698話 ミカ、アイリーン、モコナの成長
レインに加護を付与した翌日になった。
「タカシ様。今日のご予定は何かありますか?」
ミティが朝食を食べながら聞いてくる。
王都に来てからというもの、俺はベアトリクスやレインの相手をしていた。
そのため、彼女は少し寂しかったようだ。
俺は各種のチートにより、抜群の戦闘能力を誇る。
加護付与の副次的な恩恵により他者からの忠義度を測れるし、現代日本のちょっとした知識チートもある。
あっち系のスキルを取得・強化することにより、夜の生活も順調だ。
俺にかかれば、現状の8人の妻やその子どもたちを養っていくことに何の不安もない。
ただし、時間だけは別だ。
俺の体は1つしかない。
意識してしっかりと家族サービスの時間を確保する必要があるだろう。
「今日は特に予定が入っていないぞ。叙爵式まであと数日あるし、何かやりたいことがあるなら言ってみてくれ」
「はい! 実は、面白そうなイベントが開催されるそうなんです。アイリスさんやモニカさんとも相談して、参加させてみたいって話をしてたんです」
「へえ? どんなイベントなんだ?」
ミティは俺の元奴隷だ。
それが関係しているのか、あるいは元々の気質なのか、あまり私欲がない。
そんなミティが興味を示すなんて珍しいなと思いつつ、詳細を聞いてみる。
「赤ちゃんたちのハイハイレースだよー」
「私たちの子どもの成長ぶりを確認するいい機会だよね」
アイリスとモニカが口々に言う。
ミティを含め、彼女たちは自分の朝食を食べ終えている。
そして、それぞれの子どもに乳を飲ませている。
その美しいおっぱいが見えているが、この場には俺以外の男がいないので問題ない。
「ほほう。ハイハイのレースか……」
この国の科学技術は、地球における中世ヨーロッパぐらいのレベルだ。
ただし、その代わりに魔法が発達しているし、魔道具やポーションなどの存在もある。
そのため、乳幼児の死亡率は現代日本と大差ないか、少し劣る程度だ。
基本的には元気にすくすくと育つ。
ハイハイで競争させて成長具合を確かめるイベントは時おり見掛けてきた。
このあたりは現代日本と同じだな。
「はい! きっと楽しいと思いますよ! ねっ、ミカ」
「あうぅ~」
俺とミティの子どもであるミカが、ミティの腕の中で嬉しそうに手を伸ばしていた。
まだ生後1か月なので、言葉らしい言葉を話せない。
だが、俺にはちゃんと伝わってくる。
彼女も参加に前向きのようだな。
「アイリーンも参加させたいな。元気に育ってくれた私の宝物、みんなに自慢したいよ」
「あうう!」
「モコナだって負けないよ! 私の特性を受け継いで、足が強そうなんだ。モコナ、やれるよね?」
「あうぁ~?」
アイリスとモニカが我が子を見ながらそう呟く。
子どもの育成方針は、基本的にそれぞれの母親の意見を尊重している。
ハーレムを好き勝手に築いている俺は、子どもへの教育方針に口を挟みすぎるべきではないだろう。
現状として、ミティは力強い子育てをしている。
あまり細かいことには気を配らない。
一方のアイリスは、過保護にも近い接し方をしている。
彼女の出産が、本来は死産になってしまっていたというのも関係しているだろう。
そしてモニカは、その中間といった感じだ。
「みんなが乗り気なら、俺ももちろん付き合うさ。しかし……」
「しかし?」
俺の言葉に、ミティが首を傾げる。
「ハイハイはまだ早くないか? 生まれてからまだ1か月ちょいぐらいだぞ?」
現代日本において、ハイハイができるようになる一般的な年齢はどれくらいとされていたか。
確か、半年ぐらいだった気がする。
早い子でも、4か月とか5か月ぐらいだったはずだ。
2か月や3か月でハイハイができる赤ちゃんは、皆無に近い。
ましてや、1か月ではできるはずがない。
「あう~!」
「あうぅ!!」
「あうぁ~」
俺の言葉に反応して、ミカ、アイリーン、モコナが激しく手を動かし始めた。
どうやら、やる気満々のようだ。
ミティたちは、彼女たちをカーペットの上に座らせる。
「見ていてください、タカシ様」
「アイリーン。ほら、向こうまで行ってみて」
「モコナ、頑張れ」
「あう~」
「あうぅ」
「あうぁ~」
ミカ、アイリーン、モコナは、ミティたちの言葉を理解したかのように反応し、動き始めた。
「おお……!?」
これは驚いた。
まさか本当にハイハイを始めるとは……。
この世界には魔力や闘気が存在する分、地球の常識が通じない感じだろうか。
あるいは、俺の加護が関係しているかもしれない。
加護(微)によりミカたちの基礎ステータスは1割向上しているからな。
「やった! 私の子が一番ですね!」
「ああっ! ずるいよ、ミティ。ちょっとスタートが早かったでしょ!」
「アイリーン。頑張ったねー!」
ミカが真っ先にゴールインし、次にモコナ、最後にアイリーンがゴールした。
喜ぶミティに、モニカが抗議している。
アイリスは我関せずといった感じで、純粋にアイリーンの完走を称えている。
母親としてどの反応が正解ということもあるまい。
ただ、それぞれで教育方針に差が出るものなのだなぁと感じた。
「よおーし! ミカ、よくがんばったな!」
「あう~」
俺が抱きかかえてやると、ミカは嬉しそうに声を上げる。
「モコナも偉いぞ」
「あうぅ~」
「アイリーンもよく走ったな」
「あうっ」
俺は愛する子どもたちと順番に触れ合っていく。
現状として、脚力だけならやはりモコナが一番かもしれない。
兎獣人のモニカの特性を受け継いでいるからな。
ただ、モコナは少し臆病で物怖じする性格のようだ。
スタートが若干遅れていた。
ミカは腕力が強い。
ドワーフであるミティの特性を受け継いでいる。
ハイハイなら腕力も重要だし、今回の競争で一番になったことも頷ける。
フライング気味にスタートするなど、性格的にもちゃっかりしている。
将来は周囲を振り回すワンパクな女の子になるかもな。
アイリーンはどうだろう?
身体能力は平均的だ。
アイリスは武闘神官として高い身体能力を持っていたが、あれはあくまで鍛錬によって後天的に身に付けたものだ。
どうやら遺伝はしなかったらしい。
それならば、アイリスの勤勉で努力家なところが似てくれればと思ったが。
そちらも望み薄だ。
ハイハイレースの趣旨を理解している素振りを見せながらも、ミカやモコナのように本気で取り組んでいなかった。
ぶっちゃけ、手を抜いていたように見える。
生後1か月で手抜きを覚えるとはな……。
だが、そんな彼女に対しても、アイリスは惜しみない賞賛と愛を注いでいる。
親バカ気味だが、出産時のあの悲劇を知っている俺は、軽々しく口を挟めない。
まあ、厳しくしたら立派に育つというわけでもないし、逆に甘やかしたらダメ人間に育つというわけでもない。
ここはそれぞれの母親の教育方針に従おうではないか。
「「「あうぅ~」」」
アイリーン、ミカ、モコナが楽しそうに声を上げながら、俺の顔に手を伸ばす。
「よしよし。みんな可愛いな!」
「「「きゃっきゃっ!」」」
そうして、俺たちはしばしの家族団らんを満喫したのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます