 だが、少しして思い出した。


 元無職の俺は、この世界に転移してきた。

 転移先は見晴らしのいい草原だったが、残念なことに遭難してしまう。

 俺は飲み水を確保するため、『ステータス操作』を利用して『水魔法』を取得。

 ついでに攻撃にも利用して、何とかラーグの街まで辿り着いた。


 街に到着した俺は、定番の冒険者ギルドに登録。

 水魔法のスキルを伸ばして頭角を現した頃、『蒼穹の担い手』というパーティから西の森への遠征に誘われる。

 だが、俺は魔物の知識が不十分で……。

 危険なクレイジーラビットに攻撃を加えてしまったのだったな。


「申し訳、ありません……」


 俺は謝罪する。

 そんな俺に、リーゼロッテさんは優しく笑いかけてくれた。


「気に病むことはありませんわ。タカシさんおかげで、狩りの効率がよくなっていますから」


「ですが……。俺の水魔法なんて、リーゼロッテさんに比べればまだまだで……。それに、俺がいなければポーションを無駄遣いせずに済んだはずです……」


「ふふっ、随分と謙虚ですのね。ポーションなんて、また買えばよろしいだけですわ」


 リーゼロッテさんが微笑する。

 この人には敵わないな……。

 美人で優しいお姉さんだ。

 いや、実年齢は俺の方が上だと思うが……。

 精神年齢は俺の方が下だし、やはりリーゼロッテさんがお姉さんで間違いない。


「ポーション代は必ずお支払いします」


「あら? そんなの気にしなくてよろしいですわよ?」


 リーゼロッテさんがクスクスと笑う。

 いや……そういうわけにはいかないだろう。


「ご迷惑でなければ、これからもパーティを組ませてください。俺の報酬から、ポーション代を天引きしてもらえれば……」


「それはありがたい申し出ですわ。でも……よろしいんですの? わたくしたちとしては大歓迎ですけれど……。タカシさんほどの才覚があれば、いずれもっと高待遇なパーティから声がかかるはずですわ」


「いえ、俺は……。『蒼穹の担い手』に残りたいんです」


 俺はそう答える。

 このパーティの人たちは、みんないい人だからな。

 俺みたいなやつでも受け入れてくれるし……。


「あら? お上手ですこと」


 リーゼロッテさんがクスクスと笑う。

 俺は本心から言っているんだがな……。


「では、これからもよろしくお願いいたしますわ」


 リーゼロッテさんが手を差し出す。


「ええ、こちらこそ。……うっ!?」


 俺は不意にめまいを覚える。

 先ほどのダメージがまだ残っていたか……。

 ふにっ。

 柔らかい感触が俺を包んだ。


「あらあら、しばらくは静養が必要ですわね。わたくしが野営地までエスコートして差し上げますわ」


 俺はリーゼロッテさんの豊満な体に包まれていた。

 彼女の体温が伝わってくる。

 リーゼロッテさんの温もり、いい匂い、柔らかい胸……。

 ああ……もうこのまま死んでもいいかも……。

 そんな多幸感を味わいながら、俺は意識を手放したのだった――

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