1123話 情報提供
「い、いてぇ……」
俺はエレナのパンチでズタボロになっていた。
全身が痛い。
特に顔面は腫れ上がっており、鼻血も出ていた。
「ふんっ! これに懲りたら、二度と変なことをするんじゃないわよ!!」
「は、はい……」
俺は小さく呟いた。
まぁ確かに、今回の件は俺が悪い。
実際に手で触れたりはしていないとはいえ、目でジロジロとエレナたちの身体を見回してしまったわけだし……。
その前には、解放されたエクスカリバーを見せつけるようなこともしてしまっていた。
むしろ、制裁がエレナからのものだけで済んでありがたいくらいだ。
「タケシの連れの2人も同罪よ! こんな変態、野放しにしちゃダメじゃない! 張本人のタケシと一緒に、深く反省しなさいよね!!」
「大変申し訳御座いません。厳しく改善努力致します」
「大変申し訳御座いません。即指導致します」
「大変申し訳御座いません。指導徹底致します」
俺、モニカ、ニムの3人は反省の意を示す。
本来はエレナの方が格下なのだが、ここまで怒られては逆らうことも難しい。
俺の暴走なのに、モニカやニムにまで頭を下げさせてしまって申し訳ない気持ちでいっぱいだ。
後で、ちゃんと埋め合わせをしないとな……。
「あと、そこの猫娘もね! この変態が形式上の恩人ってのは分かるけど、あんまり甘やかしたら調子に乗るわよ!!」
「にゃにゃ……。わ、分かったにゃ……」
サーニャちゃんは少しビクッとしながらも、素直に答えていた。
先ほどの、エレナから俺に対する圧倒的な暴力を見て、エレナに逆らわない方がいいと判断したようだ。
「じゃあ、私たちは戻るわ。ちゃんと更生しなさいよ? 次は容赦なく衛兵を呼ぶからね!」
「は、はい……」
俺はエレナの言葉に、消え入りそうな声で答える。
彼女からの暴力は凄まじいものだったが、衛兵を呼ばれなかったという点ではラッキーだったと言えるか……。
あるいは、やはり忠義度は嘘をつかないとも言えるか……。
ここまでのセクハラをぶちかましても、一応30は超えているんだよな。
「あ、そう言えば……。一応、あんたにも伝えておこうかしら」
「え? 何です?」
エレナが俺の方を向いて言う。
俺に何か言い忘れたことでもあっただろうか?
「ダダダ団の連中だけど、何か闇の瘴気? とかいうやつに侵されていたらしいわよ」
「闇の瘴気ですか……」
「私もあまり知らなかったんだけど、人の欲望とか悪意を増幅させるんだって……。本当かしらね? そんなことを言い訳に、犯罪者の罪を軽くするのはどうかと思うのだけど……」
「…………」
何とも言えないところだ。
ダダダ団の悪事を見てきた俺としては、エレナの気持ちも分かる。
サーニャちゃん、魔導工房の少女ムウ、そのお手伝いメルルなど、多くの者が被害に遭っていたのだ。
悪事は闇の瘴気の影響でした。
そう言われて、簡単に許せるものではないだろう。
王都とかでも同じようなことがあったな。
黒狼団、白狼団、闇蛇団、灰狼団など、数々の盗賊団を俺は潰してきた。
彼らも、大なり小なり闇の瘴気の影響を受けてきたことが認められた。
その結果、少しばかり罪状が軽くなったというような話を聞いている。
(罪は罪……。そう厳しく罰することも可能だが……)
その場合、他の面々に対する追及も考えていく必要がある。
サザリアナ王国へ戦争を仕掛けてきたハガ王国国王のバルダイン。
ミティを陥れたカトレア。
ウォルフ村を手中に収めようと暗躍したディルム子爵。
美少女たちを半ば手籠めにしようとしていたシュタイン=ソーマ騎士爵。
ファイアードラゴンの討伐に固執して領民を危険に晒したラスターレイン伯爵家。
そして何より、叙爵を目の前にして武功を焦って暴走した俺自身。
(これらの面々を実質的に無罪放免にしているにもかかわらず、盗賊団だけは厳しく断罪する……。それは正しいことなのだろうか……? いわゆるダブスタ……ダブルスタンダードというやつでは……)
もっとも、闇の瘴気の汚染度というものにも濃度がある。
濃ければ濃いほど、欲望や悪意の増幅度が大きくなる。
民思いのバルダインやラスターレイン伯爵家が暴走したのは、相当に濃い闇の力の影響を受けたためだろう。
一方、ダダダ団は元々が地元マフィアだ。
今回のように活動の悪質性が増したのは闇の瘴気の影響だとしても、元々が素行不良の連中である。
少量の瘴気でも悪事に手を出してしまったという点では、バルダインやラスターレイン伯爵家よりも情状酌量の余地がないと言わざるを得ない。
まぁ、闇の瘴気の濃淡はすぐに測れるものでもないので、どこまでがセーフでどこからがアウトなのかは微妙なのだが……。
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