1357話 ミティ純愛ルート ガロル村へ

 俺がミティを購入し、鍛冶工房に弟子入りしてから、半年以上が経過した。

 奴隷商会からの借金は無事に完済した。

 鍛冶工房の親方からも、一人前と認められていることができた。

 行動に関する制約がなくなった俺たちは、さっそくラーグから遠出する。

 俺たちが向かったのは――


「ようやく着いたな。ここがガロル村か……」


 俺は眼前に広がる風景を観察する。

 草花に囲まれた長閑な村だった。

 住人はドワーフのみ。

 何を隠そう、この村こそがミティの故郷なのだ。


「ミティ、大丈夫か?」


「はい……。大丈夫だと思います……」


 彼女は不安そうだ。

 いや、これは不安というよりも恐怖だろうか?

 無理もないだろう。

 彼女はこの村で、奴隷として売られたのだから。


「辛かったら、俺が1人で行ってくるぞ?」


 この村を訪れたのは、俺とミティの結婚を彼女の両親に報告するためだ。

 法的に必要な行為ではなく、あくまで個人的にケジメをつけるだけである。

 2人揃って行く必要はない。


「いえ……大丈夫です」


 ミティは気丈に振舞っている。

 だが、彼女の表情から血の気が引いているのは明らかだ。


「遠慮せず、俺に任せてくれていいんだぞ?」


「大丈夫です。両親ともう一度話してみたい……。これは私の本心です」


「そうか……」


 彼女の目は真剣だ。

 普通、自分を奴隷として売った両親に会いたくなどないだろうが……。

 彼女の場合、経済的問題から売られた。

 別に、親子の愛情がなかったわけではない。

 むしろ、本当にギリギリのギリギリまで売却をためらっていたほどらしい。

 そんな経緯もあり、彼女は自分の両親に対して複雑な思いを抱えている。


「じゃあ、行こうか」


「はい……」




 ――結論から言うと、彼女の両親は良い人たちだった。

 奴隷として売ったはずの娘が帰ってきたことに動揺したり、その主人である俺に複雑そうな視線を向けてきたりはしたが……。

 最終的は俺の誠意が通じたらしい。

 俺とミティの結婚を喜んでくれた。


「よかったな、ミティ」


「はい……。ありがとうございます、タカシ様……」


 彼女は涙目だ。

 長年のわだかまりが解けたのだろう。


「これからどうする?」


「どう……とは?」


「この村に住むのもアリかと思ってさ。ほら、ご両親も鍛冶師だろ? 鍛冶工房もあるわけだし、武具売却のツテだってある」


 俺とミティは、これまでラーグの街に半年ほど住んでいた。

 寝泊まりしていたのは、弟子入りした鍛冶工房の一室である。

 節約のため、宿屋を利用したことはない。

 それに、外食やショッピングもほとんどしてこなかった。

 はっきり言って、ラーグの街にさほどの愛着はない。


「せっかくだから、ここでゆっくり暮らしてみるのも悪くないと思うんだけど……。どうかな?」


 俺はミティに提案する。

 彼女は目をぱちくりさせていた。


「私とタカシ様で……この村に住む……?」


「ああ。ミティのご両親も、それを望んでいるみたいだしさ」


「……そうですね」


 ミティは少しだけ考える。

 そして、決意したように言った。


「身に余るご配慮、ありがとうございます。タカシ様さえ良ければ……そうしたいです」


「よし……決まりだな!」


 こうして、俺とミティはガロル村への移住を決めたのだった。

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