702話 叙爵式当日

 叙爵式の当日になった。

 昨晩は、ハイブリッジ家のみんなに加えて、リリーナ、レネ、ホーネス、ゼラたちと盛大に前夜祭をした。

 おかげで、ぐっすりと眠れた。


 俺は、8人の妻を連れて王宮へと向かう。

 爵位を授かる側の家族は、叙爵式に参列するのが一般的らしい。

 さらには、その他親しい者や配下を数人であれば参列して構わないということだった。

 そこで、ミリオンズの蓮華、ティーナ、ドラちゃん、加入検討中のレイン、筆頭護衛兵のキリヤを選抜して同行してもらっている。

 俺を含め、総勢14人の大所帯だ。

 これだけいれば、緊張も和らぐ。


「いいか? さっき教えたセリフを、しっかりと唱えるんだぞ」


「ああ。ばっちり覚えたさ。俺に任せておけ」


 心配げなベアトリクスに、俺は自信満々に答えてやる。


「本当に大丈夫なのか? 陛下がこうしたときは、貴様はこのように体を動かして応えて……」


「分かってるって。散々練習したじゃないか」


 男勝りで強気なベアトリクスだが、人のこととなると意外に心配性らしい。

 俺が貸し切っている高級宿に何度か来てくれて、その度にあれこれ教えてくれた。

 普通は、叙爵される側が王城に赴き、その片隅の部屋にて中位の文官あたりに教えてもらうらしいが。

 俺の場合は、第三王女のベアトリクス直々の指導だ。

 しかも、俺が出向くのではなくて、彼女からこちらに来てくれていた。


「それでも、心配なのだ。ハイブリッジはすぐに調子に乗るからな……」


「さすがに叙爵式で調子に乗るほどバカじゃないぞ。ネルエラ陛下やコンラード第二王子に加え、誓約の五騎士や宰相、侯爵家や伯爵家まで揃っているのだろう? 変なことをすれば、爵位を剥奪されるじゃないか」


「だから心配なのだ! 絶対に変なことをするなよ! 我との婚約がなくなるかもしれないからな!!」


「ふふふ。ずいぶんと素直になったじゃないか。俺との婚約がそんなに嬉しいか?」


 少し前まで、俺とベアトリクスは事あるごとに口喧嘩をしていた。

 ネルエラ陛下の企みにより一気に婚約話を進めれたわけだが、意外にもベアトリクスは強く反発していない。


「……だから言っているだろう。我を受け入れ、御することができるような男は、そうそうおらんのだ。ハイブリッジの器の大きさには一目置いている。それに、戦闘能力や配下の統率能力にもな」


「そうかそうか。俺のことが大好きか!」


「そ、そういう意味ではない!! ……こともないのだが! ……とにかく、変なことはするでないぞ。いいな?」


「はいはい。分かりましたよ、姫様」


 ベアトリクスはツンデレ系だな。

 そうと分かれば、可愛いものだ。

 彼女のことをこんなに愛しく思う日が来るとは思わなかった。


 やはり、俺の嫁たちは可愛い。

 俺はそんなことを考えながら、王城の一室にて待機する。

 仲間のみんなもいっしょだが、さすがにここで無駄口は叩かない。

 それぞれ神妙な表情を浮かべている。


 ベアトリクスは、参列者として先に会場に向かっていった。

 残された俺たちは、部屋でしばらく待つ。

 そして、そのときはやってきた。


「ハイブリッジ卿。準備はよろしいですかな? これより、叙爵式の会場に向かっていただきます」


「おう。案内を頼むぞ」


 俺は中位文官にそう返答する。

 俺も仲間たちも緊張している。

 だが、ここまで来たら覚悟を決めるしかない。


 無職の俺が転移先のこの世界で加護付与スキルを駆使して世界滅亡の危機に立ち向かうためには、社会的身分は高ければ高いほどいい。

 やや自由に動きずらくはなるものの、忠義度稼ぎが段違いに効率よく行えるようになるからだ。

 いわゆる後光効果というやつで、貴族の身分を持っているだけで平民から一定程度の尊敬の念を向けられる。


 まあ、統治がうまくできなければ、むしろ忠義度が下がってしまうリスクもあるけどな。

 そこは、チートを活かした俺の戦闘能力や魔法技術、ちょっとした現代知識で頑張っていくつもりだ。

 それに、加護付与スキルにより俺には優れた配下がたくさんいる。

 統治が乱れて領民の反発を招くことはないように思う。


「皆さま! お待たせ致しました! タカシ=ハイブリッジ殿、そしてその関係者の方々のご入場です!!」


 中位文官が大きな声でそう告げる。

 すると、扉が開かれ、俺たちは叙爵式が行われる広間へと通された。


(うわぁ……すっげぇ……)


 俺は思わずそう思った。

 そこには、たくさんの貴族がいた。

 俺は事前に騎士爵を授かっており、それが今回正式に授与されることになる。

 この場にいる貴族のほとんどは、俺よりも身分が上だ。

 中には、俺のことをジロリと見つめてくる者もいた。


 しかし、大丈夫。

 俺には心強い仲間たちがいる。

 それに、参列している面々に知った顔もチラホラいる。

 リールバッハ=ラスターレイン伯爵、モルガン=ハルク男爵、シュタイン=ソーマ騎士爵などだ。

 彼らに出席義務はないのだが、俺の叙爵式ということで参加してくれているのだ。

 その他の貴族たちも俺には注目していると聞いている。


 さて、ここからが勝負だ。

 俺の未来は、俺自身の行動によって決まる。

 ベアトリクスに教えてもらった通り、しっかりと受け答えをして叙爵式の儀礼を乗り切ることにしよう。

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