695話 レインへの加護付与

 ベアトリクスとの決闘の翌日だ。

 彼女は午前中に俺たちの宿を訪れていたが、共に昼ごはんを食べてから帰っていった。

 第三王女である彼女は、いろいろと忙しいらしい。


 そして、俺たちミリオンズも決して暇というわけではない。

 叙爵式に向けて気を引き締めつつ、その後のヤマト連邦への遠征の準備を進めておく必要がある。

 また、余裕があればここ王都におけるハイブリッジ騎士爵家の名声を高めておくことも有意義だ。

 しかし、それらの用事よりもさらに重要な議題が一つある。


「よし……。みんな、集まったな」


 俺は宿屋の一室に集まった仲間たちの顔を見渡した。

 今日は、今後の方針を決めるための話し合いを行う予定なのだ。

 メンバーは、俺、ミティ、アイリス、モニカ、ニム。

 ユナ、マリア、サリエ、リーゼロッテ、蓮華。

 ティーナとドラちゃん。

 この12人はミリオンズの構成員であり、ハイブリッジ家の中でも高い立場にある者たちだ。

 重要度な事項については、このメンバーだけで話し合うことになっている。

 他の皆には秘密にしておきたい話もあるからだ。

 だが、この場にはあと1人だけ他の人物がいた。


「ええっと。それでは、私はここで失礼しますね」


 メイドのレインがそう言って退出しようとする。

 前例から言えば、彼女の対応はもっともだ。

 メイドとしてお茶の用意や掃除などをしてくれた後は、ミリオンズ会議の邪魔にならないように部屋の外で待機してもらう。

 それがこれまでの流れだった。

 だが、今回は彼女にも参加してほしい事情がある。


「いや、待ってくれ、レイン」


「はい?」


「レインにも残って欲しいんだ。この会議に出席してほしい」


「私がミリオンズの皆さまの会議にですか? お館様がそう仰るのであれば、私としては構いませんが……」


「ありがとう。じゃあ、ここに座ってくれるか?」


「お館様のお隣に? ……はい。かしこまりました」


 レインは恐る恐る、俺の隣の席に腰掛けた。

 俺と2人きりのときはそれほどかしこまらないが、今この場にはミティやアイリスたちもいる。

 少し遠慮気味のようだ。


「タカシ様……。なぜレインさんを?」


「ふうん? ボクはなんとなくわかったかも」


「私も見当がついたよ。でも、タカシの口から発表すべきだと思うな」


 ミティ、アイリス、モニカがそう言って俺の方を見た。

 当のレイン本人は、何のことかイマイチ理解していない様子だ。


「では、発表しよう。ドゥルルルル……ジャンッ! 実は、レインが例の力の条件を満たしました!」


 俺はそう発表した。


「「「「「おおおー!!!」」」」」


「つ、ついにですか」


「ふふん。次は誰かと思っていたけど……。昨日の決闘騒ぎが決め手になったのかしら?」


「リンちゃんやロロちゃんより、レインさんが先だったねっ!」


 ニム、ユナ、マリアがそれぞれ反応を示す。


「おめでとうございます。これで、ますますハイブリッジ家に貢献してくれそうですね」


「素晴らしいですわね。レインさんのお料理が、さらにおいしくなるのですわ~」


「ふうむ。れいん殿は剣術においてなかなかの才能を持っているようでござった。例の力があれば、さらに強くなることも可能でござろう」


 サリエ、リーゼロッテ、蓮華も祝福の言葉を口にする。


「レイン……。改めて、これからもよろしく頼む」


「ええっと? お館様のため、もちろん今後も頑張って働くつもりですが……。あの、これは何の話なのでしょう? 力がどうとか……」


「そのことだがな。レイン、大切な話がある」


 俺は表情を引き締めてそう問いかける。


「はい。どのような話でしょうか?」


「力が欲しいか?」


「力……ですか? はい。あれば嬉しいとは思いますが……」


「ならば、与えよう」


 俺はステータス操作画面を開き、レインに通常の加護を付与した。



レベル10、レイン=ハティア

種族:ヒューマン

身分:平民

役割:メイド

職業:短剣士

ランク:ー


武器:オリハルコンの短剣

防具:メイド服


HP:75(58+17)

