第21章 叙爵式、盗賊殲滅作戦
694話 ベアトリクスへの加護(小)付与
ベアトリクスとの決闘の翌日になった。
「はあ……。まさか、こんなことになるとは……」
貸し切りにしている高級宿の一室で、俺はそう呟く。
俺の人柄と実力を見極めるためとはいえ、ネルエラ陛下があんな大掛かりなドッキリを仕掛けてくるとは想像できなかった。
その上、ベアトリクスと婚約までさせられてしまったのだ。
「その、なんだ……。ハイブリッジは、我のような女は嫌いか?」
隣にいるベアトリクスが、不安そうに聞いてくる。
今この場には、俺と彼女の二人だけだ。
ミティやアイリスたちは、それぞれの自室やリビングでくつろいでいるはずである。
「いや、そういうわけではない。ただ、いきなりで驚いたんだ」
外見だけなら文句なしの美少女だ。
長い金髪が美しい。
その戦闘能力も申し分なく、もしミリオンズに加入してくれれば加護なしの状態ですら十分に活躍してくれるだろう。
難があるとすれば性格か。
俺とは少し相性が悪く、事あるごとに対立して口論を繰り広げてきた。
「ハイブリッジが嫌なら、我から父上に言って……」
「まてまて! 婚約自体は別に構わないんだよ。俺だって、ベアトリクスを嫌っているわけじゃないし……」
「そ、そうか……。それを聞いて安心した」
ベアトリクスがホッとした顔をしている。
こうして可愛いところもあるんだよな。
それにしても、俺に対する彼女の評価は低めだったはずだが、いつの間にか好評価に変わっている。
加護付与スキルにより忠義度は定期的に測ってきたので、ある日突然の豹変というわけではないが……。
忠義度30を超えたのは、ラーグの街からここ王都に来る道中だな。
立ち寄った村でゴブリンジェネラル退治を終わらせた頃だ。
俺の高い実力を見せつけ、信頼を得ることができたためだろう。
その後の道中でも多少の雑談をして親睦を深めてきた。
王都に到着した後は多少の口論ぐらいはあったが、あくまで戯れの延長線上にあるものだ。
そして昨日の決闘では直接彼女を下して、俺の戦闘能力を改めて示した。
ネルエラ陛下の攻撃を受けた彼女のために素で怒ってしまったが、それが彼女の琴線に触れて高評価に繋がったのだろう。
「でも、なんで急に婚約なんか……」
「我は第三王女。その結婚相手は慎重に選ぶ必要がある。しかし、自分で言うのも何だが、我を御せるほどの男がいない」
「ああ……。それはまあ、そうだな」
ベアトリクスは強い。
俺や仲間達以外では、彼女とまともに戦える者はほとんどいないだろう。
また、日常生活における性格という意味でも、彼女を押さえつけることができる男性は少ないと思われる。
というか、俺でも無理だろう。
彼女のようなタイプは押さえつけるのではなく、好きにさせてあげるのがいい。
俺は彼女の全てを肯定しようではないか。
「父上は、ハイブリッジを高く評価している。我の婚約者に相応しいと思ったのだろう」
「そうなのか……」
俺の実力を認めてくれたのは嬉しいが、もう少し段階を踏んでからでも良かったと思うのだが……。
それに、俺の身分は騎士爵。
王族と釣り合いが取れるとも思わないが……。
「しかし、ベアトリクスはそれでいいのか? いくら陛下の意向とはいえ、いきなり結婚とか言われても困るだろ?」
「……正直なところ、少し困惑している。しかし、貴様ほど我を理解してくれる者は他にはいない。それに……」
「ん?」
「我が貴様に惹かれつつあるのも事実なのだ……」
彼女は頬を赤く染めながら、恥ずかしそうに言った。
「そうか……」
ベアトリクスも俺のことを……。
俺もそろそろ素直になるか。
初対面の頃から口論が絶えなかったためか、彼女との距離感を測りかねていたところがある。
だが、彼女が魅力的な女性であることは疑いの余地がない。
「わかった。一緒に幸せな家庭を築こう。そして、サザリアナ王国の発展のために尽力すると約束するよ」
俺は笑顔で彼女に告げた。
「ありがとう、ハイブリッジ。我が女の幸せを感じることになるとはな……」
ベアトリクスも嬉しそうな顔で、そう返してくれた。
いい表情だ。
彼女から俺への好意も疑う余地がない。
この表情からそれを確信できるが、それ以上の動かぬ証拠がある。
彼女が加護(小)の条件を満たしたのだ。
レベル?、ベアトリクス=サザリアナ=ルムガンド
種族:ヒューマン
身分:サザリアナ王国第三王女
役割:王都騎士団大隊長
職業:双剣士
ランク:B
HP:??
