697話 レインのスキル強化

 レインのスキルの強化方針を相談している。


「残る既存スキルの闘気術を上げれば、ちょうど今あるスキルポイントを使い切ることができるが……。レイン、どうする?」


「ええっと。もちろん上げていただいた方が戦闘能力は増すのでしょうけど……。私が少しばかり強くなったところで、ミリオンズの皆さまと比べますと誤差のようなものですよね?」


「まあそうだな。とはいえ、誰だって最初はそうなるが。基礎レベルが上がればスキルポイントもまた入るし、とりあえず上げておいて損はないと思うぞ」


 仮にレインが剣術レベル3と闘気術レベル3を得れば、近接戦闘だけならCランク冒険者として通用するレベルとなる。

 全員がCランク以上で特別表彰もされているミリオンズの中ではそれでも弱い方だが、一般的に言えば十分な戦闘能力だ。


「お館様が私に取得してほしいスキルがあれば、私は従います。お館様のお役に立てることこそ、私にとって一番幸せなことですから」


 彼女が嬉しそうに微笑んだ。


「レインに取得してほしいスキルかぁ……」


 戦闘系スキルはあって困るものではない。

 ミリオンズの総合戦闘能力はかなりのものとなっているが、場合によっては少数で動くこともあるかもしれないし。

 料理術や清掃術のように、日常生活で役立つスキルも悪くない。

 魔法系のスキルも捨てがたいよな。


 ミリオンズのみんなは、それぞれ魔法を扱える。

 俺は火、水、風、土、雷、植物、重力、聖、治療、空間。

 合計10種類だ。

 ミティは風。

 アイリスは聖と治療。

 モニカは雷。

 ニムは土。

 ユナは火。

 マリアは火、重力、治療。

 サリエは植物と治療。

 リーゼロッテは水と治療。

 蓮華は風。

 以上のようになっている。


 火、水、風、土、雷、植物については、基本的に戦闘で役に立つ魔法だ。

 レインが剣術に加えて攻撃魔法も扱えるようになれば、戦闘に柔軟性が出る。

 だが、彼女も言っていたように、現状で既にミリオンズには高い戦闘能力の者が揃っている。

 レインが多少の魔法を扱えるようになったところで、当面の間は下位互換になってしまうだろう。


 重力、聖、治療、空間については、純粋な戦闘以外にも用途がある。

 重力魔法のエリアレビテーションを利用すれば、集団での高速移動が可能となる。

 だが、現状で俺とマリアの2人が使えるし、優先度は高くないかもしれない。


 聖魔法はどうか?

 闇魔法の研究が進められているというヤマト連邦へ乗り込むにあたり取得しておきたい魔法だ。

 しかし残念なことに、聖魔法についてはレベル1を自力で取得しないとステータス操作の対象とならない仕様となっている。

 闘気術と同じようなイメージだな。


 治療魔法も有り難い魔法だ。

 冒険者活動において、いくら強者揃いのミリオンズでも不覚を取ることはいくらでもあり得る。

 そんなときに治療魔法があれば心強い。

 だが、ミリオンズには既に5人もの治療魔法使いが存在する。

 俺、アイリス、マリア、サリエ、リーゼロッテだ。

 また、人外構成員の高性能アンドロイドであるティーナも、ちょっとした治療の補助くらいはできる。

 治療魔法については、万全に近い態勢を整えることができている。

 そして、最後に残った空間魔法だが……。


「そうだなあ。レインさえよければ、空間魔法を取得してみるか?」


「えっ!? 空間魔法ですか? 使い手がかなり希少だと聞きますが……」


「ああ。だが、俺の力を使えばすぐにでも取得できるぞ」


 魔法の習得には、本来は一定以上の適性が必要だ。

 その上、適切な鍛錬も求められる。

 ただスキルポイントを消費するだけで魔法を習得できるのは、改めて考えてもかなりのチートだ。


「な、なるほど。さすがはお館様。そのようなことまでお出来になるとは……」


「いやいや。たまたまこういう力が使えるだけで、俺自身はそんなに凄くはないぞ?」


 まるで偉人を見るかのような目をしているレインに対し、俺は苦笑する。


「それで、レインは空間魔法についてどう思う?」


「そうですね……。空間魔法と言えば、確かアイテムボックスという魔法でしたか?」


「最初級の空間魔法はその通りだな。これは戦闘に役立つような魔法ではないのだが、荷物を運ぶ際など非常に便利で有用な魔法なのだ。ちなみに空間魔法レベル2になると、アイテムルームが使えるようになる。こちらはアイテムボックスの容量が大きくなったものだ」


 俺はレインにそう説明する。

 アイテムボックスやアイテムルームの容量は、術者の魔力の多寡によって変動する。

 俺はこの世界に来て間もない頃からアイテムボックスとアイテムルームを愛用している。

 初期の頃は、確かアイテムボックスが50cm×50cm×50cmぐらい、アイテムルームが2m×2m×2mぐらいだったか。

 容量として、実に50倍以上の差がある。

 もちろん、今はそれぞれの容量がさらに増している。


「なるほど! それは是非とも取得したいです!」


「わかった。ゆくゆくは魔力やMPも伸ばしていきたいな」


 魔力は魔法の出力、MPは魔法の発動回数や持続力に影響する。

 あの頃の俺は特に魔力のステータスを強化していたわけではなかった。

 レインも同じく、魔力を強化する類のスキルは取得していない。

 おそらくだが、容量としては当時の俺と同じくらいになるだろう。


 容量とは別の問題として、収納した物をどのくらいの時間収納したままにしておけるかという問題もある。

 かつての俺の場合は、空間魔法に加えて火魔法や水魔法を使い始めたことによりMPが不足する懸念が発生した。

 そのため、MP強化やMP消費量減少のスキルを取得した。

 強化のない状態のままでは、アイテムボックスやアイテムルームの容量に余裕があったとしても、実際にめいいっぱい入れてしまうと長期間はMPが保たないという問題が発生するだろう。


「さて……。では、強化を進めていくぞ。剣術レベル3、料理術レベル4、清掃術レベル3、そして空間魔法レベル2だ。それでいいな?」


「はい! よろしくお願いします!!」


 レインが元気よくそう返事をする。

 念のため、ミティやアイリスたちの意向も確認しておく。

 基本的に、各自のスキルの強化方針は各自が決定権を持つ。

 だが、ミリオンズとして、ハイブリッジ騎士爵家として命運を共有する俺たちは、お互いの強化方針をできる限り開示して理解し合うことにしているのだ。

 ミティやアイリスたちも、レインの強化方針に異論はないようだ。


 俺はステータス操作画面を開き、レインのスキルを強化していく。

 これで、ハイブリッジ騎士爵家にとって非常に有用なスーパーメイドが爆誕したことになる。

 まあ、ミリオンズにとっても期待のできる新メンバーとなる可能性がある。

 彼女の今後の活躍にも期待したいところだ。



レベル10、レイン=ハティア

種族:ヒューマン

身分:平民

役割:メイド

職業:短剣士

ランク:ー


武器:オリハルコンの短剣

防具:メイド服


HP:75(58+17)

MP:40(31+9)

腕力:43(33+10)

脚力:43(33+10)

体力:43(33+10)

器用:47(36+11)

魔力:43(33+10)


残りスキルポイント:0

スキル:

剣術レベル3

闘気術レベル1

空間魔法レベル2「アイテムボックス、アイテムルーム」

料理術レベル4

清掃術レベル3


称号:

タカシの加護を受けし者

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