MP:40(31+9)

腕力:43(33+10)

脚力:43(33+10)

体力:43(33+10)

器用:47(36+11)

魔力:43(33+10)


残りスキルポイント:50

スキル:

剣術レベル2

闘気術レベル1

料理術レベル3

清掃術レベル2


称号:

タカシの加護を受けし者



 レインの初期レベルは10か。

 これまでに加護を付与してきた者たちの初期レベルと比べると、意外に高いように思える。

 ここで、各人の初期レベルを再整理してみよう。

 と言っても、暗記しているわけではない。

 俺にそこまでの記憶力はない。

 今までの情報は、ちゃんとメモに残してアイテムボックスに保管しているのだ。


 最も低かったのはマリア。

 初期レベル1だ。

 まあ、王族の彼女は狩りや鍛錬などをほとんどしたことがなかったそうだし、そもそも幼かったし、低くて当然と言えば当然か。


 次に低かったのは、ミティとニムの2、そしてモニカの4だ。

 平民の村娘や町娘はこれぐらいのレベルだと考えていいだろう。


 サリエの初期レベルは7だった。

 難病で寝たきりだったことを考えると意外に高いのだが、彼女の場合は加護が付く前から俺たちミリオンズに同行していた。

 そのときにいくらかレベルが上がったのだと思われる。

 初期レベルが比較的低かったのは、以上のマリア、ミティ、ニム、モニカ、サリエの5人だ。


 それに対して、初期レベルが高めだったのはアイリス、ユナ、リーゼロッテ、蓮華の4人である。

 アイリスは15、ユナとリーゼロッテは19、蓮華は20だった。

 彼女たちはそれぞれ、武闘神官や冒険者、あるいは貴族や侍として活動をしており、実力を磨く機会があったのだろう。

 鍛錬や実戦を続けてきた者たちの初期レベルは、これぐらいになるイメージを持っている。


 では、今回のレインの初期レベル10はどう考えるべきか。

 彼女は本来ただのメイドなので、ニムやモニカの初期レベルと同程度であってもおかしくない。

 つまり、レベル2から4ぐらいだ。

 それが実際には、レベル10。

 初めにも言ったが、思っていたよりも高めである。


 しかし、よく考えればこれぐらいでもおかしくはない。

 というのも、ラーグの街を拠点に活動している頃から、俺や蓮華によって剣術の手ほどきをしていたからだ。

 魔物狩りの経験こそほとんどないはずだが、鍛錬としてはそれなりのものを積んできている。

 最近では王都騎士団に混じって鍛錬に励んでいるしな。


「お館様? えっと、その……。何か、突然力が湧いてきたような感覚があるのですが……。これはひょっとして、お館様が何か関係しておられるのでしょうか?」


「ああ。その通りだ」


「な、なんと……。お館様はとんでもない御方だと思っておりましたが、このような不可思議な力までお持ちでしたとは……。この湧き上がる力があれば、もっと頑張れそうです!」


 レインがそう意気込む。

 加護(小)の基礎ステータスにおける恩恵は、2割の上昇だ。

 通常の加護では、それが3割になる。

 今までと比べて、力が湧き上がってくるような感覚を持っても不可思議ではない。


「ふふふ。そう言ってもらえてありがたいが、実はそれだけじゃないんだよ」


「えっと……? どういうことでしょうか?」


 通常の加護の対象者になると、スキルポイントを消費することで自由にスキルを強化することができる。

 さて、彼女にそれを説明して、さっそくスキルを伸ばしてあげることにしようかな。

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