671話 一触即発の3人

 タカシはシュタインやベアトリクスと共に、王城に入る。

 そして、ベアトリクスの先導の元、謁見の間への道を歩いて行く。


 タカシは少し緊張している様子だ。

 街に入った直後に別れたミティやアイリスはもちろん今この場にいない。

 その上、先ほどまで共にいた蓮華、キリヤ、レインたちも王城の手前で止められてしまった。

 ハイブリッジ家としては、今この場にタカシ1人である。

 シュタインとベアトリクスがいる分、完全な1人ぼっちというわけではないのがせめてもの救いだろうか。


「俺たちが……ンン、ンンンーン!!」


「おい……」


「ンンン……ンンンン!!!」


「おい!!」


 タカシの言葉に対し、隣を歩くベアトリクスがツッコみを入れる。


「喋りにくいだろ。下唇を噛んだままだ」


「!!!」


 タカシがうっかりという表情をする。

 緊張のあまり、普段はしないようなミスをしてしまった様子だ。


「我が盟友タカシが言いたいことは分かる。私たちがネルエラ陛下に呼び出された理由が気になるのだろう?」


「ふん。それは我の知るところではない。だが、普段から問題だらけの貴様たちだ。どうせこってりと絞られるのだろう。覚悟しておくがよかろう」


 ベアトリクスがそう言ってニヤリと笑う。


「むぅ。確かに、私は闇の瘴気に飲み込まれかけるという失態を犯した。だが、その言い方はあんまりではないか」


「その通りだ。俺も騎士爵を授かる前の話ではあるが、闇の瘴気には苦い経験がある。あまり厳しく追求してほしくはないな……」


 シュタインとタカシが抗議の声を上げる。


「ハッ! そんなことではない。失敗は誰にでもあるし、闇の瘴気の対策は難しいものだ。それぐらい、王家も把握している」


「なら、何だというんだ? 私にはまるで心当たりがない。なあ? 盟友タカシよ」


「おう。騎士爵を授かった身として、俺もシュタインもしっかり働いてきたつもりだぞ」


 ソーマ騎士爵領の領都リバーサイドはなかなかに発展しており、治安も良好だ。

 そしてハイブリッジ騎士爵領の領都ラーグは、ここ最近で急速に発展しつつある。

 彼が王都への道中に寄った村でもその発展ぶりは噂になっていたし、彼の自惚れではない。


「我が言っているのは働きのことではない! 貴様らの女癖の悪さだ!!」


 ベアトリクスがそう叫ぶ。


「女癖?」


「はて?」


 シュタインとタカシが揃って首を傾げる。


「とぼけるな! ソーマ、お前は第九夫人を新たに娶っただろう!?」


 ベアトリクスがシュタインを指さす。


「ああ、そうだな。それがどうかしたのかい?」


「どうかしたのかい、じゃない!! 騎士爵で第九夫人まで娶るなど、普通では考えられんのだ!」


「確かにそうかもしれないな。ま、これからは控えめにするつもりさ。彼女には、闇の瘴気に汚染されていたときに手を出してしまった負い目があるからな」


 シュタインがそう弁明する。

 彼が新しく妻に迎え入れたのは、食事処の店員だ。

 タカシたち一行がリバーサイドに到着した日に食事をした店の店員である。


「ははは。盟友シュタインも大変だな」


「他人事ではないぞ、ハイブリッジ! 貴様にも問題がある!」


 ベアトリクスがタカシをビシッと指差す。


「俺にもか……。俺だって、それなりに誠実に生きてきたはずだが……。一体どんな問題が?」


 タカシは不思議そうな顔をする。


「貴様も第八夫人まで娶っているだろう!? 人数こそソーマ騎士爵より少ないが、貴様の場合は短期間に増やしすぎだ! 合同で結婚式を挙げること自体が珍しいというのに、まさかの5人同時だと!? 祝いの席で騒ぐことは避けたが、あれだけ派手にやれば嫌でも印象に残る!」


「うっ……」


 タカシが痛いところを突かれたような表情を浮かべる。


「さらに言えば、まだ増やそうとしているだろう!? パーティメンバーに、ハイブリッジ家で御用達にしている冒険者、魔導技師。冒険者ギルドの受付嬢。妻の付き人。……女好きも大概にせんか!!」


 ベアトリクスがタカシを叱りつける。


「確かにその通りだ。だが、俺はただ彼女たちのことが好きなだけだ。愛しているんだ」


 タカシが真剣な顔で答える。

 さらに言えば、実利的な要素もある。

 彼が女性と確かな絆を結べば、加護スキルによりその者の能力が格段に増すのだ。


 ベアトリクスが指摘した蓮華、雪月花、ジェイネフェリア、ネリー、オリビア。

 他にも、メイドのレイン、リン、ロロ、道中の村で出会った幼女ラフィーナなどの存在もある。

 彼のハーレムパーティはまだまだ拡大を続けているのだ。


「だからと言って、節操なしすぎると、問題が起こるかもしれん。特に貴族社会においてはな」


「むぅ……」


「ぐぬ……」


 ベアトリクスからの一方的な糾弾に、タカシとシュタインが不満げな表情をする。


「フンッ。まあいい。どうせネルエラ陛下からもお叱りを受けるのだ。我からの注意はこの辺で勘弁しておいてやろう。陛下のお言葉は真剣に受け取れよ?」


 ベアトリクスがニヤリと笑う。


「「…………」」


 タカシとシュタインに反論の言葉はない。

 しかしプライドを刺激されたのか、2人とも悔しげな様子だ。

 一触即発の空気が流れる。

 そんな中、3人は謁見の間の前に到着したのだった。

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