703話 叙爵式
「はっはっは! よく来たな、ハイブリッジよ!」
「ははっ! タカシ=ハイブリッジ、ただいま参上仕りました!!」
俺は会場に入るなり、すぐにネルエラ陛下のところに向かった。
そして、その場で片膝をつく。
「ハイブリッジのこれまでの活躍、聞いておるぞ! だが、この場にはそれを知らぬ者もいる! ムロンよ、ハイブリッジの活躍を伝えよ」
「はっ!!」
ネルエラに促され、老齢の男が前に出る。
確か、彼は宰相だったか。
サザリアナ王国の重鎮の1人である。
「ではまず、冒険者としての経歴から……」
彼が俺の紹介を始める。
冒険者登録をしてわずか2週間ほどでDランクになったこと。
ガルハード杯の本戦に出場したこと。
ハガ王国との武力衝突が本格化する前に解決へ導き、Cランクに昇格したこと。
ガロル村で霧蛇竜ヘルザムを撃破したこと。
メルビン杯でベスト8に入賞したこと。
ウォルフ村とディルム子爵領の諍いを解決に導いたこと。
ブギー盗掘団の捕縛作戦で活躍し、Bランクになったこと。
よくもまあ、ここまで詳しく調べたものだ。
「……ここまでが、騎士爵の授与が内定する前の功績ですな」
「おお! 素晴らしいではないか!」
「騎士爵を与えるに相応しいこと、間違い無し!」
宰相ムロンの説明を聞いていた貴族たちから、そんな声が上がる。
不平不満の声がなくてよかった。
まあ、ネルエラ陛下の意向に真っ向から異議を唱える者はそうそういないだろうが。
「ハイブリッジ殿の活躍はこれにとどまりません。続いて……」
宰相が説明を続ける。
闇の瘴気に汚染されていたシュタイン=ソーマを浄化したこと。
ラスターレイン伯爵領のアヴァロン迷宮の攻略に成功し、ファイアードラゴンを手懐けたこと。
登用した配下たちが次々と活躍を始めたこと。
ハイブリッジ騎士爵領内において、様々な施策が成功し、特に農業改革についてはずば抜けた成果を上げたこと。
こうして他者の口から自分の活躍を聞くのは初めてだ。
自分で言うのもなんだが、結構すごいことをしているなと思う。
「……と、ハイブリッジ殿の功績はこのようになります」
「さすがだ。ハイブリッジ殿は、いずれこの国で屈指の実力者となるだろう」
「改めて聞いても、素晴らしい活躍である!」
「左様。これからのサザリアナ王国になくてはならない存在だ」
ソーマ騎士爵、ハルク男爵、ラスターレイン伯爵がそう言ってくれた。
彼らは、俺と確かな縁を築いている者たちだ。
こういう場でも頼りになる。
「はっはっは! 紹介はそれぐらいでいいだろう! では、これより叙爵を執り行う!! ハイブリッジ、我の前に来い!!」
「ははっ!」
俺は一度立ち上がり、陛下の前に立つ。
そして、その場に膝をついた。
「ハイブリッジよ! 貴様は我が国のため、これまで多大なる功績を残してきた! よって、我が名のもとに正式に騎士爵位を授ける!!」
「ありがたき幸せ!!」
俺はそう返答し、頭を下げる。
そして、儀礼用の短剣を抜く。
「我が剣を、王国のため、陛下のため、国民のために捧げる。永久の誓いをここに!」
俺が力強くそう言うと、周囲から拍手が上がった。
これまでずっと仮の騎士爵だったが、これでようやく正式に認められた形だな。
「はっはっは! さらに、皆の者にこの場で重大な発表がある!!」
突然、ネルエラ陛下がそう言い放った。
あの件かな?
俺とベアトリクスは、表情を引き締めた。
「皆も知っての通り、我が娘ベアトリクスは優秀な騎士だ。王族としての責務も強く意識しており、将来は我がサザリアナ王国を背負って立つであろう人物と言える」
そこまで言ったところで、貴族たちがざわつき始めた。
言っていること自体は周知の事実だ。
しかしなぜ今この場で言い出したのだろうかと。
「しかし、である。その気質ゆえ、周囲の者と激突することも少なくなかった。騎士団の面々とは、衝突の末に信頼関係を築いたようだが……。ベアトリクスの結婚相手としてふさわしい者は、見つかっておらぬ」
「ふうむ……。それは確かにそうですな……」
「ベアトリクス殿下と釣り合いが取れるような男は、なかなか……」
「私の倅にも、少し荷が重いですなぁ……」
貴族たちが同意の呟きを口にする。
ベアトリクスのじゃじゃ馬ぶりは、貴族の間でも有名らしい。
「そこで、我が娘の結婚相手をハイブリッジにしようと思う!!」
「「「「「おぉーっ!!!」」」」」
貴族がどよめきの声を上げた。
「ハイブリッジよ、お前になら安心して任せられる! この場にいるすべての者の前で宣言しよう!」
ネルエラ陛下が俺を見つめてくる。
事前に聞いていたことではあるが……。
これはもう断れないやつだ。
「ははっ! 俺の身命をかけて、ベアトリクス殿下をお守りいたします!!」
「よくぞ申した! これにて一件落着だな!!」
「「わあっ―――!!!」」
会場中から歓声が上がり、俺たちに向かって拍手が巻き起こった。
こうして、俺は晴れて正式に騎士爵となり、ベアトリクスの婚約者に内定した。
……と思ったのだが……。
「お待ちくだされ、ネルエラ陛下」
「む? 何かあるのか? ハイルディン侯爵よ」
口を挟んできたのは、ハイルディン侯爵だ。
サリエが治療してあげた侯爵家令嬢リリーナ。
その父親だな。
侯爵家と言えば、ラスターレイン伯爵家やハルク男爵家よりも上の位階である。
「ハイブリッジ卿の優秀さは、疑う余地はありません。ですが、さすがに騎士爵では第三王女殿下と釣り合いが取れないのではありませんかな?」
ハイルディン侯爵がそう指摘する。
俺とベアトリクスの婚約を邪魔しようというのか?
おいおい、あんたの娘の傷を治療してやったのは誰だと思っているんだ。
俺……の愛する妻サリエが頑張って治療してくれたんだぞ。
恩を仇で返されるとは、まさにこのこと。
適切に反論しておく必要がある。
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