668話 俺は両手を使わないでおいてやろう

 俺は騎士団の小隊長3人と対峙している。

 槍、剣、短弓とそれぞれの得物を構えた騎士たち。

 まずは長槍を持った騎士が突撃してくる。


「くらえっ!」


「ふんっ」


 俺は半身になってそれをかわす。


「ちいっ!」


 槍使いの男は舌打ちしながらバックステップする。

 同時に、今度は別の男が矢を放ってきた。

 放たれた矢が俺の顔面目がけて飛んでくる。

 先端は丸まっているのでどう当たっても致命傷にはならないだろうが、わざわざ当たってやる必要はない。

 俺はしっかりと目で矢の軌道を捉え、余裕を持って避ける。


「なにぃ!?」


 驚愕の声を上げる男。


「馬鹿なっ!?」


「あの速度の矢を避けただとぉ!」


 残りの騎士たちも驚きを隠せないようだ。

 まあ、驚くのも無理はない。

 放たれた矢を見て避けるなんていう行為は、普通はできないからな。

 俺はステータス操作で視力強化を取得済みだから、この程度は簡単なことだが。


「おいおい……。お前らの実力はその程度なのか? これでは、暇つぶしにもならないぞ」


「くぅ……」


「黙れぇ!」


 騎士たちが再び襲ってくる。


「くらえ!」


「くらいやがれ!」


 左右に分かれて、剣と槍による攻撃を同時に仕掛けてくる騎士たち。

 なかなかのコンビネーションだ。

 しかし……。


「遅い」


 俺は最小限の動きで攻撃をかわすと、それぞれの騎士の腕に枝を叩きつけた。


「ぎゃあっ!?」


「痛てえ!?」


 2人は悲鳴を上げながら武器を取り落とす。

 元はただの枝でも、闘気を流し込めばそれなりの強度を発揮するのだ。

 もはや痛みでまともに武器は持てないだろう。


「くそがぁ!」


 最後に残った短弓の男が俺に狙いを定めようとする。

 しかし、俺はそれよりも速く動き、男の背後に移動した。


「なにっ!? どこへ行った!」


 突然、俺を見失った弓使いの騎士はとまどう。

 俺はその隙に、騎士の尻に枝を突き刺した。


「ぐおおおおぉっ!?」


 弓使いの騎士が悲鳴を上げて倒れ込む。


「よし……。これで全員片付いたな」


 騎士たちはそれぞれ手や尻を押さえて悶絶している。

 どう見ても戦闘不能だ。

 まあ、死にはしないと思うが……。


「「「…………」」」


 観戦していた騎士団の面々が沈黙している。

 ただ、レティシアとナオミだけは目を輝かせていた。


「す、すごい! 小隊長たちを一瞬で倒すなんて!」


 レティシアが興奮気味に言う。

 ナオミも同じ気持ちのようで何度も首を縦に振っている。


「ふん。この程度、大したことはない。相手が弱すぎただけだ」


 俺はそう言う。

 まあ一般的にはそれなりに強い部類なのだろうが、チートの恩恵を多大に受けている俺の敵ではないな。


「くっ……」


「おのれ……」


 観戦していた騎士たちが悔しそうな声を出す。

 彼らはおそらく、一介の騎士だろう。

 倒れている小隊長たちの部下といったところか。


「さて……。次は誰が出てくる?」


 俺は挑発するように言った。


「ぐ……」


「小隊長たちの敵を……」


「だが、小隊長が手も足も出なかった男に、俺たちが勝てるのか?」


 騎士たちが顔を見合わせながら言い合う。

 どうやら誰も名乗り出る気がないらしい。


「ならば、こういうのはどうだ?」


 俺は提案する。


「お前たちが束になってかかってこい。その上、俺は両手を使わないでおいてやろう」


「なにぃ!?」


「貴様……。我らを愚弄するか!」


「ふざけるな!」


 騎士たちが激昂するが、俺は気にせず続ける。


「お前たちに一欠片でもプライドがあるのならば、俺を倒してみるがいい。ほら、早く掛かってこないと小隊長たちがどうなっても知らないぞ?」


 俺は倒れたままうめいている3人に近づく。

 そして、その内の1人の顔に足を乗せた。


「ぐむっ!?」


 踏みつけられた騎士の顔が苦痛に歪んだ。


「おいっ!? 何をしている!」


「止めろ!」


 他の騎士が慌てて制止してくる。


「ははは。止めたいなら、言葉ではなく行動で示してくれよ。でないと……。このままコイツを踏み潰してしまうかもしれないぜ」


「な、なんて奴だ!」


「ふざけやがって!」


「やってやらぁ!」


 騎士たちが剣を抜き、俺に向かってきた。

 ええと……。

 全部で10人ほどか。

 レティシアとナオミを除く、この場の騎士全員が俺を倒そうと向かってきているわけだ。


 ……ちょっと調子に乗り過ぎたかな?

 いかんせん、久しぶりの模擬試合だったからな……。

 レティシアやナオミにカッコいいところを見せようと張り切ってしまった。

 あと、この場に同行してきた蓮華、レイン、キリヤも見ているし。


「うりゃあ!」


「くらえ!」


「とうっ!」


 10人の騎士のうち、3人が同時に攻撃してきた。

 3方向から同時の攻撃。

 普通の相手であれば、避けることも防ぐこともできないだろう。

 しかし……。


「甘いな」


 俺は最小限の動きでそれらの攻撃をかわすと、3人を蹴り飛ばした。


「「「ぎゃあっ!?」」」


 3人が悲鳴と共に弾き飛ばされる。


「なにぃ!?」


「馬鹿な!?」


 騎士たちが驚愕の声を上げる。


「おい。まさか、それで終わりじゃないだろうな? 得物どころか手すら使っていない俺に負けるのか?」


 俺は余裕たっぷりに言ってやった。


「くそっ! 舐めるなぁ!」


「もう許さん!」


「ぶっ殺してやる!」


 残りの7人が一斉に襲ってきた。


「……鳴神」


 俺はそれを見据えると、彼らの武器が振り下ろされる前に一気に間合いを詰め、全員の腹に蹴りを叩き込んだ。


「「「ぐぼぇっ!?」」」


 7人は奇妙な声を上げて吹き飛ぶ。


「な、なんだ!? 今の動きは!?」


「全然見えなかったぞ!?」


「ば、化け物め!」


 何とか起き上がった騎士たちが口々に叫ぶ。


「ふん。まだやるか?」


 俺は挑発するように言った。


「当たり前だ!」


「我ら誇り高き騎士団を敵に回したこと、後悔させてやる!」


「最後まで戦い抜いてみせる!」


 騎士たちが威勢よく叫ぶ。


「なるほど。その根性だけは認めてやる。さあ、来い! 全員まとめて叩き潰してくれる!」


 俺はそう宣言すると、再び臨戦態勢を取ったのだった。

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