673話 使節団と隠密隊
ベアトリクス、シュタイン、タカシがネルエラと謁見している。
ネルエラの奇襲を受けた3人は若干機嫌を損ねたが、すぐに持ち直す。
そして、タカシが口を開いた。
「なるほど。それで、そのお話とは……」
「いや、その前に。お前がタカシ=ハイブリッジだな?」
「ははっ! その通りでございます! 先ほどはとんだ失礼を……」
彼は謁見の間に入るなり、木刀とはいえ武器を取り出すという暴挙に出たのだ。
「つまらんことを気にする我ではない。それより、先ほども言った通りお前には期待しているのだ。叙爵式にも必ず出席するように」
「もちろんでございます! そのためにこの王都へやって来たのですから」
タカシが胸を張って答える。
「うむうむ。ソーマもソーマで引き続き面白い男だと聞いているぞ。闇の瘴気の件は災難だったな。異変を察知できなかった我にも責がある」
「いえ、そのようなことはありません。全ては私の責任です」
シュタインが頭を下げる。
「まぁ、その話は今はよい。闇魔法の出力は、ここ最近で急激に上がっているようだ。中央大陸に加え、ヤマト連邦でも研究が進められていると聞く」
「はっ! 我ら騎士団も、その対策を練っております」
「うむ。闇魔法に対抗する手段はいくつかあるが……。最も有効な手立ては聖魔法だ。我が国にはまだまだ使い手が少ない。ハイブリッジとソーマには期待しているぞ」
「ははっ! 承知致しました!」
「全力を尽くします」
シュタインとタカシが嬉しそうに答えた。
「さて……、では本題だ。そのヤマト連邦であるが、どうもキナ臭い動きをしている。女王派と将軍派の権力争いが水面下で激化していると」
「はっ! その話は俺も聞いたことがあります。ラスターレイン伯爵領にて、千という女がそのような話をしておりました。それに、俺のパーティメンバーにもヤマト連邦の出身者がいますので」
「私も同じく、小耳に挟んだことはあります。しかし、所詮は他国のこと。それも友好国ではない鎖国国家のことです。内紛など、よくあることとして気にしておりませんでしたが……」
タカシの言葉にシュタインが続く。
「ふむ。確かにそうだ。我がサザリアナ王国は、当初は動くつもりがなかった。鎖国国家での内紛など、好きにさせておけばいいとな。だが、そうも言ってはいられなくなった。その勢力の一部が、我が国で活動していたのだからな」
「それはつまり、千のことでしょうか?」
「その通り。ハガ王国の紛争幇助、ガロル村での霧蛇竜ヘルザムの捕獲、ウォルフ村とディルム子爵領の衝突の画策、極めつけはラスターレイン伯爵領でのファイアードラゴンの抹殺計画……。ハイブリッジの活躍により実害こそなかったものの、それらの計画は危険なものだった」
「はっ! それはその通りかと」
タカシが同意する。
「そこで、我は決めたのだ。我が国で勝手を働く輩、そしてその元凶を捨て置くわけにはいかないと」
「では、騎士団を派遣されるのですか? ”誓約の五騎士”の方々が?」
シュタインがそう問う。
誓約の五騎士。
サザリアナ王国の中でも、最もネルエラ陛下の信を得ている5人の精鋭の騎士である。
誓約の武具と紋を持ち、常にネルエラに忠誠を誓っている。
「いや、違うな。奴らにはまた別の任務がある。我は、ベアトリクスに騎士団を率いさせることを考えた」
「はっ! お任せ下さいませ!」
ベアトリクスが勢いよく返事をする。
「うむ。お前の実力ならば問題はない。……と言いたいところなのだがな。ヤマト連邦は鎖国国家だ。大人数で表立って動いては、入国もままならぬ。そこで、白羽の矢を立てたのが、ソーマとハイブリッジ。お前たち2人だ」
2人が顔を見合わせる。
「まず、ベアトリクスを使節団の団長に任ずる。ヤマト連邦に正面から交渉に当たれ。2大派閥はほぼ対等だが、歴史的には女王派閥に軍配が上がるだろう。女王派を味方につけるのだ。そして我らサザリアナ王国と友好的な関係を結ばせ、我が国における今後の不当な活動は断固として許さぬと伝えろ」
「はっ! 承知致しました!!」
ベアトリクスが恭しく返事をする。
「次に、ソーマ。お前は使節団の副団長として、ベアトリクスをサポートしてやれ。他の同行者はベアトリクスと協議して決定しろ。ただし、あまり大人数にはならんようにな」
「ははっ! 仰せの通りに!!」
シュタインが答える。
「最後に、ハイブリッジ。お前には単独パーティで潜入してもらう。隠密隊だ。少数精鋭の”ミリオンズ”なら、潜入も可能かもしれん。そしてなるべく秘密裏に将軍派に接触し、情報を収集するのだ。その後の方針は、ベアトリクスやソーマと何とかして情報を共有し、臨機応変に対応せよ」
「ははっ!! 必ずやご期待に沿えるよう尽力いたします!!!」
タカシが元気よく叫ぶ。
「よし。では、これより準備を開始せよ。詳細は追って伝える。ハイブリッジの叙爵式が終わり次第、行動に移してもらう予定とする。以上だ」
「「「はっ!!!」」」
こうして、謁見は終了した。
ヤマト連邦に渦巻く権謀術数。
あちこちで燻る武力衝突の火種。
そんな不穏な国に、タカシたちは乗り込むことになってしまったのだった。
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