696話 レインの育成方針

 レインに通常の加護を付与した。

 彼女は強化された身体能力を実感して驚いている様子だ。

 だが、加護の恩恵は基礎ステータスの強化だけにとどまらない。


「レイン。詳しく説明しよう。実はカクカクシカジカで……」


 俺はこれまでの経緯を説明しつつ、レインの新たな力についての説明をする。


「そんなわけで、今のお前はほぼ自由に新たな力を手に入れたり伸ばしたりできるんだ」


「な、なるほど……。信じ難いところですが、お館様が仰るなら間違いないのでしょうね」


 レインがそう言ってあっさりと信じた。

 やはり、加護(小)を経由した者は話が早い。

 ステータス操作のことを説明するのが楽だ。


「力を取得したり強化したりするには、スキルポイントというものを消費する。およそこんな感じだな」


 俺はレインにメモ用紙を手渡す。

 ステータス操作の仕様についてまとめたものだ。

 新規にスキルを取得する場合は、スキルポイントを10消費する。

 スキルレベル1を2に強化する場合は、スキルポイントを5消費する。

 スキルレベル2を3に強化する場合は、スキルポイントを10消費する。

 スキルレベル3を4に強化する場合は、スキルポイントを15消費する。

 スキルレベル4を5に強化する場合は、スキルポイントを30消費する。


「そして、レインの今のスキルはこんな感じだ」


 俺は彼女のスキル構成を書き写したメモを渡す。

 彼女のスキルは、剣術レベル2、闘気術レベル1、料理術レベル3、清掃術レベル2だ。

 基本レベルと同じく、意外に多くのスキルを持っており、そのレベルも悪くない。

 本人ががんばり屋さんという事情もあるが、それ以外の事情もある。

 彼女が加護(小)を経由していることが大きいだろう。


 加護(小)を付与した時点で、最大3つの所持スキルのレベルがそれぞれ1上昇するのだ。

 そしてそれは一時的なものではなく、通常の加護が付与された後にも引き続き適用される。

 彼女の場合、元々のスキルは剣術レベル1、料理術レベル2、清掃術レベル2だったはずだ。

 料理術と清掃術はメイドとしての技能であり、剣術は俺に雇われる前から多少嗜んでいたそうだ。

 加護(小)の恩恵により、剣術レベル1は2に、料理術レベル2は3に上がっている。

 そして、ハイブリッジ騎士爵家という人材豊富な場所に身を置くことにより、いつの間に闘気術も習得していた。


「お料理の力が……。最大が5で、私が3ですか! お掃除の力も2なら悪くなさそうですね!」


 レインが嬉しそうに微笑む。


「ああ。メイドとしては、一人前と言っていいだろう。剣術もレベル2だし、冒険者や護衛兵として見ても最低限の水準は満たしているぞ」


 冒険者で言えば、Dランクくらいだろうか。

 護衛兵なら、特に役職のない一般兵士と同等の活躍が期待できる。


「ええっと……。私の能力が本当に伸びるのですよね?」


「ああ。何でも好きなものを言ってくれればいい。既存のスキルを伸ばすのでもいいし、新たに取得するのでもいいぞ」


「えっと……。それでは、お館様が決めていただけませんか?」


「俺が?」


「はい。お館様にお任せいただけるのであれば、その方が私にとって嬉しいですから」


 レインからの信頼が重いな。

 だが、マリアのスキル方針も概ね俺が決めているし、今さらか。


「そうだな……。まず、レインは引き続きメイドとして働いてくれるので問題ないのか? 俺たちミリオンズに加入するのであれば、戦闘方面に集中するのもありだぞ。あるいは、索敵系のスキルや各種の魔法を伸ばしていくのも悪くない」


 ステータス操作によるスキルの取得は、ほぼ自由に行うことができる。

 例外は、聖魔法、闘気術、聖闘気術、獣化術、竜化術、策謀術、俯瞰術などである。

 これらは鍛錬や先天性の素質により、レベル1を自力で取得する必要がある。

 レベル1でもスキルを取得さえすれば、その後は他のスキルと同じように伸ばしていける感じだ。


「私たちメイドにとって、ミリオンズの皆さまは憧れの存在でした。お一人ひとりが、まるで英雄譚に登場する勇者のようです。そんな方々の末席に私なんかを加えていただけるのは、とても嬉しいです! 足を引っ張らないように、剣術は伸ばしておきたいですね。もちろん自分でも頑張りますけど……」


「ああ。スキルとは別に、鍛錬を頑張るのも大切なことだな」


 スキルだけ伸ばしても、表面上の剣の扱いがうまくなるだけだ。

 駆け引きや度胸などは身につかない。

 引き続き鍛錬に励むことに意味はある。


「では、とりあえず剣術レベル2は3にしておくか?」


 レインのスキルポイントは50。

 剣術をレベル3にすれば、残りは40だ。


「そうですね。後は……やはりメイドとして、料理術と清掃術は伸ばしておきたいかもしれません」


「やはりメイドに拘りがあるのか?」


「はい。この御力をいただけたとはいえ、私が皆さまよりも強くなることは想像できません。ですので、メイドとしてお仕えできればと思います」


「わかった。料理術をレベル4に、清掃術をレベル3にするか」


「それでお願い致します」


 残るスキルポイントは15となる。

 何を伸ばすか、引き続き相談して決めていくことにしよう。

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