MP:??
腕力:??
脚力:??
体力:高め
器用:低め
魔力:??
残りスキルポイント:???
スキル:
剣術レベル5
闘気術レベル5(4+1)
社交術レベル2(1+1)
??
基礎ステータスは体力が高めだ。
尻上がりタイプの彼女らしい。
そして器用が低めだ。
双剣使いとして小回りが利くタイプだが、精密な斬撃というよりは速さや勢いで押すパワーファイター寄りの戦い方をする。
また、普段のコミュニケーション能力としてあまり器用なタイプではない。
……いや、これはステータスとはあまり関係がないか。
スキルは剣術がレベル5だ。
現時点でのスキルレベルとしては、俺、蓮華、キリヤと同じである。
ただし、こちらの3人は、加護の恩恵を受けてスキルレベル5に至っている。
ベアトリクスの場合は、加護の恩恵を受ける以前からスキルレベル5だ。
素晴らしい才能、そして努力だと言っていいだろう。
闘気術も元々レベル4だ。
さすがは王都騎士団の大隊長といったところか。
それが加護(小)の恩恵によりレベル5に上がっており、彼女の戦闘能力は一回り向上したことになる。
社交術もさり気なくレベル2になっている。
第三王女の割に元々のスキルレベルが1だったのは低いような気もするが、あまり突っ込まないでおこう。
さて、ステータスの確認はこれぐらいにしておくか。
「ベアトリクス。俺と婚約したことだし、さらに仲を深めるべきだとは思わないか?」
「え……?」
「俺に任せてくれれば、必ず君を幸せにしてみせる。だから、もっとお互いのことをよく知るべきだと思うんだ」
「それはどういう意味だ?」
「つまり、こういうことだよ」
俺はニヤリと笑いつつ、彼女の体を抱き寄せた。
「なっ!?」
「俺達はもう婚約が内定している身なんだ。遠慮する必要なんてない」
「ちょ、ちょっと待て! こ、心の準備が……」
ベアトリクスは顔を真っ赤にしている。
「大丈夫。優しくするから」
「いや、その……。やはり、まだ早いのではないか? せめて、キスぐらいにとどめておくべきでは……」
「そうか? わかった。なら、まずはキスを……」
俺は彼女の顎をクイっと持ち上げると、そのまま唇を近づけていく。
しかし……。
「うう……! や、やっぱり無理だーー!!!」
ドゴッ!
ベアトリクスはそう叫ぶと、俺を突き飛ばしてきた。
「ぐおっ!」
俺の体は宙を舞い、背中から地面に叩きつけられる。
「あ……。す、すまぬ、ハイブリッジ……」
「だ、だいじょうぶだ……」
咄嵯のことで受け身を取れなかった。
結構痛かったが、まあ、問題ないだろう。
「俺のことは気にしないでくれ。ただ、今の反応を見る限り、どうやら俺たちはまだ清いままでいた方がいいようだな」
「そ、そうだな……」
ベアトリクスは申し訳なさそうに俯いている。
彼女は魅力的な女性だし、一刻も早く手を出したい気持ちはある。
だが、彼女の気持ちも考慮しないとな。
こういうことに対する耐性がなさそうだし、ゆっくりと段階を踏んでいこう。
「だが、いずれは……。その時はよろしく頼むぞ、ハイブリッジ」
「ああ、任せておいてくれ」
俺は笑顔で彼女にそう告げたのだった。
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