1356話 ミティ純愛ルート -2

「あらよっと! いっちょう上がりだ!!」


「今日のノルマも……これで達成ですね! さすがはタカシ様です!!」


 俺たちはラーグの街にある工房で、せっせと働く。

 チートによって強化した俺たちの鍛冶技術は相当なものだ。

 この工房に弟子入りして3か月ほどが経過した今、俺たちはすっかり鍛冶師としての腕を認められていた。

 借金の返済も順調そのものである。


 火や金属を扱う鍛冶の仕事は思っていた以上に大変だったが……。

 さすがに冒険者よりはケガなどのリスクが低いし、この鍛冶師になるという選択は正解だったはずだ。

 魔物討伐などだけではなく鍛冶行為でも基礎レベルは上がり、得たポイントを消費してスキルを強化できる。

 鍛冶術を十分に伸ばしたら、『熱耐性』や『視力強化』のスキルを取得してみるのもアリだろう。


「これもミティのおかげだよ」


「いえ……そんな……」


 俺の称賛に、頬を赤らめるミティ。

 そんな彼女を俺は抱きしめる。


「あぅ……」


「この調子でいけば、借金の返済も夢じゃない! 頑張ろうな、ミティ」


「はい……」




 ――俺たちは幸せな日々を送っていく。

 そんなある日……。


「なんだ……? 外が騒がしいな」


「何かあったのでしょうか……?」


 俺は違和感を覚える。

 外が騒がしい。

 何か事件が起きているのかもしれない。

 俺とミティは工房から通りに出て、通行人の会話に聞き耳を立てる。

 そして、情報を得た。


「どうやら魔物が襲撃してきたらしいぞ。何とか討伐できたみたいだが……。心配だな……」


「そうですね……。被害も小さくないようです。料理屋を営む兎獣人の方が、ホワイトタイガーという魔物に殺されて……。とても気の毒です……」


 ミティが悲し気に目を伏せる。

 俺にはミティを購入したときの借金がある。

 身元が怪しい上、前金もない状態からの借金なのでとても金利が高い。

 少しでも節約するため、外食は一切しなかった。

 当然、その料理屋を営む兎獣人との面識もないのだが……。

 人が死んだという話を聞いて、何も感じないほど俺たちは冷血漢ではない。


「少し前には、ゾルフ砦という場所でオーガたちとの戦争もあったしな……。あれも、かなりの被害が出たと聞いている」


「そうでしたね……。異国から布教のために旅をしていた少女が、オーガに殺害されたのですよね……」


「ああ……。かわいそうにな」


 俺たちがラーグの街にこもって鍛冶に精を出している間にも、世界は大きく動いている。

 ミティはとても不安そうだ。


「ただ、人のことばかりを心配していても仕方ない。俺たちには俺たちにできる仕事をしよう。借金を完済して今の工房から独立できれば、行動の自由度も増すさ」


「はい!」


 俺はミティの頭を撫でつつ、未来のことを考える。

 借金の悪条件の中には、行動に関する制約もあった。

 この街から出ることを禁じられているのだ。

 また、それとは別に工房の親方との契約もある。


 別に、俺たちが不当に搾取されたり、不当に束縛されているということはない。

 身元不明の者に大金を貸してくれたり工房へ雇い入れたりしてくれただけでも、十分にありがたいことだろう。


 だが、俺たちも人間だ。

 そろそろ自由が欲しい。

 ミティと何の憂いもなくイチャイチャしたい。

 そのためには、借金を完済する必要がある。

 あともう一歩だ。


「頑張っていこうな、ミティ」


「はい。タカシ様!」


 俺たちは改めて気合を入れる。

 こうして、日々は過ぎていくのだった。

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