667話 我ら、小隊長三人衆
見習い騎士ナオミや中隊長レティシアに軽く稽古をつけてやった。
それ自体はいいのだが、軽くあしらいすぎたせいで彼女たちが他の騎士たちに馬鹿にされてしまった。
俺の正体をまだ明かしていないのも一因だ。
責任を取って場をとりなす必要がある。
「改めて言うが、レティシア中隊長は強いぞ?」
俺は騎士たちに向かってそう言った。
「ははは! 気を遣わずとも結構!」
「所詮は女。我らの上に立つ器ではなかっただけのこと」
「これは我らの問題。部外者は引っ込んでいてもらおうか」
騎士たちが嘲笑する。
まあ、こうなるよな……。
俺だって同じ立場なら侮るだろう。
なにせ、自分の上官が、名もなき一介の兵士に負けたのだから。
「やはり言葉で言っても分からないか。では、証明してやるとしよう」
俺はわざとらしく言いながら、ゆっくりと彼らに近づいていく。
「証明だと?」
「ああ。レティシア中隊長は強い。俺にあっさりと負けたのは、俺が段違いに強すぎるだけの話だ」
「ふんっ。ソーマ騎士爵の部下だから、それなりには強いのだろう。だが、段違いとまでは言えないな。先ほどの戦いも、それほど大したことのないレベルだった」
騎士の1人が俺を見下すように見つめてくる。
うーん……。
大したことない、か。
俺が闘気や魔力を全開にすれば、大抵の相手に対して出力の差だけで圧倒することができる。
ただ、それでは相手の練習にならない。
”自分で育てたキャラを用いて戦う格闘ゲーム”を想定して、例えてみよう。
上級者(俺)と中級者(レティシア)を隔てる壁は大きく2つある。
1つは、キャラ性能の差。
もう1つは、操作の的確さの差だ。
キャラ性能は一朝一夕で育つものではない。
この場で俺が魔力や闘気を全開にして圧倒したところで、レティシアの能力が引き上げられるわけではない。
だから、俺はレティシアと戦う際に魔力や闘気を控えめにして、純粋な剣術のみで戦った。
戦っている本人のレティシアからすれば、大きな差を感じたことだろう。
何せ、身体能力に大きな差はないはずなのに、剣技だけは完全に俺が上回っているのだから。
しかし、それを観戦していた騎士たちからすれば、地味な戦いのように見えたのかもしれない。
大したことのないレベルだと思われても仕方がない面はある。
だが……。
「おいおい……。さっきの戦いを見て何も学ばなかったのか? 王都騎士団と言ってもその程度の実力しかないとはな」
ちゃんと見ていれば、技巧面だけでも高いレベルにあったことが感じ取れたはずだ。
見せかけの身体能力の高さだけでレベルの高低を判断するようでは、程度が知れるというものである。
「なんだと!?」
「我らを愚弄するか!」
俺の言葉を聞いて、騎士たちはいきり立つ。
「俺は事実を言っただけだ。お前たちはレティシア中隊長の実力を過小評価している。そして、この俺の実力もな」
俺はあえて挑発的な態度をとることにした。
もちろん、本当はこんなことをしたくはない。
レティシアの汚名を返上するだけなら、俺が単純に正体を明かせばいい話だ。
しかし、相手がその気になっている以上は、その流れに乗るほうが手っとり早いと思ったのだ。
「……面白い」
「いい度胸だ」
俺の意図通り、騎士たちが殺気立ち始める。
「ならば、お望み通りに相手をしてやる!」
3人の騎士が前に出てくる。
それぞれ長槍、長剣、短弓を携えていた。
いずれも王国騎士団の標準装備である。
「ほう。お前たちが相手をしてくれるのか」
「その通り!」
「我ら、小隊長三人衆!」
「貴様を成敗してやろう」
騎士たちの視線が鋭くなる。
どうやら、本気でかかってくるつもりらしい。
小隊長といえば、俺の配下のナオンと同じ階級だな。
冒険者ランクで言えば、Cランク下位と同程度だったか。
もちろん大雑把な比較の話であり、その能力の方向性は異なるが。
「いいだろう。相手をしてやる」
「そうこなくてはな」
騎士の1人が不敵に笑う。
「では、”豪槍”の二つ名を持つ我から……。いざ尋常に勝負!」
彼はそう言って、一歩前に出て槍を構える。
「はぁ? お前は何を言っている?」
「……なに?」
豪槍くんが怪訝な顔をする。
「いや、だから。お前ごときが1人で俺に適うはずがないだろう? そっちの剣と弓の2人もまとめてかかってこい」
「なっ……!?」
「なんという侮辱」
「我らを愚弄するのも大概にせよ!」
騎士たちが憤慨する。
「侮辱ではない。事実を述べたまでだ」
「ぐぬぬ……」
「貴様……。覚悟はできているのだろうな」
「我ら3人の連携を前に、無事でいられるとは思わぬことだ」
騎士たちが口々に言う。
俺はその様子を見て、内心でため息をつく。
まったく……。
「御託はいいから、早く来いよ。まさかとは思うが、怖気づいたのか? ……ああ、ひょっとして俺の剣が怖いのか」
俺はそう言って、持っていた剣をアイテムルームに収納する。
そして代わりに、たまたま入れていた木の枝を取り出した。
「ほら、これで怖くないだろう?」
「なっ!?」
「俺は兎を狩るのに全力を出す愚かな獣とは違うんだ。お前たちごとき、これで十分。さあ、かかってきたまえ」
「き、貴様あああぁっ! ふざけるなあああぁっ!!」
騎士が激高し、俺に向かって突っ込んでくる。
他の2人もそれに続く。
さあ、お勉強の時間だ。
軽くもんでやることにしよう。
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