672話 我が王なり
サザリアナ王国王城、謁見の間。
「ネルエラ陛下。ベアトリクス殿下、ソーマ騎士爵、ハイブリッジ騎士爵の3名がお着きになりました」
「扉を開けよ」
「はっ。失礼いたします」
近衛兵が謁見の間の扉を開ける。
すると……。
シュババッ!
3つの影が中に素早く入り込んできた。
もちろんベアトリクス、シュタイン、タカシの3人だ。
礼儀も何もない、無作法な入場の仕方である。
彼女たち3人は何やら間合いを取って睨み合っていた。
謁見の間の中にいた1人の青年がそれを見咎める。
「ベアトリクスはまた……。何をしている!! お前たち!!!」
そう注意の声を上げるのは、この国の第二王子である、コンラード=サザリアナ=ルムガンド。
彼は今年で24歳。
金髪碧眼の美男子であり、長身痩躯、端正な容姿の持ち主だ。
そしてその身に纏うのは、白銀の鎧とマント。
魔法の腕も一流であり、若くして魔法師団の副団長を務めている。
さらに、王族の嗜みとして剣術の腕も相当に高い上、内政についての知識も修めている。
まさに文武両道。
そんな彼こそが、現国王ネルエラの息子である。
「やれやれ……。ベアトリクスはいつまでも子どもだな……。しようのない……」
コンラードが呆れ果てた声を出す。
「黙れ! 兄上!!」
ベアトリクスが怒鳴り返す。
そして、言葉を続ける。
「だいたいコイツらが勝手なことをするせいで、国の統一的な施策が遅れるのだ! 国内の魔物や不法者の掃討なら、我1人にやらせてくれた方がいくらかいい働きをするぞ」
ベアトリクスがシュタインとタカシを指さす。
ここまでの道中で、口喧嘩が大きくなってきていたのだ。
そしてタイミング悪く、まさに謁見の間へと入る瞬間にそれが最大となった。
もちろん、言われるがまま黙っているタカシとシュタインではない。
まずはシュタインが負けじと口を開く。
「ずいぶんでかい口を聞くものだ。殿下の実力など本来どれ程のものか思い知らせてやろうか。私の奥義”花鳥風月”でな!!!」
シュタインが木刀を構えながら叫ぶ。
王城への入場にあたり、金属製の刀剣類は預けていたが、彼の実力であれば木刀であってもそれなりには戦える。
殺傷力は格段に落ちるが、実力を見せつけるだけであれば十分だ。
「なにぃっ! ならば我の剣技を見せてやろうか!? ”剣姫”の二つ名は伊達ではないぞ!!」
ベアトリクスも即座に反応する。
彼女は腰のレイピアに手をかけ、一気に抜き放つ。
ちなみにこのレイピアも木製のものだ。
「くだらん……。取るに足らぬわ、お前たちの武技など……!!! 俺の”紅剣”を用いた”斬魔剣”こそ最上の武技。試してみるか?」
タカシがそう言いつつ、両手で木刀を構える。
彼の二つ名にもなっている紅剣アヴァロンは、アイテムルームの中だ。
別にいつでも取り出せるのだが、さすがにこの場で金属製の刀剣類を取り出すほどのバカではない。
ちなみに、見ての通り空間魔法の使い手にとっては武器の没収など何の意味もなさない。
こういうのは気持ちの問題だし、大きな武具を収納できるほどの空間魔法の使い手が希少なので考慮する必要性が薄いという事情もある。
ベアトリクス、シュタイン、タカシ。
3人が武器を構えて睨み合う。
「ええい!! いい加減にしろ!!! ネルエラ陛下の御前だぞ!!」
その様子を見かねたコンラード第二王子が一喝した。
だが、ベアトリクスたちがその言葉に納得した様子はない。
それもそのはず。
謁見の間にある玉座に、ネルエラの姿が見当たらないのだ。
「御前? そのネルエラ陛下はどこにおられるというのだ」
彼女がそう言った瞬間だった。
「スキあり!!!」
「「「!!!」」」
バリリッ!!
突如として発生した謎の攻撃が3人を襲う。
「ぐっ」
「がは!!」
「ウ!!」
タカシ、シュタイン、ベアトリクス。
それぞれが苦しげな声を上げて吹き飛ばされた。
「くっ。一体何が起きた?」
「これは……」
「チッ。またやられたのか」
各々が体勢を整えつつ、驚きと怒りの声を上げる。
「はっはっは!」
そんな中、1人の男性の笑い声が謁見の間に響き渡る。
3人に攻撃を加えたであろう攻撃の主は、いつの間にか謁見の間の玉座に座っていた。
「我が、王なり」
それは威厳のある重々しい声で、聞く者に有無を言わせない迫力があった。
「ここにいるじゃあないか……」
彼は玉座にどっしりと座り、そう呟く。
この男こそ、サザリアナ王国の現国王であるネルエラ=サザリアナ=ルムガンドであった。
「お前たち、まだまだ甘い。我がサザリアナ王国の将来を担う者として、お前たちには期待しているのだ。もっと精進せよ」
ネルエラが鷹揚に語る。
そんな彼に対し、シュタイン、タカシ、ベアトリクスは抗議の視線を向ける。
「何をなさる!!!」
「……」
「全く……。お戯れを……。そんな事を言うため、我に彼らを呼びに行かせたのですか?」
「はっはっは! そんなわけがあるまい。そんなつまらん理由で呼び出したりはしない。今のはほんの戯れ。今日はお前たちに頼みがあって呼んだんだ」
ネルエラが楽しげに笑う。
これが、タカシとネルエラの最初の出会いとなったのだった。
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