1124話 エレナのパンツ
エレナたち『三日月の舞』が砂浜から立ち去ろうとしている。
その前に、エレナからダダダ団に関する情報提供があった。
俺も戦闘中に薄っすら感じていたことだが、彼らは闇の瘴気に侵されていたらしい。
「下っ端共の瘴気は無事に浄化されたらしいわ。さっき、街で見掛けたもの」
「え……。では、無罪放免ですか?」
「社会奉仕活動をやっていたわね。街の掃除とか、犬を引き連れて街の警備とか……」
……犬?
なぜ犬なんだ?
俺は首を傾げるが、エレナは構わず言葉を続けた。
「でも、幹部や頭領の浄化には手こずっているみたい。しばらくは様子を見るそうよ」
「そうですか……。まぁ、それが妥当な判断でしょう」
下っ端のチンピラぐらいなら、社会奉仕活動をさせるために一時的に解放しても問題ないだろう。
魔道具や武器の類さえ取り上げていれば、また暴れ出してもそこらの衛兵でも無力化できるはずだし……。
しかし、幹部ヨゼフと頭領リオンは別だ。
あの2人を野放しにしておくのは非常にマズイ。
ちゃんと罪を償わせるか、しっかりと浄化してから解放してもらいたいところだ。
「情報提供、感謝します」
「あんたも変態とはいえ、冒険者の端くれでしょ! これぐらい、知っておきなさいよね!!」
「ええ。仰るとおりで……」
「ふんっ!」
エレナはプンスカしながら去って行った。
ルリイやテナもついていった。
俺は彼女たちの背中を見ながら、小さく溜息をつく。
結局、エレナは最後まで俺のことを変態呼ばわりしていたな……。
「にゃにゃっ! 1つ忘れていましたにゃ!!」
「え?」
「待っていてくださいにゃ! お客様のために、にゃぁが一肌脱ぎますにゃ!!」
サーニャちゃんは俺にそう告げると、エレナたちの後を追いかけていった。
彼女は何をするつもりなんだろう?
「――ッ!!」
「!? ――――!!!」
エレナたちに追いついた彼女は、何やらエレナと激しく口論を始めた。
いざとなれば、Cランクのエレナが優位だろう。
俺はそう思った。
だが、エレナが実力行使に出ることはなかったようだ。
サーニャちゃんが勝ち誇った顔で、何かを彼女から受け取ってこちらに戻ってきた。
「にゃにゃんにゃーん」
……何だろう。
彼女の様子がおかしい。
まるで、浮かれた猫のようにご機嫌だ。
「……どうしたんです?」
「ふふふ。これを見れば分かりますにゃ」
彼女は得意げな表情で何かを差し出してくる。
俺はそれを広げる。
それは――女物のパンツだった。
「うおおっ!? こ、これは……!」
「にゃはは。エレナさんのパンティですにゃ。お客様のために、もらってきたのですにゃ」
「お、俺のために……? よ、よく彼女が了承しましたね……」
エレナは今、水着姿だ。
手荷物に着替えのパンツを入れてあったのは理解できる。
しかし、同性のサーニャちゃん相手とはいえ、自分のパンツを渡すのはどう考えても不自然だ。
「渋っていましたけどにゃ。さっきのビーチバレーボール大会は、にゃぁのチームの勝ちでしたからにゃ。言うことを1つ、聞いてもらったのですにゃ」
「な、なるほど……」
敗者は勝者の言うことを聞かなければならない。
そういうルールがあったらしい。
確かに、そんなことを言っていたような気がしないでもない。
「でも、どうして俺にエレナさんのパンツを?」
「にゃ? だって、お客様は変態ですからにゃ。こういうのが好きかにゃと思ったのですにゃ」
「…………」
ちくしょう。
エレナが俺のことを変態と呼びすぎたせいで、サーニャちゃんまで俺のことを変態扱いしているじゃないか……。
いや、実際そうなんだけど……。
ここは言い訳しておこう。
「いやいやいや! こう見えても俺、変態じゃないんですよ? ただちょっとだけ、女性の身体に興味津々なだけで……」
「にゃ? じゃあ、このパンティはエレナさんに返し――」
「すみません。俺は変態です。ありがたくいただきます!」
「にゃはは。最初から素直になればいいのにですにゃ」
サーニャちゃんは楽し気に笑っている。
モニカやニムの視線がどんどん冷たくなっているのを感じる。
後で、盛大に埋め合わせをしないと……。
俺はそんなことを考えつつ、エレナのパンツを大切にアイテムボックスに収納する。
そして、変態疑惑を返上するべく、その後は健全に海水浴を楽しんでいったのだった。
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